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女の子の手料理

 そういえば明日は鈴と冒険に行く日だと俺は気づく。

 なので今のうちにその、この町の貴族の依頼を探しておいた方が良いかもしれない。

 今日なくとも明日は出ているかもしれないのだから。


 というわけで俺はギルドに向かった。

 まだこの時間ならギルドは開いている。

 ミルルは、今日は家が決まって初の夕食をあそこで作ってくれるらしい。


 近くのスーパー……と聞くと何かこの中世風のファンタジーな世界観には似合わない気もするが、きっとそれっぽいお店があるのだろうと俺は深く考えるのを止めた。

 それよりもミルルが作っている食事。

 女の子の手料理。 


 確かに鈴のうどんも女の子の手料理と言えるだろう。

 でもこう、なんて言うんだろう、もっとこう、うどんとかそんなものじゃなくて素朴な家庭料理というか……肉じゃが、とは言わないけれど、上手くは言えないが普通な物を食べたい。

 外食すれば美味しい物は幾らでも食べられるけれど、それでも家庭の素朴な味付けは魅力的だ。


 そんなわけで俺は、また一つ楽しみを増やしながらギルドに向かう。

 そこで、丁度ギルドから出てきたばかりのある人物と俺は出会う。


「あら、タイキさん、どうしたのですか?」


 大家のリズさんだ。

 相変わらず俺と同い年くらいの子供がいるようには見えない、年齢不詳の美女だ。

 胸も大きくスタイルも良く、怪しい魅力というか色香がある。

 何だか妙にドキドキしながら俺は、


「あ、えっと、依頼を受けようかと」

「そうですか、頑張っていますね。あ、丁度今日、マドレーヌを焼いたんですよ。皆さんでどうぞ」


 そう言って、リズさんは俺に、小さな紙袋をくれた。

 そして、にこやかに微笑みながら去っていくリズさんを見送ってから俺は、ギルドに入っていく。

 一階の端の方にある掲示板に張り出されているようだ。

 そういえばここの貴族って名前はなんだっけ、確かエリス家だったかと思って見て行くと、そこにエリス伯爵家、リズ・エリスという名前を丁度見つける。


「良かった、分かりやすい……リズ?」


 大家さんの名前はリズだ。

 そして来たの外れに住んでいるらしい。

 試しに住所を見て、地図を取り出して確認する。

 北の外れだ。


「……大家さんにお話がって形でも良かったのかな。しかもさっき会ったし。……昨日今日で突然襲ってくることもないだろうし、それに間違っていても嫌だからもう少し住所を良く調べよう」


 そう俺は呟いてその依頼に手を伸ばす。

 ピンを抜いて紙を持って、受付に向かって行いき、依頼を受けたのだった。







 戻ってくると、家からはとてもいいにおいがした。

 スープか何か作っているのだろうかと思いながら俺は、


「ただいま」

「タイキ、おかえりなさい」


 そう言ってミルルが出迎えてくれた。

 ちなみにミルルは白いエプロンをして、手にはお玉と菜箸を持っている。

 なんだろう、これ。

 不覚にもドキドキしてしまった俺だけれど、そこでミルルが、


「丁度美味しいスープとお肉が焼けた所なんですよ。焼きたてのパンも買ってきましたし、頂きましょうか」

「あ、うん、そうだな」

「食器類はここにあった物をそのままつかわさせて頂きました。生活に必要な調理道具も全部揃っていて、材料だけで構わないのは本当に助かりました」


 微笑むミルルに促されて俺は席につく。

 そして人参やじゃがいも、セロリ……のような野菜の入ったスープに、焼いた肉に何かのソースのかかった肉、そしてパンとバターが並べられる。

 スープと肉からは出来たてだからか美味しそうに湯気が立っていて、香りも良い。


 気づけばシルフが反対側の席に座り、ミルルもその隣にやってきてエプロンを脱ぎ始める。

 そして席について、


「では、いただきま~す」


 俺も含めて全員がそう言い、まず俺はスープに口をつける。

 口の中に広がる香り。

 濃厚で旨味がたっぷり溶け出しているが、あっさりとした塩味で幾らでも口にできそうだ。


「どうですか? お口に合いますか?」

「ああ、美味しい。ミルルは料理が上手いんだな」

「ええ、殿方に喜んでもらいたいですから」

「そうか、いいお嫁さんになるよ、ミルルは」


 嬉しそうに頬を赤らめるミルル。

 でもそういえば彼女はお婿さん候補を探していて、力の強い俺をパーティに引き入れたんだよなと思い出す。

 男としては複雑な気持ちではあるけれど、こうやって美味しい料理を楽しめるのならそれもまたいいのだろうと俺は自分の心を慰めた。


 次に大好きな肉に目を移し、肉を切り口に運ぶ。

 果実の芳醇な香りとしょっぱさが口に広がるソース。

 それが肉に絡んでとても美味しい。


「この肉のソースは美味しいな。甘すぎず、しょっぱすぎなくて」

「このソース、私の秘蔵のレシピなんですよ。良かった……」


 何だかミルルがとても嬉しそうで、恋人になってしまったような錯覚を覚える。

 あまり期待しないでおこうと俺は思いつつ、その食事に舌鼓を打っていると、


「いいな~、私も食べたいなぁ~」

「サーシャ……どうせ一週間後には知り合いに会えて、それからもう少しすれば元に戻れるんだから我慢しろ」

「うぎゅ。羨ましすぎ。しかもこんな美味しそうな料理、私作れないし」

「そうなのか?」

「うん、私に調理場に近づくな、って皆言うの」


 それはひょっとして、メシマズ属性というものなのだろうか。

 ふと不安に駆られた俺だがそれは口には出さない。

 メシマズ属性の女の子がいたらまず、犠牲になるのは直ぐ側の男なのだ。

 つまり、俺。

 触れてはいけない禁断の箱を丁寧に扱いつつ何処かへと放り投げるように、俺は話題をそらすと決める。


「そういえば今回の依頼は、“寝りの蒼の遺跡”らしい。そこの奥にある、“発光銀花”が欲しいらしい。ミルルは知っているか?」

「私は知りませんがこの前、シルフが勝手に向かって酷い目にあって……たまたま遺跡に向かっていた善良な冒険者の方が保護してくださって……やっぱり送り返しましょうか」


 ぼそっと呟くミルルが怖い。

 なので俺はシルフに、


「それでどんな遺跡だったんだ?」

「……眠り関係の攻撃をしてくる奴らがいて、攻撃されまくってしまったのです」


 ふてくされるように呟くシルフのその情報から俺は、


「じゃあ眠り解除系の薬を大量に作っておいたほうがいいな。よし、これからが魔法使いとしての出番だな」

「……私もお手伝いする」

「そうなのか? 助かるよ、シルフ」


 俺がそう言うと、シルフはそっぽを向いてブツブツ言っている。

 けれど手伝いがあるのは凄く助かるのだ。

 作り方も分かっているから大丈夫だとは思う。

 そして後は何が必要だったかなと俺は食べながら考えて、自分のレベルを下げるよう女神様に頼むのだったと思い出したのだった。

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