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図書館での遭遇

 やってきた図書館の、精霊系の資料の本棚周辺には幽霊が現れるという。

 そしてそこにいる人物は幽霊ではなかったが、幽霊のように消えてしまっても納得の行く人物だった。


「また貴方達なの? よく会うわね」

「そうですね……」


 そう答えながらも俺達は警戒を解けなかった。

 だって目の前にいたのは、異世界からの侵略者である彼女だったから。

 どうして彼女がこんな場所にいるのだろう。


 そう思っているとそこで彼女は、


「私の名前はアケルナル。こうも何度も出会うと名前を伝えておいてもいいかという気になってくるわ」

「アケルナルさん、どうしてこちらに?」

「その前に、私が聞きたいわ。どうしてあの扉が開けたの?」

「そちらが開いたのでは?」

「そんなはずはないわ。だってまだあの時は、私は、あの扉の鍵を使っていないもの」

 

 そう答えられてしまうと困ってしまう。

 行ったら偶然あそこに扉があって、偶然サーシャが触ったら扉が開きました、というのが事実である。

 だがそれを言って信じてもらえるだろうか?


 だが答えないと話が進みそうにないので、サーシャの事はまだ黙っておく。

 言い訳をするにはどうするかと考えているとそこで、


「そちらの子たちがよくよく見たら魔族よね。そしてあの扉が開いたのはその子たちのせい、違うかしら」

「……」


 とりあえずは黙っておくことに。

 その俺の沈黙を肯定と取ったのか彼女が、


「なるほどね。でも私が聞きたいのは、どうしてあの扉のあるところに来たのか、よ。最近苦労して移動させたというのに」

「移動させたのですか?」

「知らなかったの? 私はてっきり、こちらの世界を経由したとはいえ追跡されたのかと思ったのだけれど」

「いえ、あそこには“魔物使い”がいるので捕まえて欲しいという依頼で向かっただけです。そこでたまたま遭遇しただけです」

「そう、偶然……偶然、ね」


 アケルナルは何かを考えこむようにそういう。

 次に、俺の方を見て、


「それで今日はどうしてここに? それも偶然?」

「そうですね。雑誌に図書館の幽霊が出ると載っていたので様子見に」

「……声をかけられて逃げたのがいけなかったかしら。そういえば幽霊屋敷にいたら貴方達と会ったのだから、幽霊の噂となると……貴方、幽霊が好きなの?」

「いえ、嫌いです。大嫌いです」

「……そうなの。ならどうしてここにきたの?」

「嫌がる俺が連れてこられてしまったのです」


 そう答えると、何故か嘆息されてしまった。

 とはいえ一通りこちらの立場も含めてお話したので、俺も聞いてみることにした。

 多分、ここで本を仕入れるように何かしているのは彼女だと思ったからだ。


「あの、この精霊の本棚で一体何を?」

「私達の世界では精霊は重要なの。魔族側の知識とはいえ、精霊には数々の錬金術も含めて教わったし手伝ってもらったのだもの。けれどその精霊も、この世界に逃げていってしまった」

「そうなのですか?」

「ええ、そして精霊の力を借りて私達はどうにか錬金術を発展させてきたけれど、その精霊の特に私たちに友好的な強い力を持つ精霊がいなくなってしまったから、この世界の精霊を連れてくることも考えているの」

「連れてくる?」

「そう、精霊を、この世界にいる精霊を連れてくることで何とかこちらの世界の現状を打開できればと考えているの」


 そう話す彼女を見ながら俺は、その逃げてきた精霊という下りに何か覚えがあるのを感じた。

 たしかあの触手邪神の精霊は、この世界に来たと言っていたはずなのだ。

 だとするとあちらの世界の様子についてかなり詳しく知っているのでは?


 そう思いながらも俺は彼女に聞く。


「そちらの世界は一体どうなっているのですか? こちらに侵略しようなんて、どうしてそんなことを考え始めたのですか?」

「住み心地が悪いのよ、魔力も少ないし、魔族がいなくなってよりそうなったようだしね」

「魔族がいなくなって?」

「ええ。理由はよく分かっていないけれど、魔族がいると私達の世界は私達にとってももう少し優しいものであったらしいの。でも今は違う」


 遠くを見るように彼女は言う。

 彼女の世界がどういった世界になっているのかは俺達には分からない。

 砂漠だって、俺達の世界では昔からあるものは自然にそうなるようになっている。


 そこで再び精霊の本を手にとった彼女は、


「でもこういった本が大量にある場所でも、精霊に関する話はあまりにも少ない。新しく本を取り入れてもらうようにしても見たけれど、新しい本もまたほとんど精霊について書かれていない。まるでこの世界の精霊は、人を避けているみたい。……人を嫌っているのかしら?」


 彼女がそう独白のように呟きながら、唇の端を上げた。

 ゾッとする笑顔の彼女。

 俺はどうすれば良いのかと思う。


 多分これから彼女は“何か”をするだろう。

 その時、俺はどうすれば良いのだろう、そう思っているとそこで声が聞こえた。


「やはり、女は信用ができないな」


 その声とともに何かが通り過ぎる。

 破裂音と、落ちてくる本。

 アナルケルが何かを叫んでいたが俺は彼女の手を引いてかばうようにする。


 幸運にも俺の所に本は落ちてこなかったし、彼女が怪我をすると思うと自然と体が動いていた。

 危険だと思ったからかばった、俺にとってはそれだけだった。

 そしてすぐに俺はその人物が現れることを予想して、魔法の杖を準備しておく。


 選択画面を呼び出しての魔法は、時間がかかる。

 現れたら即座に対応できるように、そう思っていると予想通り一人の男が現れる。

 服装はこの世界のものに似ていてそれほど奇抜ではない。


 人混みに紛れ込めば築かない普通の人物。

 けれど彼の声には覚えがある。

 以前ニセモノの怪盗として現れた存在だ。


 そして彼は俺達が敵だと知っている。

 睨みつける彼の視線は氷のように冷たいが、それはどうでもいい。

 今の攻撃は目の前の彼自身の味方であるアナルケルをも手を出そうとしていた。


 彼は一体どういう人物なのだろうと思う。

 思うけれど、彼が次に何かをしようと動く前に手を打たないといけない。つまり、 


「風よ」


 杖を振りそう俺は呟く。

 同時に杖から風が吹き出し、現れたその男を図書館の壁に穴を開ける形で吹き飛ばしたのだった。


明日も更新できればなと思います。夏バテ中……

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