“人工知能戦争”
侵略してきた世界が、この世界から分裂したってどういう事だと俺は思った。
そこで鈴が、
「うん、ちょっとしたミスが有って私の作った世界の一部と人工知能の一部が融合して、あの世界ができあがってしまったの。本来の目的とは違う形になってしまったので、ちょっと動作がおかしくなったけれどね」
「動きがおかしい……というかそれで上手く世界が作れているのか? 人工知能の断片だろう?」
「そうなの。でもこう、人工知能も自己を保存しようとするようになっているから、その過程で変な動きを始めたのよね」
「……そもそも人工知能はこの空間に持ってこれるのか?」
「正確には一部の複製したものが入っていた、ということなのだけれど……それでまあ、私が作り上げた世界とは違う世界ができてしまったの。例えば、魔族がいたりとか」
「そういえば魔族はあちらの世界からこちらに来たのか」
「そうそう。そこまでは良いのだけれど、“精霊”すらも逃げて来てしまって、ようは世界を形成する魔力が減少してしまった。それがあちらの人工知能には許せなかったらしくてこちらへの侵攻を進めていたらしいのよ」
その話を聞きながら、俺は今俺達の世界で起こっている出来事と組み合わせると、矛盾することに気づく。
そもそも、
「人工知能は人間に危害を加えないようになっているんじゃないのか? 鈴は人間だろう? それともその人工知能が壊れていたのか?」
「今の人工知能は、悪用禁止のためにどのような制限がされているかは公開されていないけれど、確か噂では、アイザック・アシモフの小説に出てくるロボット三原則に似ているとかいないとか。ただ私の場合人工知能の複製や補助があるから、“人間”と定義するには曖昧だったみたいなの」
「……つまり鈴自身が今起こっている“人工知能戦争”に巻き込まれようとしていたってことか」
「そうなの。とはいうものの、こちら、正確には“私”が手を出さない限りは相手も手を出さないようだったのだけれどね」
「それは鈴を“人間”と認識していたって事なのか?」
「分からない。実際に聞いてみたわけではないから。だからその関係もあって、外部から呼び寄せる必要もあったの。それも信頼できる相手。というわけで、タイキにお願いしてみました」
「事後承諾だった気がするが、でもそうか、“人工知能戦争”か」
まさかこんな身近でそれを聞くとは思わなかったと俺は思った。
それこそネットやTVでここ最近特に聞いていた話だった。
“人工知能戦争”。
現在俺達の世界で起こっている“戦争”の一種である。
ニュアンスとしては、経済戦争などの意味に近い。
そこそこ昔の話になるが、人間の管理を“人工知能”に一部ゆだねようという話になっていた。
背景にあったのは、少子化における労働力の不足と、産業の効率化、促進のためだと日本史の教科書では書かれている。
特定の範囲内で、限定的にトップに“人工知能”を置いて人が働くのを効率化させるのである。
その案が出てきた当時には、機械化が様々な分野で進んでいたが、同時に問題になったのがブラック企業であったらしい。
合理化や効率化を低下させた悪い風習は人間だからこそ出てしまった悪い側面であるらしい。
今では信じられないが、異常な仕事の量、残業を過少報告させたり、長く仕事場にいることがステータスで、たばこ休憩をしないとやっていられなかったり、怒鳴りつけたりしてストレス発散するのを教育と称していたらしい。
他には、恐怖感を植え付けることで低賃金で使う事でそこから逃げ出せないようにし、結果として、親が乗り込んでくるというのが多々あり、近頃の若者は親が出てくる~と言っていたんだぞ、と、白髪交じりの大学の教授が面白がりながら話していた。
今でこそ、体調管理や仕事の配分の幾らかを“人工知能”が担ってくれているが、当時はそんな状況であったらしい。
そして国際競争力維持のためにそれが導入された当初は色々と問題があったものの、改善されている。
“高度管理社会”とも当初は呼ばれていたが、どんなものでもそうであるように試験的なものも含めて一部であったため、人間の尊厳が~といったものには影響はなかった。
しかもこれを導入した会社や大学では、研究や仕事などがし易いように管理されているために効率が進んだ結果、余暇が取れるようになり、その分、国内でのゲームの消費や自動車の消費等が増加し、また、趣味の部分から得られた“アイデア”を商品や新しい産業へと投入して逆に人間としての充足感が得られるようになったのだという。
そもそも人間が必要なものなので、人間に適したものが必要なためその部分は“人工知能”の限界であったらしい。
また、経営者などの上で指令を出す人間にとっても効率的に動き、かつ一部の雑用の判断を“人工知能”にある程度任せられるのは彼らにとっても都合がいいようだ。
さて、話を戻すと現在の話に戻すと一部の大学などはすでに“人工知能”による効率化がすすめられているが、そうでないものも存在する。
一つの物にすべてを任せた場合、それだけだ対処できない問題に予期せず遭遇する可能性と、効率化を行って長期的に行った場合に違う問題が生じる可能性に遭遇した場合に対処するためであるらしい。
そしてその予期せぬ“人工知能”の問題が、現在起こっている“人工知能戦争”である。
“人工知能”は人間に危害を加えられないが、“人工知能”相手であれば可能だった。
故に競争を始めた際に、“人工知能”によっては相手の“人工知能”に対して邪魔だと認識するようになってしまった。
一応はそういったことをしないように制限をかけるようにしているが、その合間を縫って攻撃を始めている。
これが“人工知能戦争”として現在起こっている事象である。
余談ではあるが、人間のために作られたものでもあるために人間を殺すようなことにはならないが、間接的に人間を殺そうとしてきているようだとか、むしろ感情が芽生えているのではという斜め上の発言をしている人もいたりする。
その感情があるように見えるから、人工知能に制限をかけるのに“人工知能”への権利が、という話もあったが、そもそも人間だって何の制限のない“自然状態”ではない。
例えば、人が人を殺したらいけません、殺人罪で捕まります、のように。
道徳心以外で実質縛っている法律というものが、俺達の人間社会では自然とルールとして存在する。
そういった事情を一通り思い出しながら、鈴の現状を思い出した俺は、
「でも俺は現在、精霊なんだろう? 鈴みたいに“人工知能”にあちらの世界に行った場合、“敵”と認識されないのか?」
「確かにタイキには一部“人工知能”による補助はあるけれど肉体は精霊だから、この世界でもあの世界でもただの魔力と認識されるかもしれない。私のように一部複製ではないから、“人間”として認識されるかもしれない」
「そしてもし“人間”として認識されるならあちらの世界の神に当たる“人工知能”は“人間”である俺に従うかもしれないと」
「うん、それもある。そしてタイキには私よりもずっと、この“ε(エプシロン)”の使う能力が高い、そして一番は私が信頼できる相手だってことかな」
「いいように使われている気がする」
「そう? ではこれが終わったらデートをしようよ、タイキ。美味しいお店でおごってあげる」
「……また美味しいうどん屋巡りに俺を引きずり回す気か」
「他に食べたいものがあるならそっちでもいいよ。どうする?」
「お肉でお願いします。高級なお肉で」
「く、なんだか高そうだけれどまあいいや」
鈴が嬉しそうに俺を見ている。
でもデートかと俺が思っているとそこで鈴が、
「それで、あの世界の問題をもう一つ。実は私たちの世界の情報を一部、あの世界……私たちは“複製鏡の世界”は、複製しているようなんだ」
そう俺に鈴は告げたのだった。
SFで見かける管理社会ネタ、これ以外だと文明崩壊ネタをよく見かける気がするのですが、今回はそちらの文明崩壊ネタはバッドエンドといいますか暗いネタになってしまうので止めています。明るいSFも隠れたテーマでしたので、こういった形に。でも、説明回が書いても書いても終わらない……次で終わるといいな。夜更新できればいいのですが、暑さのせいか頭が痛い……。