俺の役割
その侵略者たちの世界は、俺たちの世界の何かを複製しているらしい。
「……待てよ? そういえばあちらの世界から来たらしい魔物は俺の世界の虫みたいな形をしていたな」
「うん、虫関係の資料にアクセスした形跡があったわね。それのせいで作り上げていたようなの」
「でも変なものもあったぞ?」
「すぐにアクセスできないようにこの世界やタイキのポケットのような空間を作っておいて、接続できないようにしたから、中途半端な複製しか一部は出来なかったのかもね」
言われてみれば蟻のように見える魔物は、形が奇妙だった。
錬金術で生まれたものとしてもあの奇妙さは、あちらの世界の物を似せて作った模造品の可能性もある。
つまり俺たちの世界の不完全な複製。
俺たちの世界に直接その人工知能の世界は、
「その侵略者たちの世界は、俺たちの世界をも侵略しうるのか?」
「その可能性も考えているかな。最終手段は、その“複製鏡の世界”の存在の消失なのよ」
「……え?」
「下手をすると今タイキがいるあのゲームのような異世界語と消滅することになるかも」
「どうしてだ? 現実世界にはそこまで影響しないだろう?」
「それはタイキが知っているでしょう? 幽霊にひどい目にあわされたし。ああいったことがもっと違う形で私たちの世界に影響を与えるかも」
「どんな?」
「それがわからない。わからないから、危険なものは排除しようかどうしようか、といった話になっているの」
そう鈴は困ったように女神さまと顔を合わせる。
幾らか鈴の人格やら何やらを複製した女神様なので、深刻そうな顔をしている。
それに俺自身もあの世界に愛着があるので、
「どうにかして俺たちの世界に接触しないようにしておきたいと」
「うん、そしてこちらの世界への侵略は阻止したい。最終手段は消失、次点で本物の“高度管理社会”の導入かな」
「本物って、どんなだ?」
「そのままの意味。まともにその世界が機能していないのなら機能するように“強制的”に介入する、という事。こちらの思う“理想的”な状態を押し付ける形になるかな」
「それってどうなんだ?」
「少なくとも争いもなくなり、侵略もしてこなくなるけれど……本来そういったものって、他者が押し付けるものじゃないような気もするのよね。自分達の力で、自分達がよりよくなるように動く……だってそうしないと、その他者からの圧力が無くなったら、元に戻ることだってあり得るわけだし。きちんと安定した状態にする、それは難しいことなのよね」
「……それにあちらの人達が自身の尊厳をかけて、本来なら手に入れないといけない事か」
自分たちの事は自分達でやっていく。
難しい事だけれど、それは誰だってそうなのだ。
ただそうなっていくと俺としては、
「猶予期間を俺は彼らに渡してその後の様子を見れる状況にもっていく、といった形か? 手助けなどを多少して、最小限で安定化させる。……この世界への併合はどうなんだ? 元は同じなんだろう?」
「無理よ、別の進化をたどってしまったからこちらに混ぜるのも難しいし人工知能自体も変質している。他にはこちら側の理由で、女神をしている世界は新たな技術を与えると、どのように進化するかも見ているから……不確実な要因は今は入れられない状態になっている」
「そうなると魔族はどうなんだ? 魔族も異世界から来たんだろう?」
「まだそこまで変化はないだろうという事と魔族自体がこの世界に適合しやすそうだから、あの時は大丈夫だったんだけれどね。それで、魔族には当初奇妙な病気といったこの世界と“違う”関係での変化は見られたけれど、この世界に大勢がついたのか収まってしまったし」
つまり魔族の場合は、この世界に適応しやすかったらしい。
そして、他は無理だろうと鈴は言っている。
さらに鈴は、
「それに今の“複製鏡の世界”と呼ばれる異世界は内部分裂寸前で、その“複製鏡の世界”自体が、いくつにも分かれるかもという状況であるらしいの」
「そんな、なんでまた」
「内部で富の奪い合いがあるのと、魔族が消えたことが原因みたい。魔族がいなくなって潜在的な魔力量の減少、そして“敵”が居なくなったことで内部での争いが激しくなって……そのおかげで一時期錬金術自体がかなり衰退したらしい。そのあたりはあの子に聞いたのよ」
「アケルナルか?」
「そうそう。おかげで未だに、現在の魔族よりもちょっと進んだ技術水準みたい。でもかれらは精霊を味方につけているから、力が強力なのよね」
「精霊か、精霊ね……もしやサーシャも結構強かったりするのか?」
「普通に、この前戦った相手と一対一では戦えるんじゃない? それにあのリズさんはこの世界の“仕様”とはいえ、あの夫婦は強くてね。実の所普通に様子見のために追跡していたから戦っていないだけで、あの程度の相手は“殺していい”なら倒せるのよね」
「……最終手段だな、俺の場合」
「それだけタイキの力が強いって事にもなるけれどね。ここまでで大体話したと思うけれど他に何か聞きたいことがある?」
聞きたい事はほかにあるか。
俺は少し考えてから、
「奴隷の開放やらなにやらはやっぱり異世界の侵略者がこちらに来た時に戦うためか?」
「うん、この世界を守るのはこの世界の人達だからね。私は手助けするけれど」
「そうか……でもそうならないように俺、頑張るよ。なんだかんだ言って気に入っているし」
「そうなんだ。でもほどほどにね。現実の生活に支障が起きない限り」
「……この世界の時間はゲーム内の時間に似せているから、まだそれほど経っていないだろう」
「あ、ばれちゃった? 時間も私達の世界と同じリアルタイムっていうのもね……でも昔より時間の流れは遅くなっているんだよ? これでも。ゆっくり変化が見たいからというのもあって」
「……実験台みたいにメルけれどこの後どうなるんだ?」
「いずれ私達の手を離れて自立的に運営されていくはずだよ。もっともその世界に“気に入られた”りといった色々な事情があればこれまで通り、その世界に行くことはできるでしょうね」
「俺は認められるか?」
試しに聞いてみた。
女神の方に向かって。
そして女神は楽しそうに微笑み、
「ええ、待っているわ。そして鈴も」
そう答える女神。
まだ完全ではないけれど、俺に対しては好意を抱いているらしい。そういえば、
「なんであんなセクハラを俺にしたんだ? 鈴」
「いや~、自分にできないことをやれる、いわば理想像が女神様なんだよ☆」
「……」
「というのは置いておいて、私の分身をコピーしている関係で、一応は時々記憶の動機は行っているんだけれど、真っ先に、タイキが大好きって部分が移植されたらしくて、このようになってしまいました」
「……そうなのか」
つまり鈴が俺を好き、という部分を真っ先に複製されたのであれだけ……そう思うと俺は頭痛がした。
そしてこれ以上は話しても仕方がないので、
「分かった。何とかあちら側の人と話して譲歩をもぎ取ってくる」
「うん、お願い。といっても一応私もついていくけれどね」
「補助もよろしく」
「私にできることは、襲い掛かってきたときにそいつらを吹き飛ばすことくらいだよ。そっちは期待しておいて」
「……一番厄介なところを押し付けられた気がするな」
そう鈴に返しながら俺は、とりあえず俺のできる範囲で頑張ってみようと思った。
そこで再び目の前の光景が変化したのだった。
「タイキ、どこに行っていたのですか?」
「女神様と少しお話してきた。それで……」
そこで全員にとりあえずは、侵略してくる世界の人と話し合いから始めることになった。
幾つかの事は話せない。
けれどそれでも俺なりに気持ちを伝えると、
「ではあなたをご案内しましょう」
アケルナルがそう笑う。
なんでも、こちらに行った裏切り者と思われるのも困ったので、言い訳に使えるとのことだった。
他にも、こちらの世界のようになれるならという算段も彼女にあるらしい。
また、更に、サーシャも精霊使いなので交渉する時に、役に立つらしいと教えてくれた。
あちらの世界では精霊は、大切なものだからとのことだった。
すると女神様まで現れて、
「じゃあ触手邪神も連れて行ったらどう?」
ということでその邪神様が召喚されました。
こんなに早く呼ばれるとは思わなかったと俺は笑われたけれど、事情を話すと手伝ってくれるらしい。
またリズさんたちも後ろで控えているそうだ。
「私は無理そうだ。魔族の長として、仕事があるのでな。代わりにミルル達、頼んだぞ」
「「「はい!」」」
こうして特に障害もなく、それどころか俺が言い出すのを待っていたかのように、話は決まってしまったのだった。
これで説明会終了です。後は完結までもう少し。頑張ります。