女神様と鈴
俺は何処かで気づいていたのかもしれない。
女神様に対する違和感。
知識があまりにも俺達の世界に偏りすぎている。
核融合だ何だ、俺達の世界の知識を女神様は持っているようだったのだ。
それに時折、鈴の笑顔と重なるのだ。
他にも俺に対する信頼っぷりが、今回初めて会っただろう人物にしては高すぎる気がしたのだ。
奇妙なそれらは、この謎空間に女神様と鈴がいる事で、察せられる。
と、この星々のようなものが煌めく場所に、白いテーブルと椅子が3つ現れる。
俺が、鈴と女神様に向かい合うように配置されている。
「タイキ、座って。座って話をしましょう?」
「鈴、この空間で座る事に意味があるのか? 浮かんでいる感じがするし」
「気持ちの問題よ」
肩をすくめた鈴に俺は、とりあえず座ることにした。
座ってみると確かに“椅子”のように感じる。
普通の金属製の椅子の感触だ。だが、
「何もない場所から、テーブルと椅子か」
「面白いでしょう?」
「鈴……鈴と女神様、話すのはどちらか一方にしてくれ。同じなんだろう? わけがわからなくなる」
今度は女神様の方が話しだしたので俺がそう言うと鈴と女神様は二人して笑う。
こうしてみると姉妹のようにそっくりだった。
そこで鈴が、
「じゃあ私が話すね。まずは何処から話そうかな? あ、でも初めに訂正だけしておくと、私と女神様は同じだけれど、厳密には“違う”の」
「同じで違うって、全く反対じゃないのか?」
「それが両方を内包している、ということなの。この女神様は姿形は、タイキが昔好きだったとある漫画の女性キャラクターを模しているけれど……」
「待て、今俺が昔好きだったって……」
「えーと、それで、中身である人格は私の一部複製と人工知能の集合体で出来ているの」
さらっと口に出した鈴の言葉にいくつも突っ込みどころがあったため、逆に俺はどれから聞けばいいのか分からなくなる。
仕方がないので黙ることにした俺に鈴は、
「どれから詳しく話そうかな~、あ、この姿に女神様をしたのは、私がタイキを“好き”だからだよ」
「……今までそんな素振りあったか? 普通に幼馴染な友達で異性と認識するような展開、あったか?」
「うん、タイキがそんな風に思っているだろうなとは、薄々感じていたけれど……面倒くさいから今ここで言っておくね。私、タイキが“恋愛感情”で好きだから、以上」
「……」
「それで続きを話すね」
鈴はサラリと俺に告白をして、説明を続けようとした。
甘い雰囲気も何もなかったが、鈴は元々こういう性格だととてもよく知っている幼馴染の俺は色々と諦めた。
代わりに話をそのまま聞くことに集中する。
「まず初めに、私達の意志によって動かされる新しいエネルギーが発見されたのは前に話したよね?」
「そういえば言っていたな、女神様の方が」
「そうそう。あれは私達の、簡単に言うと私達の世界に接している隣の空間に多く存在しているものなの。ちなみにそこと重なるから、それの影響で私達の世界で言ういわば“幽霊”もそのエネルギーが原因らしいの」
「なんだ、オカルトか?」
「私も初めて聞いた時はそう思ったわ。でも現実には存在している。タイキだって今ここにいるのは事実でしょう?」
「未だに実はVRゲームをしているだけというオチも俺には欲しいな」
「いや~、タイキがゲームをしようとした所で引っ張ってきたから、あながち間違いでもないのよね」
「……鈴、全部鈴の仕業か」
「女神様が連れてきたんだから、そういうことになるでしょう」
「だったら、もう少し初めから俺に説明しろ」
「何時でもタイキが逃げて帰れるようにって部分もあったの」
「……それは俺がもう限界だ、帰りたいっていえば帰してくれたと?」
「うん、そうだよ。でも私は、タイキに“助けて”欲しかったんだ」
鈴が微笑みながら俺に言う。
だから名指しで言うなと俺は思った。
怒る気が少し失せてしまう。
そんな俺の様子に気づいたのか鈴が、
「タイキはお人好しだね、そういう所は大好きだよ。昔から」
「……あー、もう、早く続きを言ってくれ」
「それで、その意志によって動かされるエネルギーが、重力などに次ぐ、5番目の力だと言われているの。だから通称“ε(エプシロン)”。その力を使って……人工知能に補助してもらいながら、今、その力を使いここに机と椅子を作り上げたわけ」
「? その“ε(エプシロン)”を使うのに人工知能が必要なのか?」
「必要だよ。ようは私のイメージだったり概念だったりを、その“ε(エプシロン)”で具現化するするのに、人工知能の補助が不可欠なの。人工知能は特定の分野に秀た集合体で、それに私が指示を出したりある程度行動を予測して、私がそれを行うのに必要なモノを提案して私が取捨選択するという形かな」
「……人工知能の役割はわかったが、どうして必要なのか分からない。望めばそれが出てくるわけだろう? このエネルギーを使って」
「あー、そこは……例えば、タイキの目の前に、最近タイキが集めているピンク色の髪の女の子のフィギュアがあるでしょう?」
「……何で鈴が知っているんだ」
俺がこっそり集めているそれをまだ話したことはないはず……いや、アニメの話はしたがどうして鈴がそのフィギュアを俺が持っていると知っているんだ?
まさかストー……と俺が別の意味で戦慄を覚えているとそこで鈴が楽しそうに笑い、
「周りを気にするようにタイキが、秋葉原でその人形を持ってレジに向かう所を見たの。あ、こういう時に声をかけたら可哀想だと思って、私は黙ってその場を去ったよ☆」
「……」
この生暖かい優しさは心をえぐると思った。
地味にSAN値が減っていくのを感じながら俺は、
「それでその女性フィギュアがあるでしょう? それを見ているからといって、それを写真のように画用紙に鉛筆でそれをタイキは描くことは出来るかしら」
「……無理だな。たまにそういった才能を持っている人はいるが俺にも出来ない」
「そう、普通はできない、私も含めてね。だからそれを補うために既存のものなどを参考にして、あの“世界”を私は作り上げたというわけ」
「ゲームに似ていたのはその影響か?」
「そうよ、最近ハマっちゃってね。でもその方が、タイキにも分かりやすかったでしょう?」
「確かに、何も知らない世界だと困る。でもそうなると鈴はずっと女神をやっているのか?」
「一応はこの女神に私の人格と能力を複製するようには徐々にしているかな。まだこの“ε(エプシロン)”についてはよく分かっていないの。このエネルギーで自然発生的に“世界”、いわゆる私達の言う異世界、それも魔法の存在するファンタジーのようなものが幾つも存在しているのも確認されている。それにまだ私達が認識できない物があって、それで“世界”が作られているのかもしれない。そして認識できない“世界”が私達にこれから認識出来るようになるとは限らない」
この科学の発展した時代においてもまだまだわからないことが沢山あるらしい。
それを熱っぽく語りながら鈴は続ける。
「でも私は自分の作り上げたこの“世界”が気に入っている。だからきっと私を複製したこの女神もこの世界が大好きだと思う」
「そうなのか」
「うん、そしてもしかしたなら、私から独立した女神は、この世界に、“タイキ”を作ってしまうかもね。私が、タイキを“好き”だから」
「……俺が二人いるのか」
「もっといっぱいでもいいよ? 6人位?」
「……いや、そんなに沢山は俺が嫌だ」
脱力感を覚えながら俺は、鈴にそう返したのだった。
設定説明が長くなりそうです。そして書いてみましたが、やっぱりこれは分類するとなるとファンタジーかな……。夜も更新できるといいな……