完・全☆、復活!
場所が間違っているんじゃないかと、俺は再度地図を見る。
けれど目印となる店を全て考えるとここしかない。
だがこんな立派な建物なんてと俺が思っているとそこで、
「いらっしゃい。貴方が、この家を借りるタイキさん?」
現れたのは一人の年齢不詳の女性だった。
紫色の髪に赤い瞳をした女性で、髪を三つ編みにして前に垂らしている。
胸も大きく、全体的にボンキュ、ボンなす的なスタイルなのだが……。
正直姿形ならあのエロい女神様の方がいい。
けれどこの女性の場合、あのエロい女神様にはなかった大人の醸しだす絶妙な色気というか魅力というか……熟した果実のような妖艶さがある。
何だか危険な美女だなと俺が思っていると、
「タイキさん?」
「え? は、はい」
「やっぱりそうだと思ったの。息子と同じくらいの子が借りたいって言ってきていると聞いていたから」
微笑む彼女に俺は、今ある事実に気づいた。
この若いけれど年齢不詳の女性には、俺と同い年の息子がいる。
……一瞬自分の母親と比べそうになって、考えてはいけないと俺は思った。
そんな彼女が俺に、
「私は大家のリズと申します。もし何かありましたら、北外れの家に一人で住んでいますので、訪ねていただければ、多少は融通できますのでお気軽に訪ねてくださいね」
優しい慈愛に満ちたほほ笑み。
年上のおっとりした女性だなと俺が思っていると大家さんが、
「でも「錬金術士」と「魔法使い」の両方の職業を兼業している方がいてよかったわ。息子と娘の使っていた装置や部屋の管理がありますから。私はそちらの方面は詳しくなくて、よく、触るな! って怒られてしまいましたし」
「そ、そうなのですか」
全く怒らなくてもいいのにと小さく彼女はぼやいて、
「もしこちらを出る時は全てを元通りにしていただければと思います。私が息子達に怒られてしまうので、壊した器具は新しいものを揃えてください。あ、試薬の類は、残っているものは自由に使って構わないそうです」
「そうですか、色々有り難うございます」
「いえいえ、私も真面目そうな方に借りて頂けて嬉しいです。そうそう、三階は広い住居スペースですので、同棲しても大丈夫な大きさですから安心してくださいね」
微笑む大家のリズさんに頷きかけた俺だったが、今、ちょっと頷いてはいけない言葉があったような……。
あれ、なんだっけ。
そう、どう、どう……童貞?
いや違くて、えっと……だめだ、焦って頭がまわらない。
と、そこでシルフが、
「お姉様は、あそこの凡人の嫁ではないです! そして恋人でもないです! パーティを組んでいるだけです!」
「あらあらそうなの? ふふ、お姉ちゃんが大好きなのね」
そう言ってシルフを可愛いと撫ぜるリズさん。
なんというか子供の扱いになれているというか母性が溢れるというか、素敵な女性だ。
そんな俺にミルルが、
「では、さっそく中を見ましょう。タイキさん」
「ミルル? 痛い、腕に力が入りすぎてる……」
女性にしては強すぎる力で俺は、ミルルに腕を引かれて部屋の中へと入っていったのだった。
中の設備を見て俺は驚く。
「必要な物が全部揃ってる。なんだこれ……あのリズさん、一体何者だ?」
中に揃っている機材はどれも魔法使いに必要な道具ばかりだ。
そこそこ誇りをかぶっていて掃除をしないといけないが、その程度は些細な事にすぎない。
そういえば便利なお掃除マシーンのようなものが錬金術で作れたので試しに作ったんだよなと思いだして、後でそこら辺に放し飼いにしておくかと思う。
そこでシルフが歩いて行き、うむと頷いて、
「この設備は素晴らしい。なのでタイキ、私にもこの設備を使わせるのです!」
「シルフは魔法使いでもあるのか?」
「そうです! ミルルお姉様の栄養剤や傷薬は全部私のお手製なんですよ!」
ふんと腰に手を当てて偉そうなシルフだが、今の話を聞いて俺は、
「何だかんだいってシルフも頑張っていて、ミルルの役に立っているんじゃないか」
「う、うう……そ、そうなの! 私だってお姉様に必要な人材なの! だからついていく、実家には帰らないの!」
怒り出すシルフにミルルは困ったように嘆息して、
「でも本当はシルフ、貴方を連れて来るつもりはなかったんですよ? まさか、縮小の魔法をつかって荷物に紛れ込んで来るなんて……あんな危険な事をするくらいなら、連れて行ったほうがいいと思ったのだけれど」
「で、でも私強いし!」
「でも貴方はまだ子供だもの」
「お姉様だって若いじゃない!」
「私は18歳で成人しているでしょう?」
「ずるい……」
頬を膨らますシルフとミルル。
この姉妹の会話を見ているのも微笑ましいのだが、俺は、
「そういえば三階の部屋、結構大きいかもしれないから、もし鍵がかかるならミルル達とシェアハウスにしようか? そのほうが家賃が安くて済むだろうし。それにパーティだからわざわざ呼びに行かなくても済むし」
そう俺は提案したのだった。
三階にはいくつも部屋があり、寝室に鍵がついている。
ちなみに部屋の鍵はそれぞれの部屋の机の上に置かれていた。
「どうするミルル」
「そうですね、ではタイキのお言葉に甘えて。幾らお支払いすればいいでしょうか」
とりあえず、今回かかった費用を三階なので3で割、更に三人で割り、ミルルとシルフの二人分として、
「1クオーツ銀貨かな」
「! そんなにお安いんですか?」
「計算上は。それに女神様に色を付けてもらっているから、今は懐が温かいんだ。でもそうだな、部屋の掃除を手伝ってもらえると嬉しいかな」
「はい、もちろんです!ほら、シルフもやるのよ!」
「はーい、面倒くさい……」
ミルルが張り切ってシルフはやる気が無い。
そして俺達は掃除道具を取り出して掃除に取り掛かったのだが、そこで俺は自分の部屋に決めた場所を掃除し始めたのだが……。
「ひもじいよ~、ひもじいよ~」
「……誰も居ないはずの俺の部屋から女の泣き声がする。まさか、ここって幽霊屋敷だから安かったのか?」
そう思いつつもどこかに何か道具があるのだろうかと思って探すと、ベッドの隙間に赤い石が見える。
魔力の結晶のような石だが、随分と色がくすんで灰色に近くなっている。
魔力が切れかかっているのかもしれないが……今の声と何か関係があるのだろうかと思って俺は手を伸ばす。
その手が石に触れると同時に何かが吸われる感覚を覚えて、目の前に魔力のゲージが現れ少し減った。
俺、こんなに魔力があったんだと確認しながらそこで、
「よっしゃああああ、完・全☆、復活!」
半透明の女の子が、その石から飛び出してきたのだった。