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碌でもない言葉を口走りそうなので

 遺跡を出ると、太陽が大分傾いていた。

 ただ町に戻っても夕暮れ時よりも早く着きそうだが、


「出来れば、錬金術師と魔法使い用の装置一式揃った部屋を借りたかったんだが、今から見つかるかな……」


 ぼそりと呟いた俺にミルルが申し訳なさそうに、


「すみません、シルフの我儘で遺跡に付き合わせてしまって」

「いえいえ、美人のお願いは断れないんですよ、と言ってみるとか?」


 冗談めかして俺は言ってみるが、それにミルルがかあっと顔を赤くして、


「び、美人ですか。私ってタイキにはそう見えるんですか……」


 ミルルに初心な反応をされて、俺も恥ずかしくなってしまう。

 いや、こう、折角の機会なので俺もちょっと頑張って臭い台詞を言ってみたのですが……これは恥ずかしすぎる。

 こんな台詞を素で言えるって、それだけで才能なのかもしれないと俺は努力を放棄することを決めていると、


「でも、タイキにそう言ってもらえて嬉しいです」


 ミルルが俺ににこりと微笑んだ。

 それがいつにも増してとても綺麗に見えて、恥ずかしい思いはしたもののその結果がこれなら良いかなとも俺は思う。

 現金な話だが、こんな風に可愛い女の子に微笑まれれば誰だってそうなるだろうと思う。

 そんな俺達の間に割りいるようにシルフが入り込んで来て、


「ほら、宿を探しに行きましょう。遅くなると安くていい宿はすぐに埋まってしまいます」

「シルフの言うとおりね。あ、タイキはもう宿を決めていましたか?」


 そう問いかけられていいやと俺は答える。

 それにミルルがそれだったらと言って、


「一緒の宿に泊まりませんか?」

 

 即座に俺は頷いてしまったが、よくよく考えれば同じ宿であって同じ部屋ではない。

 当り前の話だが。

 ちょっとドキドキしてしまった自分が恨めしいと俺は思いつつ、異性なんだから当然だよなと思う。

 間違いが起こっても困るのだから。


 ただこれが鈴の場合どうだろうと俺は考える。

 あのうどん脳の事だから、宿代節約と称して二人部屋のダブルベットを選びそうだ。

 あいつに俺は、男として思われていない以前に扱われていない気がするんだよなと思って、俺はなんだか悲しくなった。


 そこでようやく町の中に入る。

 相変わらず行き来する人で混雑している道を歩いて行き、途中路地裏に入る。


「こういった少し入った所の宿がお安くて品質が良かったりするんですよ」


 と案内するミルル。

 立地条件が宿代に反映されるのは、この世界でも良くある事らしい。

 そう言ってミルルに連れられて行く路地は確かに人は少ないが、それでもそこそこ人通りがあるように思える。

 

 ただこういった住宅街でも街灯の数は少ないようで、夜に出歩くには少し心細い。

 やはり都市ではなく地方の一つの町だから、こうなのかもしれない。

 そう思っているとミルルが、南の方を指さして、


「ここからさらに南に行った方にはスラム街がありますので、そちらの方は治安が悪いので気を付けた方が良いかと」

「この町にもスラム街があるのか?」


 このゲームで南の方と言えば確かごみ山があって、そこに希に貴重なものが埋まっていたので掘り起こしに行った記憶はある。

 そしてその辺りには賊の類がいて、時々戦って経験値にしたものだが、


「……そこに行くのは止めておこう」

「? 好き好んで行くような場所ではないと思いますが、何かあるのですか?」

「たまに宝が眠っていたが、こちらの世界ではどうか分からないし、危険だし匂いもきつそうだから止めておく」

「そうなのですか、あ、この宿です」


 ミルルが指さしたのはこじんまりとした宿だった。







 どうしよう、俺は迷っていた。

 現在俺達はミルルと一緒に鈴の店に、夕食を食べに来ていた。

 何故俺がこんなに悩んでいるのかといえば、先ほど宿での出来事が理由だ。


「宿が三人部屋しか空いていない?」

「ええ、申し訳ありませんが……」


 宿の店主のその言葉に俺は、喜ぶべきかどうかなのか迷った。

 けれど俺から三人部屋で良いじゃん、などと言えるはずもなく迷っていると、


「タイキさえよければその部屋で構いませんが」

「お姉ちゃん!」

「大丈夫、タイキは紳士的ですし、襲ってきたら簀巻すまきにすればいいですから」


 微笑みながら告げたミルルの言葉に、俺の高揚した気分は一気に風船のように萎んでしまった。

 そして他の宿も知らないしこの時間だと宿を確保するのが難しいと聞いて、俺はその三人部屋で構わないと聞いてその部屋に向かう。

 部屋には3つの独立したベッドが置かれていた。

 当たり前の話だが。


 けれどそれでも年頃な男女が同じ部屋なのは、俺自身緊張するのでちょっと悩んでいたのだが、そこで鈴が、


「どうしたの? 悩み多き青年みたいな顔で」

「そんな顔だよ。確かに悩みはあるけれど」

「どんな?」


 楽しそうに聞いてくる鈴に、俺は気づいた。

 今あの話をしたなら、延々とこの幼馴染みのこの女にネタにされると。

 なので代わりに俺は、あの“キラキラキノコ”を取り出して、


「このきのこで俺たちの夕食代を賄えないか?」

「!これ、どこに生えていたの! ずっと欲しかった材料じゃん!」

「今日遺跡で採ってきたばかりの新鮮でホヤホヤのきのこだ。これでいいか?」

「もちろん!お釣りが来るレベルだよ!……は、もしかしてタイキはこのキノコを私に」

「何だか碌でもない言葉を口走りそうなので、それ以上は言わなくていい」

「えー、まあいいや。折角だからこれをうどんの出汁に放り込んでみます」

「ちょっ、大事に使ってくれよ!」

「残念でした、まるごと一本くらええええええ」


 そう言って俺の渡した“キラキラキノコ”をうどんの汁が入った大鍋に放り込む。

 それと同時に鍋から金色の光が溢れだした。


「こ、これは伝説の、スープ職人が作り上げたという“栄華のスープ”の始まりを見ているようだ。かのスープ職人は自身のスープを極めるためにあらゆる危険な場所へと自ら赴き、そして材料を集めたという。そしてその時作り上げたスープは黄金色の光を放ち、口にした瞬間全ての病が癒え、天上の世界にやってきたかのような幸福感がえられたというそんな素晴らしい味だったそうだ。まさかここで話に伝え聞くものが口にできるかもしれないとは……」


 すぐ側で黒いフードをかぶった幼女が、驚嘆するかのような口調で説明を始めた。

 何で料理マンガか何かのような説明的なセリフを口走っているんだこの幼女は、と俺は思わなくはなかったが、そこでまずその幼女にうどんが1杯差し出される。

 どうやら俺達よりも先に注文していたらしい。

 そしてその幼女はごくりと唾を飲み込み、そのうどんを箸で器用につまみ上げ口に含み、


「う、うまい、これは素晴らしい!」

「わー、良かったです」

「ありがとう鈴、こんな素晴らしい物を食べさせてくれて、本当に有難う!」


 そう告げる幼女に俺は、世の中、変わった人がいるんだな……そう俺は思わざるおえなかったのだった。

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