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良いご主人様になってくれそうな予感

 半透明でふよふよしている幽霊のような女の子。

 俺はどうするべきかを考える。



選択肢


 ① 悪魔祓師(エクソシスト) を呼ぶ

 ②陰陽師を呼ぶ

 ③寺生まれの何とかさんを呼ぶ

 ④女神様を呼ぶ



 祟られたりとりつかれたりする前に、何とかしなければ。

 どうするんだ俺。

 早く成仏させないと……でも、①ー③はどうやって呼べばいいのか分からないから、やっぱりあのスマホの女神様に全てをお任せしよう。そうしよう。

 がたがたと震えながら俺はそう決めて、ポケットのスマホに手を伸ばすが、そこで、


「いやー、助かりました。危なく死ぬ所でした」


 その幽霊が、突然俺の手を握ってくる。

 温かくも冷たくもない不思議な温度だが、触れられている感触はある。

 これもあの女神様と同じようなものなのだろうかと俺は気づく。


 そういえば、死ぬ所だったというので、死んではいない。

 なので幽霊では……え? 生き霊とか?

 どちらにせよあまり関わらない方が良いだろうなと思いながら俺は、彼女を観察する。


 髪の色はピンク色。

 語源の知らない淫乱ピンクという単語が俺の頭に浮かんだが、それは置いておいて、瞳は澄んだ緑色をしている。

 三つ網をぐるりとわっかにしたような髪形をしている、可愛らしい少女だ。

 そんな彼女がキラキラした瞳で俺を見て、


「お兄さん、凄い魔力を持っていますね」

「そうらしいな」

「いえいえ御謙遜を。これだけの人間なんてそうそういませんよ。素晴らしいです!」


 俺を褒め称える幽霊に俺は嫌な予感を覚えた。

 初対面の女の子が凡人の俺をいきなり何もしていないのに褒め称えるわけがないと!

 きっと何かに勧誘されてしまうんだと俺は都会で培った警戒心を全力で活用していると、


「単刀直入に言わせていただきます! 寄生させて下さい!」

「嫌だ」

「即答しなくても良いじゃん! これくらい魔力があれば少しくらい私に“餌”をくれても良いじゃん」

「……なんでペットみたいな話になっているんだ」

「えー、魔力という“餌”で私を飼って欲しいんですぅ。ほら、そろそろ私も日々魔力という“餌”を探したりこっそり奪い取る生活からこう抜け出したいというか。丁度隠れていたのに、空腹に耐えかねて泣いていたら、“餌”をくれたわけですし」

「……いや、俺、“餌”なんて与えてないぞ?」

「本体に触れた時に、勝手に貰いました」

「……」

「勝手に貰いました!」


 どうやら触れた人間の魔力を勝手に吸い取るお化けらしい。

 これが力を付けて行くと触れた人間を殺すぐらいまで魔力を吸ったりするのだろうか。

 それを考えるなら、


「この本体を壊せばお前は消えるんだな?」

「やめてぇええ、本当に死んじゃいます。ペットとしてとりつかせて下さいよぅ!」

「というかそんなペットもいらんし、ペットとか自分で言うな!」

「えー、私自身切実なのにぃ」


 ぷうっとほほを膨らました幽霊の女の子だがそこで、


「タイキ、今何か知らない女の声がしたのですが」


 にっこりとほほ笑みながらミルルが俺の部屋に訪ねてきた。

 そしてその女の子の幽霊を見てミルルは目を瞬かせて、


「“精霊”ですか?」


 そう俺に言ったのだった。







 そういえば、“精霊”なんてものもいたなと今更ながら俺は思い出す。

 石など自然界に宿る精霊は、時に人に害をなし、時に人の手助けをする。

 魔力そのものなので魔力のある石などに宿る事が多く、それは貴重なものらしい。

 ちなみに俺がゲーム内で遭遇した精霊は、敵役としてだったが。

 そこでその精霊が、


「いえ、私は精霊じゃないです、幽霊です」


 そう自分で言った。

 それを聞いた俺は、


「やっぱりとりつかれる前に滅ぼしておこう。この宝石を壊せばいいのか……」

「いやぁあああっ、待って下さい! 私だって好きで幽霊やっているわけじゃないんですぅ!」


 慌てたその幽霊は自身の本体である宝石を隠しながら、


「私の名前はサーシャって言います。理由はよく分からないのですが、体を封印されて、意識みたいなものがこういう魔力のある石にとりついちゃったみたいで」

「体が封印って……一体何をやったんだ?」

「さあ、そこは全部記憶がないので、本当にどうしようかなと」


 困ったものですと、気楽そうに言う幽霊サーシャ。

 そして更に話し出す。


「それで何だか暗い場所に他の魔力石に紛れて私は存在していたのですが、ある日その宝物庫から他の魔力石ごと連れだされてしまいまして。それを買ったのがこの家の方だったのです」

「ちょっと待て。他の魔力のある石と一緒って事は、お前が必要な魔力を置いておいてくれたってことじゃないか? それって封印した奴が、死んでもいいとかそういうのではなくて、意図的にサーシャの意識を石に移したんじゃ……」

「さあ、その宝物庫に私の体はありませんでしたから。偶然他の魔力の石を傍に置いておいてくれていたのかも」

「……何でそんなに気楽なんだ?」

「さあ、切実に魔力を手に入れる事の方が今の私には大切ですしね。今までは、材料の魔力石を置くのを見て、いなくなったらこっそり失敬していたのですが、空き家になっちゃって魔力を補給できず、動けなくなっちゃうし。なのでぜひ、飼って下さい!」


 そう言って幽霊のサーシャは俺の手を握る。

 事情がありそうだが、体を封印とか不安を誘う単語が付きまとうこの幽霊を飼う。

 どうしようかと思ってから俺は、


「そもそもなんで“飼う”なんだ?」

「だって精霊は飼う物じゃないですか」

「……元人間だよな?」

「あれ? そうだったような気もするというかそうです!」

「だったら食事をとるとか、魔力という食事を分けて下さいとか、もっと言い方があるだろう。何だか変なプレイをさせられる気がして、飼うとか止めてくれないか」

「はーい。うむ、良いご主人様になってくれそうな予感」

「……ご主人様は止めろ」

「はーい、えっと」

「タイキだ」

「タイキ、よろしく」

 

 仕方がない、ここで見捨てるのも可哀想だし、いざとなったら女神様に何とかしてもらおうと俺は思っていた所で、そこでミルルが、


「精霊を“飼う”と表現するのは、魔法使いの中でも特に、“精霊使い”と呼ばれる精霊を使役する特殊な言い回しだったように思います。そんな精霊を使える魔法使いは歴史上でも多くないので、その名前を調べれば誰なのかが分かるかもしれません」

「そうなのか? じゃあ本人確認を済ませれば、もしかしたなら本体を持っている人間に会えるかもしれない、つまり」

「サーシャさんは、もし犯罪等の理由がない限り、元に戻れるというわけです」

「犯罪?」

「ええ、危険な魔法使いなどを倒せない場合封印するという手法が、昔は行われていましたから」


 そこでサーシャを俺は見る。

 サーシャは慌てて、


「ま、待って下さい。私多分そんな大それた事はしませんしできません」

「……記憶にないんだろう?」

「それは、そうですけれど……」

「これ、どうしようか」


 サーシャを指さす俺だが、それにミルルが、


「何者かに騙されて封じられてしまった可能性もあります。ですので、まずは精霊使いとして登録されている全員を、ギルドの登録分だけでも調べさせていただくのはいかがでしょうか?」


 そう、ミルルが俺に提案してきたのだった。

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