“おかゆ”?
俺は小さな“もこもこ花”を根っこごと回収した。
こうすることで、余ったならミルル達のために畑で育てようと思ったからだ。
そう思いながら俺は、それを回収して革袋に放り込み、鈴と一緒にかけ出した。
「ま、まだ魔石、全部拾ってないぃいいい」
「サーシャ、それよりも今はミルルのほうが大事なんだ」
「分かってます、分かっていますけれど魔石ぃいい!」
サーシャが泣き叫んでいるのを遠い目をして俺は聞きながら、窓から飛び降りる。
もちろん道具を起動させてだ。
降りるときもコウモリが襲ってきたが、俺達が落ちる速度よりは遅い。
そして地面にある、先ほど倒した火の魔法を使うコウモリの羽を、2つほど回収する。
そのまま鈴と一緒に駆けて、駆けて、駆けて……。
「タイキ、何だか駆け落ちみたいだと思わない?」
「その冗談は面白く無いな」
「なんでなんで?」
「いままで彼女がいたことがないからだ!」
「……なにそれ、相変わらずタイキは面白いな。そういった所は好きだよ?」
「それはどうもありがとう」
そう適当に受け答えする俺。
今はそれどころではないのだ。
そして急いで家にまで帰り、
「いま帰ったぞ!」
「遅いです! お湯は私が沸かしておきますから、タイキ達は“もこもこ花”を出して、そこの椅子で休んでいて下さい。……お茶は用意してあります」
シルフが微妙にツンデレのような感じで俺達に休むよう言う。
しかも茶まで用意している。
白い陶器のポットから注ぐと、冷えた紅茶のようだった。
ちなみに鈴が俺の分まで注いでくれて、その間に俺は“もこもこ花”を取り出す。
そこそこ小さい物を採ってきたつもりだが、もしかして大きな物の破片の方が良かったのだろうかとも今更思う。なので、
「シルフ、小さい物で良いのか?」
「それはまぁ……大きくなると処理が面倒、って! 採りすぎです! こんな山のように……」
「いや、量がどれくらい必要なのか分からなくて……」
「……一掴みで良かったのです。残りは干しましょうか」
「だったら植木鉢と外の借りた畑で育てるよ。“淫魔”には必要な風邪薬の様なものなんだろう?」
「それはまあ……よろしく」
そう小さく呟いて頬を赤くしながらシルフが茶を作りに行ってしまう。
そこでサーシャが自分の魔石を持って悲しげにふよふよとシルフの部屋に戻り、そこで“魔法の精霊ステッキ”の精霊のミィの怒る声が聞こえる。
「ちょっとサーシャ! 私を置いて何処で遊んでいたの!」
「ちょっ、ま、待って、ミルルの体調が悪くて薬草を採りに……」
「飼っている精霊を置きっぱなしにして外を出歩いて許されると思っているの!」
「……もしかしてミィ、寂しかった?」
サーシャが問いかけると部屋から何も聞こえなくなる事数秒、
「か、勘違いしないでよね! 別にサーシャのためじゃないんだからね!」
「ミィ、ごめんね。そして、今度は眠っていても叩き起して連れて来てあげるからね」
「サーシャ……サーシャのくせに生意気な……調子に乗るにゃああああ」
「いやぁああっ、猫パンチ痛いっ、痛いぃぃいい」
相変わらず仲が良いなと思いながら俺は紅茶を飲む。
程よく冷えた紅茶は飲み心地がとても良い。
そう思っている間に、花を煎じた飲み物を氷でやかんごと冷やし、コップに次いでシルフに持っていく。
「お姉様、お姉様!」
「……シルフ? あれ、私……」
「薬です。飲んで下さい」
そう言われて様子を覗きいった俺の前でシルフが薬を飲む。
少しずつ飲み込んですぐにコップ一杯飲んでしまう。
そこでふうと嘆息してミルルは、
「私……“淫魔”の風邪にかかっていたのですか?」
「そうです、タイキ達が“もこもこ花”を採ってきてくれたんです」
「あれは野生の物は、レベルの高い遺跡にしか……ああ、でもきっとタイキ達なら大丈夫ですね。ありがとうございます」
そうぼんやりとした瞳でミルルが俺に言う。
昼間俺にやけに懐くような感じだったが、もしかしたなら風邪のせいなのかもしれない。
なので俺は、
「今日はゆっくりしているといい。薬を飲めば楽になるんだろう?」
「はい……お言葉に甘えさせて頂きます」
そう言って目を閉じるミルル。
シルフに小声で薬はあれくらいで良いのかと聞くと、
「ええ、十分です」
「じゃあ残りは革袋に入れておこう。保存には良さそうだし、後で植木鉢も買ってこよう」
「……タイキは親切ですね」
「下心があるからな」
そう冗談を言うとシルフが、むっとしたように黙る。
お姉ちゃんが大好きなんだなと思いながらそこで鈴の方に戻ると、
「どう? ミルルの様子」
「うーん、体調が悪いみたいだ」
「あれどうなの? キラキラした伝説のキノコがあったじゃない? 夕食にあれを食べさせれば良いんじゃない?」
「なるほど! ……あ、今日はカレーを作ろうと思って、あ!」
そこで俺は思い出した。
今日の夕食の材料は、遺跡に行く途中で手に入れようと思ったのだ。
けれどこうなってくると、
「新鮮採れたて野菜は諦めて、スーパーで買ってくるか。……近くで取れるなら新鮮だろう」
「? 遺跡の近くで新鮮な野菜が取れるの?」
「らしいぞ?」
「へー、私もついていこうかな、今度」
「本当にな。米も手に入るはずだったのに……はあ」
何日もお米のない生活は、俺もキツイなと思っているとそこで鈴が、
「お米ならあるよ。そうだね、折角だから夕食作ってあげようか。ミルルにはおかゆで」
「! 本当か! わー」
「ここに来て懐かしくなる気持はよく分かるもん。じゃあ待ってて、すぐ持ってくるから。私の女の子スキルを見せてあげるわ!」
「楽しみにしているよ」
そう答えると鈴は俺のうちから出ていた。
久しぶりの和食と思うと、なんか幸せな気持ちになる。
「そろそろ1回里帰りをしたいよな。いつまで俺はこっちにホームステイしなきゃいけないんだろう……さて、必要な調味料に、道具を用意しておくか」
鈴が来る前に、色々準備しておいたほうがいいだろうと思う。
そこでシルフがやってきた。
「あれ、鈴は帰ったのですか?」
「いや、今日は夕食を作ってくれるそうだ。ミルルには“おかゆ”を作ってくれるそうだし」
「? “おかゆ”?」
「米を柔らかく煮た物で、病人に、俺のいた世界の地域では食べさせるんだ」
「そうなのですか。……美味しそう」
「そうか? なら俺達の分も“おかゆ”にしようか。塩を振っただけでも米の旨味が感じられて美味しいし」
「お米はあまり食べた記憶が無い……昔、デザートで食べた記憶がある」
「……お米のデザート。う、うん、まあいいんじゃないのか?」
もち米ならおはぎもあるし、おかしくはない……のか? そう俺が思った所で、鈴の階段を上がる音が聞こえたのだった。




