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図書館の目的の場所

 家に戻ってくるとサーシャが俺に、


「あれ、ミルルのお姉さんたちはどうしたのですか?」

「帰ったぞ。今日はホテルで二人きりだそうだ。……リア充が」

「タ、タイキ? 顔が怖いですよ?」

「いや、何でもない。人生には色々あるんだ。……やはり、この前のマッチョな薬を作るか。やはり鍛えた体は、心の充足感を高める気がする。それとも今から筋トレを始めるべきか」


 俺は真剣に考えた。

 体も心も健康的、それは素晴らしいことのはずなのだ。

 筋肉作りにはプロテインが必要だろうかと考へ始めた俺は、


「よし、明日は大きなダンベルを購入しに行こう。まずはそこからだ。部屋は開いている場所がまだあるから、そこに体を鍛える器具を揃えていこう。なーに、お金ならある。多少の無駄遣いは致し方あるまい」


 と一人笑っているとそこでミルルが、


「エイネ、お願いできるかしら。私達ごと眠らせていいから、全力でお願い」

「分かったわ」


 そこでエイネの歌声が響く。

 少しクラリとしたが、この程度俺には平気だった。

 延々と響く歌声はとても心地が良い。

 やがて歌が途切れて、


「く、やはり貴方には効かないのね。私の歌声がここまで効かないなんて」

「そのようだな。そしてミルル達が眠ってしまった今、俺を止めるものはいない。この時間であればまだ店は開いている。残念だったなぁ」


 俺はエイネに勝利宣言をして外に出ようとした。

 そう、俺の力を持ってすればエイネ一人など容易に振り払い、自身の欲望に忠実に走り出せたはずなのである。

 だがここで一つ俺は間違いを犯した。


 つまり、ここにいる女性陣はエイネ以外全員眠ったと思っていたことである。

 けれどもう一人いたのだ。

 俺の天敵ともいうべき苦手な存在が!

 それは、スマホの中から現れた女神様で、


「それでタイキ、ムキムキになりたいというの?」

「それはもちろん……えっと、女神様、その手に持っているものは何でしょう」

「ハリセンという、武器ね。叩くととても良い音がするのよね」

「……つかぬことをお伺いしますが、それで一体何をなさるつもりなのでしょうか」

「何に使うのでしょう、ねっ!」


 勢い良く振り下ろされたハリセンが、俺の頭にあたった。

 俺が覚えているのはそこまでだった。








 外で鳥の鳴き声がする。

 まるで朝が来たようなその声に俺は目を覚ました。

 見ると服は着替えていない。

 何でだろうなとベッドから起き上がった俺は寝ぼけた頭で、


「何で俺は服を着替えていないんだ? ……は!」


 そこで俺は思い出した。

 俺は昨日、ムキムキになるためのトレーニングルームを作ろうとして、彼女達に阻止されてしまったのだ。

 最後は女神様のハリセンが脳天に叩きつけられた所で昨日の記憶は途切れた。


 健全な心は健全な肉体に宿るというのに酷い話だと思いながらも、


「愚かなと事だ。昨日が無理だとしても今日、今日が無理だとしても明日……明日はサーシャが元に戻る日だから明後日と、機会は幾らでもあるのだ! そう、俺が諦めた時が本当の試合終了なのだ!」


 と自分を鼓舞して俺は、長期戦に望むことにした。

 俺はこの戦いで負けるわけにいかないのだ、そう思いながら部屋から出ると何故か皆起きていた。

 そしてミルルに促された席に座る。


 俺の前に一つだけ水ようかんが置かれていた。

 なんでも昨日の内に残りは皆さんで頂いてしまったらしい。

 仲間はずれ感がすごいが、仕方がない。


 その水ようかんは甘すぎず、あずきの柔らかかな香りがする。

 夏に食べるのに美味しいそれを食べながら、俺は何かを忘れている気がした。

 そうだ!

 

 そう思って俺は、スマホを取り出した。

 必要なのはゲーム内の設定とも言うべき、この街の地図である。

 昨日のことを考えると、ここにいる女性陣と女神様は俺がムキムキになるのが反対しそうなのだ。


 だが俺は諦めるつもりはない。

 そして見つけた。

 ここにその運動器具を販売する店が存在している。

 

 ここへのルートは複数。

 行き方を考えつつ、いざとなれば空を飛んでいこうと思う。

 ここにたどり着き購入してしまえば俺の勝利なのだ!


 そう俺が思っているとそこで鈴が、


「タイキ、何を調べているの?」

「俺のカラダを鍛えるための運動器具を購入するために、どう頑張るかを考えているのだ」

「なるほど~、そんなにタイキはムキムキになりたいのかな?」

「もちろん、男のロマンだ! ……何で鈴がここにいるんだ?」


 そこで俺は、図書館の開く頃だからもう少し遅くに来るだろうと予想していた鈴が俺の目の前にいるのに気づいた。

 どうしてここにいる、俺がある種の震えを感じながら見上げると鈴がにま~と笑った。


「何となく今日は早めに来ようかなと思ってきたのだけれど、それが良かったみたいだね。ちなみに図書館は、今日は少し早めに開くことになっているの。その代わり閉まるのは早くなってしまうけれどね」

「……」

「でも私、細マッチョが好きなんだ~。というわけで、私も筋肉むきむきは阻止させてもらうね、タイキ」

「幼馴染なのに、俺の敵に回るのか、鈴」

「悲しいことだね。さて、それを食べたら早速図書館に幽霊に会いにい行こうね、タイキ」

「……どうして俺の行く気を無くすようなことを言うんだ鈴は」


 そう俺が嘆息しながら、朝食を取り始めたのだった。








 俺は途中で逃げ出す隙を見て、逃走し器具だけを購入できんまいだろうかと思っていた 。

 だがそんな油断も隙もなく俺は、図書館についてしまう。

 ギルドカードが今回はあるので、特に問題なく図書館内には入れた。


 見渡すかぎり製本された本が並んでいるが、


「そういえばこの世界の本は大量生産できる感じなのか? 以前購入した遺跡についての本はそこまで高くなかった気がするが」


 よくよく考えるとこれだけの本が作れたなと思う。

 大量に安価に本が作れる環境。

 奴隷とかいうものが最近まであった割に、識字率が異様に高いのだろうか?


 こんな量産できる本がなければ、他の人の本を自分で写して読むといった形、つまり“写本”でしか読めない。

 しかも確かこの本、と思って適当に本を取り出して中を見る。


「どうしたのですか? タイキ」

「いや、ペーパーナイフで切ったりして読むタイプの本ではないんだなって」

「? そういったものは見たことがありません」


 ミルルの答えに俺は、小さく呻いた。

 それから本を元に戻してから、またこの世界の奇妙さに触れてしまったと思う。

 色々なものの技術が、徐々に進化していくのではなく、特異なもの、それも俺達の世界にあるような物が投入されてそこから広がっているように見えるのだ。


 それまでの進歩の過程が見当たらない。

 ちぐはぐな印象を受けるけれど、かと言って俺達の世界のものを俺が全て知っているとはならない点を考えると、“こういった物がある”で終わらせられてしまっていることがじつは多いのかもしれない。

 けれどそこに重要な部分が隠されていたりするのだが。


 日本に火縄銃が入ってきた時に、ネジがわからずに苦心したように、今ではただのネジであっても、当時の人のように知らない人から見るととても重要なものになるのかもしれない。

 そんなことを考えながらやってきた精霊に関する資料の本棚。

 そこにはある人物がいたのだった。 


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