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そんな変人放っておけばいいんだ

 エイネの眠らせるその声で、耳を塞がなかった人達がパタンと倒れる。

 そして、お客の中にも数名眠ってしまった人達もいて。

 そこで、偽物だと言われていた方の怪盗っぽい男が、そのまま走り去ってしまう。


 後にはだらしなく大の字で道に転がる怪盗コスプレの男が一人。

 周りの観客はざわざわとしていて、特に手出ししようとしない。

 そこで倒れていたのその自称本物の怪盗……怪盗バンバラヤンが飛び起きた。


「は! 眠ってしまった。だがそんなものでこの私から逃げられると思うなよ! とうっ!」


 その怪盗バンバラヤンは何処かへと走り去って行った。

 それを見送りながら、警官達は何をしているんだろうなと思っているとそこで、


「あーん、ここであの怪盗を捕まえておけばお手柄だったのに、失敗したわ」


 エイネが悔しがっているのだが、だったら捕まえてと叫ぶか自分ですればいいのではと思った。

 そこで店長らしき人がやってきて、


「エイネ! お客様が眠っているがお前の仕業か!」

「え、えっと……」

「さっき怪盗バンバラヤンが現れたんですよ。両方逃げられてしまいましたが」


 そう俺が助け船を出すとその店主は、


「そんな変人放っておけばいいんだ。特に実害があるわけでもないんだし。それよりもこの昼時の忙しい時に混乱させないでくれ」


 店主の言い分はもっともだったので俺は黙りエイネはすみませんと謝っていた。

 ただいまの店主の言い方をきいていると、


「もしかしてあの怪盗バンバラヤンはただの痛い人の扱いなのか?」

「あれ、タイキ知らないの?」


 そこで鈴が俺ににやにやしながら話しかけてくる。

 そういえば鈴は俺よりも前にここに来ていたらしい。

 それを考えると、この町の事情には俺よりも聡いのかもしれない。

 なので俺は怪盗バンバラヤンについて聞いてみると、


「怪盗バンバラヤン、貴族だったりお金持ち、後は魔法使いの工房に忍び込んで魔石を回収するんだけれど、元通りだったり少し色を付けて返してくれるのよね」

「それが自分の物だってどうして分かるんだ? 魔石って魔力の結晶の様なものだろう?」

「別に、魔力の結晶としての価値しか望んでいない人が大半だから同じくらいの物であれば気にしないんじゃない? 一応装飾品は傷一つ無く……どころか手入れまでされて帰ってくるらしいし」

「……本当に目的不明というか、やっぱり何かを探しているのかな」

「ほんとにね、魔石関係の……ねえ」


 相変わらず鈴は楽しそうだが俺にとっては死活問題だ。

 というか鈴も気づいているのだろう。

 そう、“魔石”に関する何かを探している。


 ちなみにサーシャは魔石にとりついていて、今俺の腰に付けている箱に眠っている。

 ここでもし探しているのがサーシャだとしたら俺達はどうなるのだろう。

 あれか、姫を狙う不届き者として成敗?


 それとも姫を幽霊という立場からこき使うような、身の程知らずが、という意味で成敗?

 やばい、どうしよう……できるだけ怪盗バンバラヤンとは関わらないようにしよう。

 関係のないただの変な人だったとしても、目立ったら余計なことに巻き込まっる気がする。


「よし、関わらないようにしよう、全力で」


 そう呟いた俺に鈴がそこで、


「最近私思うのよね、主人公ってさ、何かに巻き込まれるのも主人公なのよね」

「そんな理不尽な……。それに巻き込まれたら、全力でどうにかしようとするのはだれでもそうだと思うし、主人公とはいえ無いだろう」

「でもさこの世界に連れて来られた時点で主人公のような気がしない?」

「……きっと気のせいで何かの間違いだ」


 俺はそう言って、そうじゃありませんようにと心の中で願った。

 そこでエイネがやってくる。


「またこってり店長に絞られたわ」

「ご苦労さまです」

「本当にもうね……ここ、クビになったらタイキ、私を養ってくれない?」


 突然言われた俺は凍りつく。

 エイネは相変わらずいたずらっぽく笑っていて、美人で、胸も大きくて……。

 そこで、俺とエイネの間にミルルが割り込んできて、


「エイネ……友達だと言っても許しませんよ?」

「あ、あれ、ミルル? ……そういえば今日って満月、あっ、察し」

「察して頂けたなら、程々にして頂けませんか」


 ミルルから立ち上る暗黒オーラ。

 ミルルらしくないその様子に俺はビクッとするがそんな俺にエイネはミルルを押し付けて店の中に引っ込んでしまう。

 そこでミルルが俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。


 ミルルの胸が俺の腕に触れる。

 しかも無言なので俺はどうやって会話をしようかと困っていると、


「タイキの腕に抱きついていると落ち着きます」

「そ、そうか、良かったな」


 そう俺は言いながらも抱きついてきたミルルに悪い気がしないでいると鈴具がそんな俺をニヤニヤ見ていた。


「な、なんだよ、鈴」

「別に―、シルフちゃん、デザート奢ってあげるから一緒に選びに行こう」

「……はーい」


 恨めしそうに俺をシルフが見て、シルフは鈴と一緒にデザートを買いに行ってしまったのだった。






 そして俺達はなんだかんだで鈴と一緒に自分の家に帰った。

 その間ずっとミルルはくっついていたのだが、家に帰るとふらふらとしたように倒れこんでしまう。

 今日は満月なのが良くないらしい。


 なので暫くベッドで休むと告げてミルルが自室に戻っていく。

 シルフはサーシャと一緒にまた謎ゲームを楽しむらしい。

 俺からサーシャの本体の魔石を持って部屋に走って戻っていく。

 それを見送った俺と鈴だが、


「全くシルフとサーシャは本当に仲がいいな」

「そうだね~、気の合うお相手に年齢は関係はないのかもね」

「そうかもしれないな。えっとそれで、魔法使い用の部屋と錬金術士用の部屋が見たいんだったか?」

「そうそう、なんかここってとても設備が良さそうじゃん? 一度見たかったのよね」

「借り物だから壊さないでくれよ?」

「はーいっと。そういえばさ、怪盗バンバラヤンってさ魔石を狙っているんだわ」


 突然話を変えてきた鈴に俺が訝しげな顔をしていると鈴は更に分かってないなと笑って、


「そのターゲットって魔石を使う魔法使いや錬金術士といった人たちや冒険者も含まれるのよね」

「……まさか」

「そう、多分私達も彼のターゲットになっているから、そのうち合うことになるかもね」

「……絶対に会いたくない」


 そう俺は鈴に呟いた、その時だった。


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