目覚めちゃったんだから仕方がない
そのサーシャの使っている“魔法の精霊ステッキ”をその窃盗団が持っているらしい。
服装などを考慮するに、その魔法少女というのは俺達の世界の子供向け番組に出るような、こう……そういう服に杖だ。
だがその杖を振り回す窃盗団て、むさい髭面で筋肉むきむきの男がそんな可愛らしいステッキを振り回しているのかよ……と思いながら俺は気づいた。
「もしかして、窃盗団のそのステッキの使い手は女の子だったり……」
「いえ、筋肉むきむきの黒いおひげが自慢の悪人面をしたダマさん、42歳。最近はその筋肉にワセリンを塗って光らせるのが趣味という……」
「想像したくないのでそこまででお願いします」
俺は女神様に切実にお願いをした。
それに女神様は楽しそうに画面の中で笑っている。
けれどそんな“魔法の精霊ステッキ”なるものを使うだけで、そんなに強くなれるものだろうか。
確かにゲーム内で使った魔法使い専用の杖は、攻撃力等は確かに少しはあったし上がるものの、結局は自身の能力が基準になっていた気がする。
そんな突然強くなる、そんな道具ではなかったはずだが、“魔法の精霊ステッキ”は特別なんだろうか。
アイテムとしては見たことはなかったので、俺は試しに、
「“魔法の精霊ステッキ”はどんなものなのですか? 俺はそのアイテムは見たことがなかったのですが」
「ああ、サーシャ特製の杖で、精霊のついた魔石が埋め込まれた杖でね。超・強力なの」
俺は無言でサーシャを見た。
精霊はとても強い相手で敵対すると危険、俺もゲームで遭遇した時は酷い目にあった。
そしてそんな危険な精霊のついた魔石を窃盗団が持っている。
そうなってくると、それ一つで軍と渡り合えるだけの火力があるということになるのだろうか?
道理で“精霊使い”が危険視されるはずである。
と、サーシャは真っ青になりながら、
「わ、私そんな窃盗団にその杖を渡してはいませんよ!」
「そうなのよね~。だって、あまりにもサーシャちゃんに振り回されるから、もう嫌だって家出しちゃって」
どうやら、サーシャにこき使われすぎて逃げ出してしまったらしい。
というかどれだけ魔法少女をやっているんだと俺は思ったわけだがそこで女神様が、
「それもあって、ほら、“精霊使い”にとって精霊って、猫とか犬みたいな愛玩動物と同じようなものだからね。だから精霊を“飼う”というの。もっとも、精霊を酷く扱った“精霊使い”は例外なく自分で使役している精霊に殺されているけれどね?」
「でもそんな可愛がっている精霊に逃げられるなんてどんなに酷使したんだ?」
「確か前日のおやつが、ショートケーキのはずだったのに、プリンに変更になったってことで」
物凄くどうでもいい理由で精霊が家出したらしい。
使役される程度に強力な精霊の割に、随分と我侭なようだ。
それでこんな事態になっていると思えば、笑い事では済まないなと俺は思いながらそこで、
「で、でもその子、私は探さなかったんですか? 女神様」
サーシャがスマホの前にまで飛んできて問いかける。
確かに大事にしている精霊なら、サーシャが探しに行っていてもおかしくはないが、それに女神様は、
「探したわよ。でも見つからないから、こうやって幽霊になればもっと色々な所から探せるって考えて、他の人に話すと絶対に止められるからと信頼できるチルド伯爵を騙してこんな事に。記憶がなくなって目的も忘れた挙句、宝物庫でぬくぬくして連れさらわれるはめに。サーシャちゃん、いざという時にドジっ子だから」
それを聞きながら俺は、偶然の連鎖って怖いなと思う。
そして更に何かまだ思いもよらない偶然の連鎖があるような気がしていると、そこで女神様が、
「でも見つかるはず無いのよね、だってその窃盗団の首領ダマが持って行っちゃったんだし」
「そんな誰でも使える危険な杖を野放しにするのは……」
俺がポツリと疑問をつぶやくと女神様は楽しそうに笑って、
「うーん、実はね。そのダマは本人は気付いていなかったけれど“精霊使い”の隠れた才能があって、その杖に触れた瞬間目覚めちゃって。『何だこの力は……これなら世界を盗れる!』といった感じで、窃盗団作って現在進行形で略奪中なのよ」
「隠れた才能って……そんなに簡単に目覚めるものなんですか?」
「目覚めちゃったんだから仕方がないじゃない」
この辺りで俺はもう考えるのをやめた。
封印された美少女が実はお姫様で、軍とも渡り合えるような窃盗団が段々と俺達の町に近づいてきていて、一週間後にその居間はいないはずのサーシャ姫がこの街を訪れるとか、陰謀などが渦巻きそうな展開だったが……蓋を開けてみればこのザマだ。
常識にとらわれないほうがいいのかもしれないと思うと同時に、俺の平穏は比較的守られたなと思って俺は少しだけ復活するが、そこで気づいてしまった。
「図書館で調べ物とかしても、この方法だと推理できないんじゃ……」
「必要かそうでないかは後で分かるものよ?」
「それは何かのフラグですか?」
「そういう事にしておく?」
女神様は特にフラグではないと仰りたいようでした。
ひと通り話を聞いて、俺が出した結論は、
「とりあえず、そのお姫様が来た時にサーシャを連れて行って事情を話そう。女神様直々に聞いたということでゴリ押しできるかな……そうだ、ミルル」
そこでミルルを呼ぶと、先ほどの話があまりにもアレだったのか、姉妹揃って彫像のように凍りついている。
そんな彼女に俺は、
「ミルルが見つけたことにして事情を話してくれないか? 貴族の方がもう少し信用されるだろうし、できれば異世界からこちらに来た話はまだ知られたくない」
「? 何故ですか?」
「目立つよりかはその……普通にミルル達と冒険がしたいから」
「分かりました。私達の平穏な冒険生活のために私、頑張ります!」
何故かミルルが張り切っている。
ただ断られなくてよかったと俺はホッとしながら、
「あとはここの町の貴族にその窃盗団が来るかもという話をすべきかどうかですが……女神様、その貴族はその話をご存知なのですか?」
「いいえ、まだ知らないわ」
「じゃあ伝えに行ったほうがいいかな。この町の貴族って、ミルルはつてがないよな。門前払いされる可能性もあるから、うーん」
なにかいい方法がないかなと俺が考えてくるとそこでシルフが俺の前に現れて、
「なんだ、タイキは簡単な方法があるのに分からないんですね」
「……シルフ、何か案があるのか?」
「その貴族が出している依頼を探して、ギルドで受ければいいのです」
自信満々にシルフが俺に告げたのだった。




