別のサービスの方が良かったかしら
倒したドラゴンの“ 竜華石”を回収しながら、俺は考える。
このドラゴンは、ゲーム内でもそこそこ強く、以前俺が戦った時はまだ俺のレベルが200程度だったが、それでもレベルが600程度の人間が集まったパーティにいてそこそこ苦戦したのだ。
なのでレベル625な俺がいる程度であんな簡単にあのドラゴンが倒せるはずはないのだが……。
「敵が弱くなっているのか? ……ミルル、あのドラゴンはこの世界でそんなに強い物なのか?」
「いえ、とても強くて私達だけでは対応が難しいと思って、攻撃を加えて逃げようかと思っていたのですが……まさかタイキが一撃で倒してしまうなんて。凄いです」
ミルルが微笑み尊敬の眼差しで見ている。
可愛い女の子にそんな風にみられた事なんて今までの人生で一度もない。
そしてそうされて、そうだろう、俺は凄いんだと開き直れる度胸もない小心者の俺なので、何だか恥ずかしいような妙にくすぐったい気持にさせられる。
そこでシルフが俺に近づいてきた。
少しくらいは俺を認めてくれただろうか……と不安になるような、怒った表情でいたのだが、
「じ、実力だけは認めてやるんだからね!」
シルフはややツンデレ妹に進化したようです。
何だか嬉しくなってしまった俺は、そのシルフの頭をなでてやる。
そうすると今度は更にシルフの顔が赤くなり、
「こ、子供扱いしないでよね!」
そう叫んでミルルに抱きつく。
どうやら大人になりたいお年頃のようだ。
女の子の複雑な感覚は俺にはよく分からないが。
さてさて、このドラゴンはこの世界でも凶悪な部類で、そんなに簡単に倒せるものではないらしい。
となると俺が強くなっているわけだが、その原因は分からない。
異世界に来て急に強くなったと考えても良いのだが、そうなってくると……。
「こういう時は、困った時の神頼みだな! スマホを取り出して……“女神様、助けてー”」
「はーい、タイキ、呼んだ?」
スマホを取り出して俺が叫ぶと、中からあの美しい白く長い髪に赤い瞳が悪戯っぽく輝く美女が現れた。
今回は、俺の顔に胸を押しつけるような、一見良い目にあっているように見える状態にはならなかった。
もっとも俺の目の前で女神様の大きな胸がぽよんと揺れており、目のやり場に困るが。
なのでそこはかとなく視線をずらしながら俺は、
「あの、俺、女神様に聞きたい事があって」
「そうなの? でも、こんなにすぐに呼んでもらえるなんて思わなかったわ。そんなに私が恋しかった? タイキ」
甘く女神様が俺の名前を呼ぶ。
きっと恋人同士なら、こんな風に名前を呼んだろするのかなと思うような声音で囁かれて、俺は、内心凄く焦ってしまう。
けれどその女神様の表情は色々分かっているようにも見える。
だからと言って誘惑しているんでしょう、と聞けば、絶対にそれも込みでからかってくるような性格の悪い女神様だと分かっていたので、
「俺の力が強くなっているようなのですが、俺のレベルって625ですよね?」
「あら、違うわよ? 貴方と鈴はサービスして、レベル1000にしておいたから。……言っていなかったかしら?」
「聞いていませんよ! え? レベル1000ってゲームでも999じゃ……」
「そうよ、折角呼んだ子がすぐに倒されちゃうのも面白くないから、この世界最強にしてあげたの。ちなみに鈴よりもほんの少し攻撃力とか強めにしてあるから」
「……何故ですか?」
「タイキの方が面白そうだから」
享楽的な女神様のお言葉に、俺は心の中で涙した。
もしかしてこの世界に来ると女難の相が俺に出来たんだろうかと、今までの人生で経験のないそれに悩む。
そんな俺に女神様は後ろから抱きつくように首の辺りに腕をからめて来て、
「せっかく来てくれた異世界のお客様だがらサービスしちゃったのだけれど気に入らない? それとも別のサービスの方が良かったかしら、タイキは」
「何のサービスですか!」
俺は振り返るように首を回すと、不可抗力で女神様の柔らかい胸に顔を埋めてしまう。
俺は慌ててそれから離れようとすると、
「やーん、タイキのえっち~」
女神様が、面白がるようにそう告げた。
純情な男は女の玩具にされるしかないのだろうか。
絶望的な気持ちになりながら、俺は瞳を濁らせていると、
「まあそれは冗談として、貴方と鈴が気に入っているのは本当なの。だからそう簡単には死なないようにしているし、守りたい人は守れるように、ね?」
くすくす笑う女神様の瞳は俺を優しく見つめている。
何だかんだで女神様らしく慈愛に満ちているらしい。エロいが。
そこで女神様が、
「もうそろそろ戻りましょうか。また何かあったら言って頂戴ね」
そう告げてスマホに戻っていく女神様。
それに安堵していると、スマホの画面が急に女神様の胸がアップになり、
「少しくらい触っても良いわよ? タイキには触れるのを許してあげるわよ?」
女神様に誘惑され、俺はスマホの電源を切りました。
そして俺は女神様と話していると精神的な部分ががりがり削られていくと思いながら、ミルルとシルフを見ると、何故かシルフがプルプルしていて、
「い、今のは?」
「ああ、だから今のが女神様」
「ま、まさか本当にあの我らが女神様に召喚された異界の人間だと……まさか、いや、まさかまさかまさか」
シルフがまさかを繰り返しているが、俺も信じられない現実だけれど、
「そうみたいなんだ。これで信じてもらえるか?」
「あの神々しさに魔力、そして美しさ……あのお姿はまさに皆が語る女神様そのものです。そんなに気軽に会える方ではなくて、私達だって会えた事がないのに何でこの平凡そうな男に……うぎゅ」
平凡平凡、そう言われるけれど、確かに平凡な自覚はあるけれどもう少し言いようがあるんじゃないかとこのシルフには思う。
けれどそれは非凡な見かけ以外の実力で、認めさせて行くしかないよなと思うのだ。
それに今はレベルが1000もあるし。
そう俺は思った所でふと、二日後に控えた……。
「俺のレベルって測定できるのか?」
「……無理かもしれません。機械が壊れてしまうかも」
「でも、高いレベルだとかあまり人には知られたくないな……」
そこで黙る俺にミルルがにっこりとほほ笑み手を叩き、
「では、ギルドの方々に泣いて頂きましょうか。黙っていれば、タイキは測定しにくい個体差があるで終わるでしょうし」
この世界の女性は、思いのほか逞しいようですと俺は思ったのだった。