恋人同士に間違われてしまいましたね
ようやく俺達にもうどんが運ばれてくる。
今回は餅入りきつねうどんを頼んだ俺だ。
というかこの世界にもち米がある事が意外だったが、餅は好きなので後で作れるんだったら作って揚げ餅にしても良いよなと、夢が膨らんだのは置いておいて。
まずはこの黄金色に光り輝くスープに口を付ける。
熱々なのか白い湯気を立てるその汁を、どんぶりに口をつけてゆっくりと傾けて……。
「……旨い。なんだか元気になる味だ」
「そう? 良かったわ。変な効果があったらどうしようかと思って」
「おい、鈴。俺らは実験台か」
「いやー、元気になりすぎて突然服がぱーんて破裂して筋肉ムキムキになったりするんじゃないかと思ったけれど、そんな事はなかった」
「……ちょっと憧れてしまったが、俺を実験台にしたのは許さない」
「まあまあ、変な効果は半分くらいしか本気じゃないし、元気になって欲しいと思ったのは本当だよ? タイキにここに来たばかりで疲れているだろうし」
「俺はそんな言葉で騙されないぞ!」
「しょうがないな、ほい、チャーシュー二枚追加」
「ありがとうございます」
こうして俺は簡単に誤魔化された。
だって肉は食いたいし、それにこのチャーシューはしょうゆベースの味付けがされてとても美味しいので仕方がないのである。
そう思いながら出汁をもう少し飲みたいかなと思って飲んでいる内に、気付けばうどんの汁が無くなっていた。
「鈴、もう少し汁を追加してもらえないか?」
「いいよ、サービスだよ?」
そう笑って受け取り汁を並々と注いでくれる鈴。
こういった所は良いお嫁さんになりそうなんだよな、と俺は鈴を見る。
見かけも悪くないというか可愛いし、というか昔よりも可愛くなったような……そんな事を考えていると、
「お主、このスープをそんな水でも飲むかのように気楽にのんでいいと思っているのか!」
「いや、だって……美味しいし」
隣に座っていたフードをかぶった少女が俺に言ってくるが俺としては、まだあの“キラキラキノコ”300本以上あるんだよな、しかもあの袋の中だと新鮮なまま保存されるし、というか本当に時間の概念が存在しない異空間に繋がっているんだろうかとちょっとした不安を覚えていると、
「いや、美味しいからといって、もっと味わうように大切にこれは頂くべきなのではないのか?」
「そんな事をしていると、他の奴らに食べられちゃうんじゃないのか?」
「なん……だと……」
「今だって、鈴が“伝説の“キラキラキノコ”の出汁を使っている限定商品販売中”って紙に書いて、外に貼りだそうとしているじゃないか」
フードをかぶった幼女が鈴を見ると、丁度書きあがったばかりの宣伝の紙を張り出しに行こうとしている所だった。
それを見たそのフード幼女は、
「鈴、おかわりだ! 素うどん汁ましましで五杯!」
「はーい、まいどー。どうする? 今すぐ? うどんがのびちゃうかもだけれど?」
「……構わない。その程度些細な事だ!」
言い切った彼女に鈴はうどんを作り始める。
俺はと言えば、この小さな体に五杯ものこのうどんが入るのだろうかと興味シンシンで見つつうどんを食べていたわけだが……結果としてこの少女は、その全てを食べ、銀貨を鈴に支払って去って行った。
鈴との様子から顔馴染みらしいなと思いながら俺がそのうどんを食べ終わる頃には、鈴の店は大行列が出来ていたのだった。
食事が終わった後、ミルルとシルフと共に宿に向かう。
二人とも幸せそうな顔をして、何処となく肌と髪艶が良くなっているようだ。
もしやあのきのこは美容にも効果があるのだろうか?
それならば女性向け美容食品を作りあげて売りさばくのも良いかもしれない。
そちらの方は俺は疎かったが、一応美容に関する薬も魔法使いは作れたはずなのだ。
ただゲームの場合、髪が歩くたびにきらきら輝くと行った外面の変化から、魅了で魔物の動きが遅くなるものまであったが、それよりは現実的な効果が得られそうだ。
そんな事を考えていると、気づけば俺達は宿に戻ってきたわけだが、宿に入ると三人の男女が喧嘩――正確には一組の男女が喧嘩してもう一人の女の冒険者がオロオロしているようだった。と、
「この、もうあんたなんかとは金輪際付き合わないわ!」
「それはこっちのセリフだ、ワガママ女が! この前だってあれがほしいって言うから……」
「なによ、あんただってこっそり役に立たない防具を買っていたでしょう!」
「役に立たないって、あれはあの形肩の部分といい精密なカーブといいい素晴らしい品じゃないか!」
「そう言って一体どれだけ防具を買ったのよ! 無駄遣いでしょう!」
「だったらあの宝石は何なんだ、防御にもなんにもならないただの飾りじゃないか!」
「女は男と違って色々あるのよ!こう見えても大変なのにあんたは全然分かってくれないし!」
といったような喧嘩を大きな声でしている彼らだが、道を塞がれて俺たちは部屋に向かえない。
どうしたものかと俺が思っているとそこで宿の店主が出てきて、
「すみません、もしよろしければ彼らと部屋を変わって頂けますでしょうか」
「それは……構いませんが」
「良かった、恋人同士のようでしたので頼んで正解でした。ではこちらが部屋の鍵です」
何故か俺は恋人同士にされていた。
誰とだと思うが、シルフは少し年齢が低いのでミルルだろうけれど、そこでミルルが、
「恋人同士に間違われてしまいましたね」
「そ、そうだな。でもまあ、そうじゃないのにな」
「ええ、そうですね」
その後俺たちは無言で部屋にやって来るが、部屋を開けるとそこにはダブルベッドと、普通のベッドが一つ。
それを見て俺は、よし、普通のベッドに俺は寝るかと思うが、
「よーし、このベッドはシルフのものです!」
「おい、ミルルと俺をダブルベッドに寝かせる気か!」
「床で寝ればいいと思いますよ」
相変わらずのシルフのクソガキっぷりに俺は、とりあえず大人げなくあちらのベッドからシルフを追い出そうと画策するが、
「えっと、タイキ」
「? なんですか?」
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
顔を赤くしてもじもじしながらミルルが俺の服の袖を引っ張っていた。
まさかと思っていると、そのまま俺をダブルベッドにミルルは押し倒して、
「誰かと一緒に寝るのって久しぶりです。それでは、まず魔法でパジャマに着替えてっと」
俺のすぐ隣に寝転がり、ミルルは魔法を使ってピンク色のパジャマに着替える。
パジャマ姿も可愛いのだが、その頬を染めた笑顔が俺の顔のすぐ近くにあって、しかも女の子のいい匂いがするような……。
「やっぱり気が変わりました。私もこのダブルベッドで寝ます。こちら側なら、お姉様にふらちなことをしようとしたら背後から叩き伏せられますから」
そこでシルフがミルルと反対側からベッドに上がって俺に言う。
だがこの状況は、俺の両側に可愛い姉妹がいる状態で眠ることになるわけで、けれど今更言ってもここから逃げられそうにないと俺は気づいて、
「せめて靴だけ脱がせてください」
そう二人の姉妹に俺はお願いしたのだった。