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満月の夜の出来事

 鈴が作ってくれた“おかゆ”を皆で食べることになった。


「余っていたからチャーシュー持ってきたよ」

「……肉は好きだからいいや。おかゆの付け合せに梅干しに、昆布の佃煮。それにゆで卵に、サラダ、味噌汁まで。しかも豆腐とわかめが入ってる!」

「奮発しちゃった。さてと、シルフ用のはお盆に乗せて持っていくか」

「手伝うよ」


 そう言って俺は食事を持って、鈴と一緒にミルルの部屋を訪れる。

 軽く部屋のドアを二回叩いて、


「ミルル、食事を持ってきたんだが」

「……ありがとうございます」


 間があって返事があって部屋に入る。

 だいぶ体は良くなっているのか、顔色が良くなっている。

 とりあえず、はじめて食べるものだろうから、説明をする。そして、


「美味しいです」

「良かったミルル、作りがいがあるよ。味覚って色々あるし」

「はい、初めて食べましたがとても美味しいです。鈴、ありがとう」

「ここ周辺の食事の味も私達の口に合うから味覚の好みが近いのかもと思っていたけれど、良かった―」


 鈴なりに色々考えているらしい。

 そしてミルルが全部食事をしてから、シルフ達と俺達も食事する。

 

「鈴が作ってくれたせいか、不思議な味で美味しいです」

「本当に美味しいよー」


 “魔法の精霊ステッキ”の精霊であるミィも食べている。

 どうやら飼っている精霊はどういう理屈かは分からないが食事がいるらしい。

 そういえばプリンやらクッキーやらを食べていた。


 ……異世界の理屈は良く分からないので放置だと俺は思った。

 そして食事をして、俺は久しぶりの和食を楽しんだのだが、


「じゃあ今度はカレー作ったら呼んでね」

「店はどうするんだ?」

「交代で行くし、明日は夕方、五時から六時の間は空いているから……よろしく」

「食べに来る気か。分かったよ」


 そう俺は答えて鈴と別れる。

 そして、鈴は買い物があるからと楽しそうに俺の家から出て行ったのだった。






 本日は満月。

 “淫魔”としての何かがあるらしいので俺は部屋の鍵をかける。

 ミルルは風邪をひいているが、一応。


 そう思いながらベッドに横になる。

 毎日が圧縮されたように色々ありすぎて、疲れる。

 

「あの魔石を探してくる怪盗の件もあるしな。はあ、でも今日は寝よう。色々あって疲れた。見るるもあれで少しは元気になるだろう」


 そう呟いて俺は、ゆっくりと瞳を閉じる。

 けれどどういうわけかなかなか寝付けない。

 そっと窓際に近づき、カーテンを少し開く。


 外は静かだ。

 静かな、月明かりの中で青い影を落とす街並み。

 異国の風景が広がる。


 違う風景も綺麗だと思うが、空に浮かぶ丸い満月を見ているとこの光景は同じなのに、異世界なんだよなと思う。

 なので俺はすっとスマホを取り出し、


「女神様!」

「何かしら、確かじゃそっちは深夜だったはずよね。こんな夜中に私を呼んでどうするつもり?」


 甘く囁くように女神様がスマホから現れる。

 ふわりと白い髪が揺れ、白い月の光に輝く。

 それはとても幻想的で神秘的で……けれどこの笑顔は何処かでみた事があるような……そんな気持ちになっているとそこで、


「それでタイキのご用は何?」

「俺を元の世界に戻して下さい!」

「あら、ホームシック?」

「はい! そろそろ一回日本に一時帰国を……」

「だーめ」

「せめて、目的を教えて下さい」

「うーん、すでに目的は少し果たされているから、この調子でよろしく」


 微笑んだ彼女に一瞬目を奪われて動けなくなる俺。

 そんな俺に女神様がゆっくりと近づいてきて、顔が俺の視界いっぱいに広がって、そこで、


「タイキ、いる?」


 そこでミルルの声が聞こえた。






 ミルルの声が聞こえたと思うと女神様はすっとスマホの中に消えてしまった。

 逃げられてしまったと気付いた俺だがまだ外から、ミルルの声が聞こえる。


「タイキ、開けて下さい」


 けれど今日が満月なので、“淫魔”なミルルがアレな事になるらしいと事前に聞いている。

 だから俺は部屋の鍵をかけたまま、


「ごめん、今日は開けてはいけない気がするんだ。前はミルルに頼まれたし……それに体調が悪かったよな?」

「そうです、体調が悪いんです。だから開けて……」


 そうねだる様に、ミルルが囁く。

 そこで鍵をかけたドアがガタガタと揺れる。

 ミルルがドアノブをガチャガチャしている。


 大丈夫、鍵がかかっていると思った所で、どんどんドアをける音がする。

 ミルルにしては随分と過激な方法なのだがどうしようかと思っていると、そこでドアが俺の目の前で金具が吹き飛んで倒れてくる。

 俺は慌ててそれをよけるが、


「ようやく開いた。うふ」

「ミ、ミルル?」

「酷いですタイキ。私がお願いしているのに開けてくれないなんて。でももう私から逃げられませんよ?」


 そう言ってミルルは俺を見てぺろりと舌舐めずりをする。

 そんなミルルを見ながら俺は、“淫魔”なミルルにそういった意味で……いやいや、そんな都合のいい事があるはずがない。

 これは用意周到な罠だ。


 きっとこれから俺、俺の予想と違う方向に……。

 そこでミルルに俺は抱きつかれ、そのままベッドに押し倒された。

 服越しにミルルの温かい体温と、なんというかこう、女の子らしい匂いがする。


「ふふ、これでタイキは逃げられませんね」

「え、えっと、ミルルは体調が悪い……」

「ええ、何だか暑くて。……服、脱いでしまおうかしら」


 そう言って、俺の目の前に胸が見えるようにそっと白くて細い指を服にかけて……。

 そこで人影が一つ。


「お姉様! ごめんあそばせ!」


 ミルルが何かを持って、ミルルの頭を殴った。

 それと同時にミルルがばたっと俺に抱きつくように倒れる。

 何だかミルルに押し倒されて体を密着している正体なので俺は何かとてもいけないような事をしている気になっていると、そこでシルフが、


「お邪魔しました。今日は私、お姉様と一緒に寝ますので。では」

「あ、うん」


 こうして、満月の夜の俺の貞操は守られたのだった。


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