強がっちゃって
爆音と爆炎。
黙々と上がる黒い煙に、俺はまさかと思った。
そしてそれを見ていたリズさんが、
「あらあら、おかしいわね。火の元は全部片付けておいたはずだけれど、ちょっと見てきますね」
そんな、お鍋がこげてしまったかもみたいな言い方で言わないで下さいと俺は思った。
思って、そちらに行こうとするリズさんに俺は、
「待ってください、危険です!」
「大丈夫ですよ? こう見えても私、日頃の家事で鍛えていますし」
「そんな無茶言わないでください! 実は俺達、たまたま“四絽死駆団”という有名な窃盗団が貴族を襲っているのを知って、その日付から、ここが襲われるんじゃないかと知ってそれも伝えに……」
「あらああら、それはありがとうございます、タイキさん。でも窃盗団ですか。悪人なら多少はボコボコにしても問題ありませんね? ふふ、ひん剥いて逆に餌食にしてしまいましょう」
どことなく楽しそうなリズさんに、ダメだこの人、天然だと俺は焦って、
「俺達も一緒に行きます! リズさん一人でいかせられません」
「いえ、でも……」
「ミルル、シルフ、鈴、行くぞ!」
「「「おう!」」」
元気よく拳を振り上げる三人の女性。
いい仲間だと思いつつ、何だか三人とも逞しいなとも思う。
そんな俺達をリズさんが、若いっていいわねとのほほんとした口調で言っていたのだった。
庭を横切るようにかけていく俺達。
のどかな光景だが、少しその煙の方に向かっていると人の声が聞こえる。
おらぁっというような男性の大きな声がする。
「やっぱり、あのへんに宝物庫が?」
「あ……そういえば昔そんなものがありましたね。今はただの物置で、大事なものは別の場所に移動しまして確かあそこには……」
「「「うぎゃあああああ」」」
男の野太い声で悲鳴が聞こえる。
それとともにネチョネチョと言った妙な音が……。
そこでリズさんがほんわかしたように、
「あの元宝物庫には、この前沢山集めたネチョネチョした謎の魔物を放り込んでおりまして」
「……何故?」
俺がつい聞いてしまうとリズさんが、
「いえ、最近新たな趣味をと思って、たまたま庭にいたネチョネチョ生物を飼っていたら懐かれてしまいまして。でも雨に当たると可哀想ですし、最近は宝物庫の場所が居心地がいいらしくて、ペット小屋になっていまして……でも恥ずかしがり屋で臆病なあの子が、あんな風にされて……」
そろそろ俺は、不思議な世界に迷い込んでしまったのかもしれないと思わなくはない。
そこでようやく煙の場所が見えるが、そこからバラバラと走り去る男たちがいる。
本物の宝物庫を探せと叫ぶ男の声が聞こえるが、リーダーかもしれないからそれがサーシャの“魔法の精霊ステッキ”を持ったダマさんだろうか?
もう少しいかにも凄まじい、倒しがいのの有りそうな敵でいて欲しいんだがと思いつつも、凶悪な道具を持っているし軍も相手にするという程度に強力な武器を彼らは持っている。
アホみたいな話ではあるが、素人な俺達でどうにかなるかという不安はあるが、
「火力でゴリ押ししてしまえばある程度はなんとかなるだろう。それに鈴もいるし」
女神様の加護を持つ人間が二人もいるのだ。
きっと大丈夫と自分自身を奮い立たせながら走って行く。
その宝物庫の前に来ると、ひげもじゃの悪そうな顔をした男が三人ネチョネチョした粘液に包まれてぴくぴくしている。
気絶しているようだが、この粘液はなにか毒のようなものを放出するのだろうか。
そう思っていた所で、その粘液が光り輝き、人型を形作り、やがてそれは一人の少女の形になる。
白い髪に赤い瞳の6歳位の少女で、その瞳には涙が浮かんでいて、
「リズ、怖かったですぅ」
「はいはい、マーヤちゃん。でもマーヤちゃんは強いんでしょう?」
「でも、知らない男の人達が魔法で突然攻撃してきて、思わず毒で気絶させちゃいました」
「凄いわねマーヤちゃん。その調子でいじめてくる奴らはやっつけるのよ?」
「でも、怖いよぅ」
そんな甘える幼女とリズさんの光景は何処かほのぼのする。
けれどそれどころじゃないような気がしていると、ミルルが、
「……人型になれる、のですか?」
「ええ、この子はそうですが」
「……人型になれる人間以外の種族が魔族ですので、この子も魔族に該当します」
「あら、そうなの?」
「ええ……人と同じような知能もありますし、種族は不明ですが。といいますか、私も出会ったことがありません」
それにその少女はびくっと震える。
そのままリズの後ろに隠れてしまうが、そこでリズが、
「前にうちの庭に迷い込んだらしくて。名前しか言えなくて……でもこの子魔族なんですか。普通に娘がわりに養いたいですが……」
「親とはぐれた可能性がありますので、後に知り合いの魔族に聞いてきます」
「あらそうなの? 助かるわ。……もうあの部屋に戻る? マーヤ」
「……うん、あそこが落ち着くから。でもあの三人は連れて行って」
謎の魔族マーヤの願いから、その三人をロープで縛り上げる。
そして外に引きずり出しておいてから、そこで俺達は別の場所で二箇所爆発を見る。
「二手に別れるか? 俺は一人でいいから、ミルル達はリズさんを頼む」
「で、でも……」
ミルルが不安そうに俺を見たがそこで、箱からにゅうとサーシャが出て、
「こちらで私がタイキのお手伝いとしていざとなったら大量にアイテムを消費しますのでご安心を」
「……分かりました。タイキに傷の一つでも付けたなら、貴方の本体にも傷をつけてやりますのでそのおつもりで」
「はーい……怖いよ」
サーシャが呟くとそこで、
「あら、もしかしてサーシャ姫ですか? おひさしぶりです」
「ひぃいいいいいい」
リズが話しかけるとサーシャはヒュンと俺の腰ポケットに入り込んでしまう。
それ以上出てこない。
そういえばリズも貴族なので会ったことがあるのだろうか、と思っていると、
「相変わらず怖がられていますね。でも幽霊のようになっていましたが、一体何故でしょう?」
「何だか、自分で自分の体を封印したらしいです」
「あら、相変わらずやんちゃなのね。子供はそれくらい元気じゃないと」
この人と話していると疲れてくるなと思いながら俺は、姫に手を出す不届き者として成敗されなくてよかったと思った。
偶然関わってしまっただけなのに倒されるのは堪らない。
そんなことを考えつつ、俺はミルル達と別れたのだった。
遠くに見える黒い煙。
ミルルと鈴、シルフはリズを連れてそちらに向かう。
「タイキ、一人で大丈夫かな。大量にアイテムはあるし、瀕死までにしかならないけれど……強がっちゃって」
鈴がポツリと、珍しく不機嫌そうに呟く。
普段の様子からは到底想像できないように、不安そうにもう一つの黒い煙を見ている。
そんな鈴にミルルは、
「私達の安全を考えたのでしょう。女神様の加護のある鈴もいますし、リズさんもこちらにはいますし」
「そうだけれど、まあ、ここでグチグチ言っていても仕方がないし、さくっと悪い奴らを倒してタイキの援護に向かいましょうか」
「そうです、ちょっと過激な意味で痛い思いをさせてやります」
「……私も頑張る」
シルフもそういうのを聞いて、ミルルと鈴は笑い、煙に向かって走る。
そんな三人を見ているリズが、何処か微笑ましそうなのを三人は気付いていなかった。
やがて、煙のあった場所で、ミルル達はその窃盗団らしき男たちとようやく接触したのだった。




