非常に快適な場所
そしてじゃあね、もう寝るわぁ~、と女神様がスマホに引っ込んだので、食事した食器を洗いシルフと一緒に俺は、一階の魔法使いの部屋にやってきた。
まず作るものと言えば、
「眠り解除の魔法薬だな。この前採ってきたばかりの伝説の“キラキラキノコ”を使えばさらに効力アップだ。よし、これで行こうか」
「……それでどんな風になるのですか」
「効果の持続時間がのびて、あとは睡眠耐性が更に強化されるらしい。遺跡に入る前に一本飲んでおけば全く眠くはならないな」
「ではそれを作りましょう。まずはキノコの……」
シルフと話していて、キノコ以外の材料も取り出していく。
キノコの中の成分を抽出する為に、原初のドロドロ油水に、太古の水が封じ込められている太古の水結晶――これは水晶の中にその太古の水が入っている(そもそも太古の水って、何だそれはという気がするのだが)――その他、の材料を革袋から取り出していく。と、
「……何故その革袋から、どうやっても入りきらないような色々な物が出てくるのですか」
「さあ、女神様に聞いてくれ。でも今までゲーム内で集めたアイテムを無駄にせずに済んで良かったよ」
「ゲーム、ね。それを女神様は、全て複製したと」
「そういう話になるな。どうした?」
「……この世界が、タイキ達のゲームの世界だと思うとぞっとする、そう思っただけです」
「そうか? 俺は逆にゲームな方がありがたいがな。それに、俺にとってゲームになるように女神様は設定してくれたようだし、本当に助かった。……これで設定完了っと」
俺は作りたいアイテムの選択画面、緑色の半透明な板に、黒い文字で表示された作れる物の選択肢を横にあるバーを下げながら選んで見つけ、選択して、必要な材料を複数放り込んでセットした。
これで設定は完了。
後は自動的に抽出操作などをやりに俺の体が動き始める。
まずキノコを液に漬けて数分置きどろりと溶けるのを待つ。と、
「ゲームで良かったとは?」
「強い力を持っているが、自動的に使いすぎないよう、つまり“相手が死なない”レベルまでにしか攻撃できないよう制御されるという事だ」
「……相手が殺しにかかってくるのに?」
「確かに。だが俺達の現実では起こすのが難しい究極の理想論がこのゲームでは実現できる。もっとも、その時点で俺はこの世界にとって“客人”なのかもしれないが」
「“客人”?」
「そう、この世界に影響は与えるけれど、この世界の人間は殺せない、そして相手にも俺達は殺せない。もうこの世界の存在じゃないな」
「そんな……」
「まあ、いずれは俺達も元の世界に返してもらえる……もらえるんだよな?」
「それは女神様の意志によるかと」
「……不安になる答えをありがとう。さて、今は目の前の事を一つづつ片付けてて行きますか。よし、次は蒸留だ。初めのうちは沸点が低いから不純物が……」
そうやって作りながら俺は更に気付く。
こうやってゲームの選択画面で何かを設定する事でしか薬も含めて何も出来ないなら、この世界では俺達は新しい物を作る事すらできないのだと。
素材によって改良というか、品質を高められるがそれだけだ。
ただ利点としては安易に必要な物は何でも作れる点と、それをどう使って行くか。
魔法に関してもどう使って行くかに集約される。
冒険をメインにするならば、とてもありがたい。
というかこの高いレベルも含めると冒険や戦闘メインの能力に特化しているようにも思える。
「女神様が一体何と戦闘を望んでいるんだろうな。遺跡に潜るだけとも思えないけれど……あ」
そこでしゅわしゅわとガラスのビーカーから、黄色い煙が出て、薬が完成する。
これは眠り解除の薬、その名も、
「“企業戦士Z”、効果を最大限に高めた24時間眠らずに戦えるという、労働基準的な意味で危険な薬だ!」
ネーミングが何かおかしい気もしたが、それを消毒した茶色い小瓶に詰めていく。
俺とミルル、シルフ、鈴の四人分だ。
これで作る物は一応終わったので俺はシルフにもう寝ていいと告げて後片づけをしつつ、
「そういえばサーシャも行くのか? ……お留守番だな」
「嫌ですぅう、一人置いてきぼりなんてぇえ」
サーシャが飛んできた。
地獄耳だなと俺は思いながら、
「今まで一人で放置されていたのに、何を言っているんだ」
「そうやって一人こそこそしていたら魔力切れになったんじゃないですか! なので人がいなくなるんだったらつ憑いていきます!」
「……何という後ろ向きな理由。それなら俺のポケットに本体を入れて連れて行くか。……そもそもサーシャは自分で移動して魔力を手に入れていたんだよな?」
「ええ。でも移動にも魔力を使いますし」
「となってくると、魔石を側において移動も自由にできるようにしておいて……サーシャにはアイテムを使って援護してもらうか。その本体の魔石に防御力を高めて、その中に……そう、初期に使っていた小型アイテムボックス、確か入れられる量は少ないけれどベルトの辺りに付けられる小さな革の箱が……あった。おい、サーシャ、この中に本体は入るか?」
「試してみます」
恐る恐るといったように、その箱に自分の本体の魔石を放り込む。
それからしばらくしてむむむと呻いて、
「むしろ非常に快適な場所かと」
「じゃあそこに入れて連れて行くのでいいな。せっかくだからアイテムなどを大量に渡しておくから、サポートしてくれないか?」
「了解であります!」
サーシャ元気よく答えるので、この前手に入った“ 竜華石”と、サーシャが渡してきた“幽霊のしずく”をそれぞれ使い、アイテムを作る。
前者は複数回使える、効果がほぼ最高値の炎防御の魔法薬“氷の祝福”と、“幽霊のしずく”というアイテムを使って、“幻影の狭霧”を作りあげる。
後は以前ゲーム中で作りだめしておいた魔法攻撃アイテムを複数と、魔石を少し。
それらのアイテムがどんなものかを一通り説明してから、そこにサーシャの本体をしまい、俺は眠る事にしたのだった。
次の日、ミルルとシルフに眠気覚ましの“企業戦士Z”を渡し、鈴を迎えに行く。
うどんの店に向かおうとすると、階段の下から鈴が手を振っていた。
「丁度いい所だね。あれ? それは?」
「事前に眠り耐性、防御を強める薬を使う事にしたんだ。ほら、“企業戦士Z”」
「あー、あの美味しい栄養ドリンク」
「……飲んでいるのか?」
「眠気覚まし代わりにね。もっとも効力がもっとも弱いレベルの奴だけれど……これは?」
「24時間働けます」
「わーお、素敵、愛してるぅ~。でも24時間は困るな」
「まあ、遺跡に入って眠り攻撃を受ければ少しずつ効果も削れてくだろう」
「だといいね~。……半分だけにしておこう」
「……それだ」
「でしょう?」
というわけで俺達は半分このドリンクを飲む事にして、次にギルドに向かい俺は測定してもらう。
「レベル825……うーん、この程度なら機械はおかしくなるはずないんですが、やっぱり人が多すぎたからかしら」
ギルドの測定係のお姉さんが首をかしげていたのは良いとして、俺のギルドカードに俺の魔力の波長とレベルを登録し、俺達はようやく依頼の“寝りの蒼の遺跡”に、“発光銀花”を採りに向かったのだった。




