二回目の戦闘の結末
ミルルの力が起動したらしい。
そして俺の結界も発動している。
そこでこちらに投げかけられた炎の一つが、薄くぼんやりと緑色に光る四角いガラス板のようなものによって跳ね返される。
これが俺の力を引き出して使った魔法かと思う。
この世界の人達はこの世界の人達で、新しく魔法を作り出しているようだ。
その魔法を見ながらも、こういった新しい魔法をこの世界で作ってみるのも楽しそうだとは思う。
全てが終わった後で、機会があれば挑戦してみるのも楽しいかもしれない。
そんな緊張感のないことを考えてしまった俺だが、ミルルの反射の魔法といえど全てをかわせるわけではなさそうだった。
とはいうものの、確実にこちらへの攻撃は減っており、こちらに近づけないように攻撃していくのも合わさって俺達には今の所、有利に働いている。
後はこの結界が壊れない程度の魔法で目の前のこの人物、つまりニセモノの怪盗を攻撃すればいいのだが、そこで鈴が、
「本当に動きが早くて困る。こっちに来ないようには出来るんだけどね~」
「鈴、困っているように聞こえないぞ」
「うーん、周りの被害を考えなければ、お星様には出来ると思うんだけれどね~」
「それは最終手段で」
「うん、鎚での攻撃は結界も割っちゃいそうで、こんな優しい攻撃しかできないね」
そう言いながら相手の位置に銃口を修正して次々と打ち込んでいる鈴。
ゲーム内では四次元空間に魔法的な銃弾が装填されているとしか思えない構造になっていたが、
「残りはどれ位だ?」
「そろそろお終いかな、後はサーシャにお任せしたいけれど、どう?」
鈴が先程から攻撃というか投げているサーシャに話しかけるが、
「あまり長くありません。ミィも駄目になっているし」
すでに魔力が切れかけている精霊のミィは、箱の中に戻ってしまっている。
このニセモノの怪盗の攻撃は、一発が重いようだ。
そうなってくると、出来るだけこちらに近づけないように攻撃した方が良さそうではある。
かと言って今のままではこちらの武器が尽きるのが早い。
早めに蹴りを付けられればいいが、相手はそういった優しい相手ではなさそうだ。
そしてこのまま攻撃しても既でかわされるかもしれない。
一応は、目的の相手を追跡して攻撃するタイプの魔法もあるが、これだけ動きの早い相手でも当たるのだろうか?
目の前で右上や左下など、自在に動き回りながら攻撃してくる彼の動きを、もう少し足止めしたい。
それに対する回答は、
「2つくらいで様子を見よう」
呟くと同時に、“人造精霊”を二人ほど呼び出す。
現れたのは同じ姿をしたゴスロリの少女。
前々から思うのだが、これは断じて俺の趣味ではない!
そう俺が心の中で反論した所で、
「「ご主人様、ご命令を」」
「あそこにいる敵の足止めをして欲しい。少しでも動きが鈍くなるように。そしてこちらが分からの攻撃や、敵に対して攻撃は避けるように」
「「了解」
同時にその二人の人造精霊は走り、宙を飛び的に近づく。
それにニセモノの怪盗は攻撃するも魔法で“人造精霊”は防御しているようだ。
しかもちょっとした攻撃までしてくれている。
よくよく考えれば一人に対してこれだけの人数で戦っているのだから、相手の力の脅威さは分かるだろう。
それだけの自身が彼にはあるということか。
そう思いながらも表示されている体力は少しづつではあるが減っている。
魔力自体はそれほど多くはないものの、徐々に減っている。
この錬金術の攻撃用アイテムを起動させるのに彼は魔力を使っているのかもしれない。
そう思いながら、選択画面を呼び出して一つ選ぶ。
氷の魔法で、一気に幾つもの氷の刃が襲いかかる危険な魔法である。
しかも特定の相手に向かって飛んで行くものだ。
一撃が弱い分、数で押せて、逃げまわる速い相手には好都合だ。
軽く指で押して選択する。
「白い息吹は凍える
その氷は覆い尽くす一欠片より来たり
あまねく大地に眠りを呼び
静かに一つ佇み
かつての目覚めに思いを馳せ
やがて来る静寂の崩壊を見る
その予兆は星の瞬きよりも短く訪れる」
青い光が俺の足元に浮かび上がると思うと、そこから幾つもの光の線が中に浮かび孔雀が羽を広げるように結びつき、交差したん場所に小さな円陣が浮かび上がる。
そこから次々と氷の刃が生まれていき、周囲の空気中の水分が冷やされて白い煙になっている。
どことなく体が軽くなるのをいつもよりも感じる。
魔法をたくさん使うと感じるこれはなんだろうと俺の中で疑問が浮かぶが、それどころではないため頭の隅に追いやる。
ようやく魔法は完成した。
後は、命ずるだけ。
「“蒼き氷の断片”」
僅かな時間差を置いて、氷の攻撃が彼を襲う。
人間相手はやはり不安を覚える、そう思いながらも体力が減っていくのを確認していく。
順調に減少しているようだが、その全てを撃ち尽くしてもまだ幾らかは残ってしまったようだ。
攻撃により生じた白い煙が徐々に晴れてくる。
そこには、ふらふらとしたようなニセモノ怪盗がいて、俺を睨みつける。
俺は彼に、
「降参しろ、できるかぎり俺からも命の保証をするよう頼んでやる」
「……やはりお前達は、特にお前は、おかしい」
ぎろりと憎々しげに睨まれた俺だが、そういえば彼には以前、お前は本当に人間かと聞かれたのを思い出す。
ただの戯れ言と流すことも出来たのかもしれないが、俺は何かが引っかかって、
「何がおかしいんだ?」
「……お前は魔力その物に見える。それも“精霊”に似ている」
「力の強さか? だがお前は一人で俺達を相手にしたじゃないか」
「は! 魔力をためておく装置も使わずに、いつでも即座にこれだけの事をやってのける、文献から見た魔族だってこうはいかない。お前は本当に“何”なんだ」
あざ笑うようなその言葉に俺は、気味の悪さを感じる。
たしかに俺は異世界人だが……本当に俺は、以前のままの俺なのか?
だがその言葉すらも、目の前の敵にとっては必要なものであったらしい。
つまり、その油断をつかれて、その偽物怪盗はまたもその場から消えてしまう。
またも俺は取り逃がしてしまったらしい。
けれどとりあえずは、現場の危機は去った。
そして俺達が結界をといていると、リズさん達がやってきたのだった。
現れたリズさん達はこちらの意見もあってかアナルケルに関しては、拷問などの形にはならないようだった。
一応はスマホの女神様にもお願いをして、悪いことにはならないようにお願いをする。
「女の子には甘いのね」
と嘆息されてしまったが、彼女を通じて上手くい世界からの侵略を止められないかという俺なりも打算があるのだと伝えて何とか納得させた。
これからいろいろと話を詰めるらしい。
全図書館関係の費用は俺達が弁償しなくて済むそうだ。
異世界人関係の話はまだ一般には伝えないことになっているらしい。
そういったこともあり事なきを得た俺達は、それぞれ家に帰る事に。
ちなみに鈴はうどん屋に戻りこれから仕込みだそうだ。
ただ別れ際に鈴が、
「タイキ」
「なんだ?」
「私はタイキの選択が間違っていないと思うよ」
そう言ってきたのがとても印象的だった。
それからミルルも家に帰ると同時にふらふらと倒れてしまい俺が支えて慌ててベッドに運んだ。
俺の力が巨大すぎて制御が大変であったらしい。
エイネとシルフは説明が中心で大変だったそうだ。
またエイネはいざとなったら歌声であの怪盗を倒そうと考えていたそうだ。
そういった話をして俺は現在ベッドで、疲労回復をしていたのだが、
「やっぱり体が軽い気がするな」
けれど理由は思いつかなかったのと疲れもあってか、そこでそのまま俺は寝入ってしまったのだった。