実は黒い裏事情
ミルルの姉、シャル達にもココアを出しつつ様子を見る。
二人共相変わらず幸せそうである。
ここの所連続して俺は敗北している気がする。
この気持ちはなんだろう。
そう思っていると俺の前でミルルの姉であるシャルが、
「それでね、私が湖を見に行きたいって行ったらそこにウィークが連れて行ってくれたのよ」
「そ、それでどうしたのですか」
ミルルとシルフ、エイネ、そしてサーシャまでもが集まって話を聞いている。
ちなみにマーヤと邪神はその様子を微笑ましく見ている。
そしてシャルの夫のウィークはというと隣で顔を赤くしていた。
先程から赤裸々に恋愛的なものが語られているが、そういったものは女性陣には楽しいらしい。
キスしただの何だの色々と話している。
外の空気でも吸ってこようか、そう俺が思った所で話が振られた。
「そういえば今、ミルルはそこにいるタイキさんと付き合っているの?」
「ね、姉さん、それは……」
焦ったようなミルル。
だが恐らくは、俺と関係があると誤解されるとミルル自身が困るだろう、しかも俺は異世界人だしと思ったので、
「いえ、そもそもミルルが俺の仲間でいるのは、強い力を持つ俺のパーティにいることで良さそうな恋人が近寄ってくるのを待っているためです。俺とは特には何もないです」
「あ、え? そうなの?」
「はい、多分シャルさんは俺が異世界人なのを心配していらっしゃると思うのですが、大丈夫です。俺とは恋人同士ではないです」
「そうなの……デートは?」
「確かこの前擬似デートをしましたが。デートではないです」
「そう……ちょっとミルル、お姉様とお話しましょうか」
「は、はい」
そこでシャルがミルルを連れてミルルの部屋に行ってしまう。
どうしたのだろうか。
「俺、変なことは言っていなはずだけれどな」
だが、その言葉に誰も返事をしてくれなかったのだった。
部屋に入ってきすぐにミルルはシャルに問いただした。
「ミルル、ミルルはあのタイキが好きなのよね?」
「あ、はい、そうです」
本人の前では言えないその言葉を、顔を赤らめながらも嬉しそうにミルルは言う。
だがそれを見てシャルは深刻そうな顔になって、ミルルの肩を掴んで、
「だったらどうしてあんな話になっているの?」
「何がでしょう?」
「ほら、彼氏のフリとか何とか」
「え、えっと、成り行きでしょうか」
「ミルル、どうして成り行きでそんな話に?」
シャルの雰囲気に気圧されたミルルが、困ったように笑い、
「様子見をしていたので。やはり好みだなと思っても相性がありますし」
「なるほど、それで」
「かと言って急いでしまってこの関係が崩れるのもどうかといった話で。少しずつ距離を縮めていったほうが良いかなと考えたのです。破局するより、友達のままのほうがいいですから」
「ミルル」
「それに今の関係も私、“楽しい”んです。シルフ、鈴、エイネ、最近はサーシャ達も……一緒にいるのが、私自身、心地が良いんです」
「……その子たちがライバルなのよ? それでも?」
「皆いい人達で、でも私自身負けるつもりはないです。だからもう少しこのままでいさせて欲しいんです」
ミルル自身は自分の思うことを全てを言ったつもりだった。
実際に口に出してみるとミルル自身も自分がどんな気持ちでいるのか理解できた。
あとはこの、ミルルの姉であるシャルが納得してもらえるのかどうかであるけれど、と思ってミルルがこっそり様子を見ると……シャルが変な顔をしていた。
あたかも苦くてまずいものを食べてしまったかのような表情だ。
何故そのような顔をされているのかミルルには分からなかったが、そこでシャルは深々とため息を付き、
「そういえばミルル、貴方、そこまで仲の良いお友達ってエイネくらいしかいなかったわよね」
「! そ、そんなことは……」
「家の一族が淫魔の中でも特に美形揃いなのが災いしたみたいですものね。うん、いいのよ。お姉ちゃん何も言わないわ」
「ね、姉さん、何でそんな笑顔なんですか? ちょっと哀れんでいるように見えますが」
「いいのよ、うん、振られたら次がいるもの」
「何で振られるのが確定なんですか!?」
「だって……異世界人なんでしょう?」
「……その時考えます。私はタイキが好きなんです」
言い切ったミルルにシャルは、仕方がないわねというようにため息を付いてから、
「やるだけやってみなさい? そしてこの世界に残るくらいにまで骨抜きにするのよ、分かったわね、ミルル」
「はい、シャル姉様」
そうミルルはシャルに元気よく答えたのだった。
さて、ミルル達がj部屋に入っていくのを見送った俺に、エルフのウィークが話しかけてきた。
「やあ。それで少し聞きたいのだけれど良いかな」
「何でしょう」
「ミルルが、ほら、俺の義理の妹になるわけだがちょっと気になって」
「……シャルさんに言いつけますよ」
「いや、そういう意味ではなくて君たちの関係が気になったんだ。恋人のふりをしていたと聞いたし」
「あー、はい。将来素敵な男性とするためのデートを擬似的にすると言ってこの前しました」
あれはあれで楽しかった、役得だとは思う。
仲間だから信頼してくれたのだろう。
やはり人間真面目にやっていくといいことがあるようだ、そう俺が思っているとそこで、
「そうかそうか。所でタイキ君。君はミルルのことはどう思うかね」
「美人ですし料理はうまいですし優しいですし、文句なしですね」
「そうかそうか……本当の恋人になりたいとか、そんな思いはないのかな?」
「恋人ですか。初めての恋人になるわけですね」
確かにこんな美人なミルルが恋人になってくれたらそれはそれで良い気もする。
でもよくよく考えれば、
「俺、異世界人なのでいつかは元の世界に帰るはずなんです。なのでなかなかそういうわけにもいかないというか……」
「ああ、なるほど、ね」
ウィークが納得がいったように頷いている。
それに恥ずかしい話だが、
「俺、今まで彼女がいたことがないんですよ」
「それは大丈夫さ! 僕にもシャルの前に恋人はいなかったからな!」
そこはかとなくドヤ顔でウィークが言う。
だが俺はこの美形のエルフでも、というか、但しイケメンに限るとは何だったのかと俺が思っていると、
「世の中口がうまい男ほど彼女がいるぞ」
「……」
「いいか、口がうまい男だ。なので俺は、大人しかったので彼女が出来なかったのだ」
俺は何も言えなかった。
確かに周りにいる彼女のいる男は……衝撃の事実に俺が凍りついているとそこで、
「いえ、ただ単に気づいていなかっただけでしょう。鈍感というものです」
「シルフ、もう少しやさしく言って欲しい気がするけれど」
「おかげでシャル姉様は、他の女に取られずにすんだと言っていました」
「……」
シルフの言葉にウィークが何も言えなくなったようだ。
そういえば今俺は、
「ミルルが俺にとって魅力的に見えていると、伝えないで欲しい」
「……どうしてですか?」
「……その、ミルルに気を使わせたくないというかもう少し今の関係でいたいという気持ちがあるから」
「……分かりました」
珍しくシルフが引いてくれた。
良かったと安堵しているとそこで、
「なかなか面白いわね。ふふ、さてと、そろそろ御暇するわ」
邪神がそう言って立ち上がり、俺に、
「もし私の力を貸してほしかったら、気が向いたら少しは貸してあげてもよくてよ」
「え、えっと、対価は?」
「そうね……貴方、私が来た世界の人達と戦うの? どうするの?」
「……穏便に何とか出来ればと思います」
「そう。それなら少しくらいは手伝ってあげてもいいわ。……関わりあった子たちが心残りといえば心残りだしね」
邪神はそう言って俺の前から去っていく。
本当に彼女は何をしに来たのだろうと俺は思ったけれどそこでミルルが戻ってきた。
「邪神の方は?」
「さっき帰った」
「そうですか……」
ミルルがどことなく安堵しているように見えるのは気のせいか。
すると今度はマーヤが、
「今日はもう帰ります。リズに邪神のことを話しておきます」
「そうか、よろしく」
確かにこれはリズさん達に伝えておく必要がありそうだ。
そう俺は思い、マーヤを見送ったのだった。