サーシャ姫の“恥ずかしい秘密”
女神様が楽しそうにサーシャと同じようにふわふわ途中に浮かびながらサーシャの前に行き、
「んふふ、私は女神様だから貴方の“恥ずかしい秘密”全部知っているのよね」
「……え?」
「どうしようかな、まず何について話そうかな、うふふ」
「あ、あの……“恥ずかしい秘密”は出来るだけ話さない方向でお願いできますでしょうか」
サーシャが女神様にお願いする。
それに女神様が、どうしようかな~と楽しそうに笑ってサーシャの周りをくるくる回っているが、そこで、キィっとミルルの部屋が開き、のそっと、サーシャよりも幽霊のようなどんよりとした気配のミルルが現れて、
「女神様、ぜひそのサーシャ姫の“恥ずかしい秘密”について私に教えて頂けないでしょうか」
「あら、ミルルちゃんも気になっちゃう? ……びくっ」
女神様がミルルの声に楽しそうに振り向き、その纏う雰囲気に気圧されて固まった。
すごい、あの女神様までこんな風にするのか、でも何でミルルはこんなに機嫌が悪いのだろうか。
でもそれを聞くだけの勇気が俺にはなかった。
そこで女神様は俺達の方にやってきて、すぅっと俺のスマホに入り込み、
「それじゃあ、ここからお話すわね」
画面のあちら側に女神様は逃げてしまいました。
なんて狡いんだと俺は思いながら、そこで、
「それでね、どれから話そうかしら。選択肢を出すから好きなのを選んでね?」
女神様の選択肢
①サーシャの体が何処にあるのか
②サーシャがどうしてこうなったかという“恥ずかしい秘密”
③窃盗団の秘密と次に襲われる貴族について
その3つからどれを選ぼうか俺が迷っていると女神様が、
「どれでもいいわよ? 全部繋がっているし」
「……①からでお願いします」
全部繋がっているなら選択肢いらないじゃないか、と思ったが野暮なツッコミをせずに俺が黙っていると、
「それで、サーシャの身体は、チルド伯爵という方が大切に保管しています」
「ということは、チルド伯爵がサーシャを封印した犯人なのか?」
「え? 違うわよ。封印したのはサーシャ本人よ」
俺達の視線が一斉にサーシャに向いた。
その視線にサーシャが慌てたように首と手をふり、
「し、知りませんよ。だってそんな記憶、私にはありませんし」
「それはそうよね。うっかりどの魔石にとり憑こうかなと思った所で、貴方が利用したあのチルド伯爵が来ちゃって、魔石に記憶全部バラバラに散らばって入っちゃったものね」
俺は冷たい目で、サーシャを見た。
それにサーシャは震えながら、
「う、うう、でも記憶が魔石って……じゃあ一緒に盗まれた魔石に入っていたってことですよね? もしも魔力が使い切られたら……私ずっと記憶喪失に」
「ああ、そっちは大丈夫よ。実は貴方のはいっている魔石はたまたまチルド伯爵が個人的に集めていた魔石と偶然混ざってしまって、それが盗まれてしまってね。記憶の方はチルド伯爵が大事に保管しているわ」
「そ、そうなんですか。良かった……」
安堵するサーシャだが、随分とそのチルド伯爵という人は親切だなと思う。
こんな風なサーシャの頼みも聞いて大事に保管しているようだし、そう思いながら俺はその人物に興味がわいたので、
「そのチルド伯爵ってどんな人物なのですか?」
女神様に聞いてみる。
よほど出来た人間なんだろうな、サーシャの我侭も受け入れているようだしと俺が思っていると、そこで女神様が悪い笑みを浮かべた。
「そうね、確か、自他共に認める“変態紳士”だったかしら」
不穏な言葉が女神様の口から出る。
また碌でもない話が出てきそうな予感を俺が覚えていると、
「実はこのサーシャちゃん、本人は秘密にしているつもりだったみたいだけれど、都市の王城周辺で“魔法少女・マジカルさしゃたん”と言って、ふりふりのスカートに顔の上半分が隠れる仮面を付けて、都市にはびこる小悪党を自笑……じゃなかった自称“魔法の精霊ステッキ”を振り回して精霊魔法で倒していたりしたのよね」
クルッと俺はサーシャを見ると、サーシャは真っ青になって幽霊なのに震えている。
そんなサーシャにさらに女神様が、
「でも精霊魔法を使っている時点で、正体がバレバレでね。実は仕返ししようとしている奴らを、サーシャ姫のファンクラブ達――ちなみに、それをしきっているのがチルド伯爵だったりするのだけれど、影で倒したり、表ではサーシャ姫との信頼も厚い……まあ、お姫様と騎士みたいな関係だったのよね」
「ち、ちなみに恋愛感情はあったのでしょうか」
「うーん、チルド伯爵は、自他ともに認める“変態紳士”の異名は、女の子は遠くから眺めて愛で、守るものですというものらしくて……要は妄想する変態で社交的な奥手だから、見かけはいいのだけれど女の子とラブにまで発展しないの。でもサーシャ姫に憧れて一番の理解者でありたいというプライドがあるから、貴方のこう、ガラスのように封じられた身体があるじゃない? 毎日、埃がつかないように一生懸命布でふいているのよね」
そこでサーシャがぶるっと体を震わせる。
自分の体のそれを丁寧に丁寧に磨かれていくさまを思い描いてしまったのかもしれない。
というか今の話から俺は頭痛を覚えつつ、
「……王室での陰謀とかそういったものは?」
「無いわよ? そもそも一週間後にここに来る姫様達影武者も、その姫様の封印の件をチルド伯爵から話を聞いて、とり憑いた宝石探しに探しきているだけだし」
そろそろこのどうでもいい話をどうにかすべきだろうかと俺が悩んでいると、サーシャが、
「私そんなに心配されているんですか」
「いえ、どちらかと言うと、手間をかけさせやがってという感じで、誰も心配していないわね」
「……」
「またか、みたいな?」
サーシャの普段の姿がよく分かる周りの、信頼できる周りの様子だった。
ただそこで俺が思うのは、
「チルド伯爵は自分が間違えて魔石を混ぜたことに気付いていなかったのか?」
「そもそもその魔石にサーシャがはいっているのも知らないしね。大事なものだからって魔石をチルド伯爵に預けただけだから」
偶然がいくつも重なってこの状態になったらしい。
そしてそもそもと俺は思う。
「何でサーシャは自分でそんな状態に」
「いや、幽霊になったら壁抜けもできるし動きやすくなるんじゃないかな、ヒャッハーって」
もう俺は何も言えなかった。
そして同情する気も失せかけるがそこで、
「ふふ、タイキは疲れているわね。じゃあ、更に疲れさせてあげましょう」
「……まだ何かあるんですか」
「ふふん、実はね、あの窃盗団が軍も相手にできるのは、このサーシャ姫の“魔法の精霊ステッキ”があるからなの」
女神様の言葉に、俺は更に頭痛を覚えたのだった。




