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油断は禁物ですよ

 ミルル達に任せたものの、


「大丈夫かな、ミルル達。鈴がいるからいざとなれは火力でゴリ押しが出来ると思うんだが、不安だ」


 ポツリと呟いた俺に、サーシャが箱からにゅっと体を出して、


「どうでしょうね。案外ノリノリで倒しているかもしれませんよ?」


 それがないとは言い切れないんだよな鈴は、と思いつつ、ミルルやシルフも実は容赦が無かったりしてと想像して、何となく女の子の暗黒面に触れてしまいそうな気がして俺は考えるのをやめた。

 このまま行くと、あのリズさんも実は凄腕で……といった、中二病設定を頭に浮かべてしまいそうになり、俺は本気で考えるのを止めようと思った。

 今考えなければならないのは、目の前の敵について。


 まずはそこそこ集団でいるだろうから、その集団をまとめて爆破――じゃなかった、吹き飛ばして倒してしまおう。

 特に油断している時ならば、相手に反撃の機会も与えず一気に吹き飛ばせるはずだ。

 今のうちに魔法を選択して……そこで俺は気づいた。


「移動しながらこの魔法は使えるのか? ……女神様」

「はーい」


 走りながらスマホを取り出して聞くと、女神様が現れる。

 そこで俺は呪文の選択画面を取り出して、


「女神様、俺の場合、魔法は動いていると使えないのですか?」

「物によるわね、うーん、ほら、魔法使いの魔法って難易度が幾つもに分かれているでしょう?」

「それはそうですが……レベルが低いものは使えると?」

「ええ、しかも途中で呪文を止めたりも自分でできるようにしているわよ? まあ、選択した時点で声が出せない状況にされても声が出る仕様になっているしね。 その2つも話していなかったかしら」

「聞いてませんよ! ……なるほど、だったらこのへんの弱い広範囲魔法なら、あいつらを倒すにはちょうどよくて……待てよ?」


 そこで俺は、シルフに実力を見せろと言われた遺跡で出会ったドラゴンを思い出す。

 確かその時魔法を使ったのだが、そのレベル以上の凶悪な力に思えた。

 それを考えると、


「この弱い呪文を使っても結構強いものになってしまうのですか?」

「そうよ、鈴よりもサービスしたって言ったじゃない」

「……どうしようか。リズさん家の修理費を考えると……」

「別に構わないんじゃない?」

「そういうわけにもいきません、と言いたい所だが、弱めの広範囲魔法でも唱えて片付けるか。確か威力を見積もって、“炎の陣(ファイヤー・サークル) ”でいいな」


 そう俺が選ぶとそこで女神様は、


「まあ、頑張ってね。サーシャ姫もね」

「は、はいっ!」


 サーシャは女神様に緊張したように答えていた。

 そして女神様がスマホに戻り俺はその魔法を選択し、口から自動的に呪文が溢れる。


「その炎は赤き炎


 全てを燃やし


 黒き灰へと帰する


 清浄の……」


 俺が呪文を唱えられたのはそこまでだった。

 話し声が聞こえてこっそり様子を見ながら攻撃をしようと減速し、その角の先を覗いた瞬間、


「行くぞ、“相棒”」

「前から“相棒”って呼ばないでって言っているでしょうが! この毛むくじゃら、勝手に私を穢して好きな様にいじくり回した挙句、こんなに一杯使われるなんて思わなかったわ!」

「黙って言うことを聞け! 持ち主は俺様だ!」

「ふんだ、と言うかサーシャのやつ、何で持っただけで使えるように設定しているのよ、あのおっちょこちょいが!」


 少女の声と野太い男の争うような声が聞こえ、そのうち片方の少女の声は何となくサーシャ姫の“魔法の精霊ステッキ”のような気がしたがそこで俺は見てしまった。

 そこにいたのは筋肉隆々のヒゲもじゃで、髪も長く波打っている男だった。

 来ている服も、孔があき敗れた布で作った服を着ている。


 そこまでは良かったのだ。

 俺の目の前でなんというかこう、魔法少女な女の子がしているようなポーズ、あれを……そう、あれをムキムキなその男がしているのだ。

 そこそこ歳のいったおっさんがそんな可愛らしいポーズをとっているのだ。


 そして俺はそれを見せつけられている。

 そう、見ることを強いられているのだ。

 嫌なら見るな、そういえばそうだと思う。

 でも俺はそんなものを見せられてしまったのだ。


 気づけば唱えていた呪文も中断し呆然とその男を見ていた。

 そこでその男と目があってしまう。

 やはり彼がダマだと思った瞬間彼がにやりと笑い、


「“ 栄光の炎さしゃたん・まじかるふぁいやー・あたっく ”」

 

 端にピンク色の石のついた、ピンク色のステッキを俺に向けると共に炎の塊が浮かぶ。

 防御をしないと!

 そんな言葉が俺の頭に浮かぶが目の前には炎の塊が迫っていて、そこで、


「えーと、とりゃぁああ」


 サーシャが出てきて何かを投げる。

 それは四角い氷の塊のようなもので、それがなんなのかわかると同時に炎の塊が消え去る。

 使用されたのは俺が事前に作っておいた“氷の祝福”。

 そのアイテムを投げて、今の炎攻撃を防いでくれたらしい。と、


「私、初めて役に立ったかも」

「自分で言うのか……でも助かったよ、サーシャ」

「お役に立てて嬉しいです。それで“幻影の狭霧”とりあえず使っておきますか?」

「そうだな、そうしてくれ」


 サーシャに俺が答えると、再びサーシャは彼らに向かって星形で緑色の液体の入ったアイテムを投げる。

 それが地面に落下すると同時に、煙幕がはられ、俺はすぐさま呪文を選択する。

 それは先程と同じもの。


 体力と魔力表示から俺の方に向かって彼らが移動しているのがわかったので、すぐさま俺はその場から離れるように移動する。

 そのレベルを見ると、あのダマの場合445とある。

 俺がプレイしていた頃のレベルよりも低いのかと思いつつも、それであの威力の攻撃、精霊は侮れないなと思う。

 そこで俺はじゅもんを唱え終わり、


「“炎の陣(ファイヤー・サークル) ”」


 発動となる、魔法そのものを示す言葉を唱えるとともに、爆音、悲鳴が聞こえて表示される彼らの体力が消える。

 後には一人、おそらくは“魔法の精霊ステッキ”を持っているダマが残っている。

 一気に片付けられなかったか、俺はそう舌打ちしそうになりながら、再び先ほどの次呪文を選択しそうになった所で、サーシャが何かを持ってはい出てくる。

 その手には、1個の筒状の爆弾のようなものが握られていて、俺は慌ててそれを止めた。


「サーシャ、何をやっているんだ!」

「いや、これでとどめを刺そうかと」

「ここの世界の人間なサーシャが攻撃したら、死んじゃうだろう! いいから俺に任せろ!」


 俺が必死にサーシャを止めていた所で、唐突に突風が吹く。

 その強い風に流されて、煙幕が完全に消えてしまう。

 その風が吹いた方向を見ると、そこにはダマが暗い瞳で笑いながら立っていた。


「小僧、よくもやってくれたな」


 そう言ってダマは俺に、“魔法の精霊ステッキ”を向けたのだった。





 俺は瞬時に呪文を選択する。

 “雷の残像(サンダー・シャドウ)”を選択して唱え始める。

 あのステッキから声がして、止めてください! あの方はと叫んでいるからサーシャの知り合い?に間違いないだろうと俺は片付けて、呪文に意識を集中させる。

 でないと先程のように途中で止まってしまうかもしれないからだ。

 そこで先ほどと同じようにダマが妙なポーズを取り、


「“ 栄光の炎さしゃたん・まじかるふぁいやー・あたっく ”」


 先ほどのような炎の塊をダマが放出する。

 それにサーシャが“氷の祝福”を投げつけすぐに消失する。

 舌打ちするようなダマだがそこで俺の呪文が完成する。


「“雷の残像(サンダー・シャドウ)”」


 稲妻がダマの頭上から降り注ぎ、一瞬にして体力が減っていく。

 よく見ると1だけ残っているが、倒れている様子から瀕死と変わらないだろうと俺はようやく息を吐く。

 やはり戦闘は緊張するなと思っていると、


「タイキ、大丈夫ですか?」


 ミルル達が手を振ってこちらに向かっているがそこで、


「タイキ、危ない!」


 焦るような鈴の声とともに、俺の方に向かって何かが飛んできて……同時に誰かの人影が俺の前に立ちはだかる。

 紫色の髪。

 彼女は攻撃してきた風の礫のようなものを、何処からともなく取り出した、おたま、でそれを弾き返し、しかもすぐさま倒れこんだダマに蹴りを入れて黙らす。

 それらをやり終えてからリズさんはひと仕事終えたというかのように額の汗を腕で拭い、俺に振り返り、


「油断は禁物ですよ、タイキさん」

「え、えっと、リズ、さん?」

「家事で鍛えていると言ったじゃないですか。それに私も昔は、凄腕の冒険者としてブイブイ言わせていたんですよ?」

「そ、そうなのですか」

「でも皆さん本当にお強いですね。でも力を過信してはいけませんよ? 特にタイキさん」


 リズさんにそう言われて俺は、何も言えなくなってしまう。

 言われていることはもっともだからだ。

 そこで、サーシャの杖が何かを叫んでいることに俺達はようやく気づいたのだった。

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