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ここはファンタジー世界なので

 さて、遺跡にたどり着いた俺達はまず入り口を見た。

 灰色の石が積み上げられて曲線を描く入り口は黒い大きな口を上げているようだった。

 いかにもこの塔の中にはいろうとする俺達を、丸呑みにしようとしているように見える。


 もしくは味わうように咀嚼しようというのか。

 悪意が牙をむくその場所に、俺達冒険者は立ち向かおうとしている……。


「よし、どうも入口付近は暗いみたいだから、明かりを使おうか」


 そう俺は言いながら、以前作っておいた明かりを取り出す。

 金色の縁で彩られた硝子の球。

 その中心で赤い炎がチラチラと揺れている。


 水の中でも使える優れものの灯だ。

 たまに酸素が供給されているのかとか、燃焼するが水があるだろうけれどそれは何かとか、燃焼するには酸素がどれ位の%がいいかといった点もあるよな~と思ってすぐに、そもそもファンタジー世界でそれを突っ込むのは無粋だよなという結論に達した。

 その明かりには取っ手がついているのでサーシャに、


「今日は明かりを持っているか? サーシャ」

「今日は私が主役なので私も活躍したいです!」


 というわけで俺が明かりを持つことに。

 そこそこ威力が弱く大量生産出来る攻撃アイテムも入れてあったのでそれを使ってもらうことにした。

 そして俺達は明かりを灯しながら入って行くと、バサバサと何かが飛ぶような音が聞こえ、赤い瞳が暗闇の中で無数に輝いているのが見える。


 天井の方にその赤い瞳が集中しているのを考えると、この音の主はあの赤い瞳の魔物で間違いないだろう。

 そう思っているとサーシャが何かを取り出して、


「いけ“雷球花(らいきゅうか)”」

 

 透明なガラスの瓶に黄色い液体が入ったものを投げる。

 “雷球花(らいきゅうか)”は雷を引き起こせる魔石を液化したもので、割れて周囲に飛び散るとともに無数の雷を発生させる爆弾である。

 瓶につめるだけで出来るお手軽アイテムだ。


 威力はそれほど強くないはずだが、そういえばこういったアイテムは作る人間のレベルが熟練度として反映されていた気がする。

 だが弱めだからそこまで影響はないだろう、と俺は思った。

 そしてどれほど弱いかというと、ようやく明かりに照らされて姿を表したのは4つの羽を持つ蝙蝠だった。


 あれを2,3匹一気に倒せる程度だろう。

 それでも危険極まりない。

 振動で爆発する、といったような性質がない所は魔法の良い所だなと俺が考えているとそこで、サーシャの投げたそれが発動した。


 割れて広がった液体が、落ちる時に球状のつぶにすぐさま変化して、金色の光が筋を描くように広がる。

 周囲に広がるその様は線香花火のようだ。

 それらが次々魔物を攻撃して、少なくとも数十匹いたはずの蝙蝠は全滅した。


 そして倒した証であるらしい、先ほどのコウモリの羽と魔石が少々。 

 サーシャがそれら、特に魔石を嬉しそうに拾っている。

 それを見ていた俺はふと気になったことがあった。


「サーシャ、魔石の属性は関係ないのか?」

「? 無いですよ。味は違いますか」

「そうなのか?」

「はい、この赤色の魔石は、焼いたお肉の味がします。美味しいものはレアで焼かれた高級ステーキの味なんですよ」


 嬉しそうにウキウキしながら集めている。

 そんなサーシャに俺はふと気になって聞いてみた。


「その石は赤色だがどんな味なんだ?」

「……スーパーの特売で買ってくる高級なお肉の味です」

「一応は高級なのか」

「そう宣伝に書かれていた、そこそこのお値段のお肉の味です」


 本当にサーシャは姫なのかという発言ではあるが、どうやらサーシャにとってそういうものらしい。

 だが俺はそこで思う。

 そもそも姫と言っても、町に出て痛いコスプレをしながら正義の味方をしていたサーシャである。


 とても庶民的なのは納得がいくしそれに、


「……結構気軽に外に出れるんじゃないのか?」

「? どうしたのですか? タイキ。とりあえずコウモリの羽です」

「ありがとう」


 そういって素材を受け取った俺は、それ以上考えるのをやめたのだった。









 更に進んでいくと明かりのようなものがあり周囲はよく見えるようになっていた。

 塔の中だというのに草や花が生い茂っていたりするのは、仕様とはいえ奇妙な感じがする。

 いや、ゲームのように言うのはおかしいだろう、ここは異世界なのだから。


 俺の知らない法則で世界が動いているのだろう、と思いながらも違和感がある。

 それともこの光で光合成でもしているのだろうか?

 だとすると水などは?


 それらは魔力で全ても補っているのだろう。

 よし、魔力万能説、それで行こう。

 俺はそこで考えるのを放棄した。


 中に向かって行くと途中で冒険者に会った。

 男が二人、女が二人である。

 俺達よりも先にここに入ったらしい。

 

 ギルドで俺達が依頼を受けたのを伝えると、12階に行く前にやめると言ってお礼を言われた。

 まだ駆け出しの冒険者であったらしく、そういった“魔物使い”は危険だと考えたらしい。

 そういえばギルドでこの依頼を受けた時に、


「すでに1組が向かったらしいんだよな。出来る限り早く処理して欲しいとのことで、複数人にその期間依頼が行くらしいが、ここはそんなに重要な遺跡なのか?」


 知らなかったので俺が聞くとミルルが、


「いいものや変わったものがそこそこ低いレベルの冒険者でも手に入りやすいですから、人気な方ですね。ただ、その分“魔物使い”が現れてカツアゲをしているとなると、伝達も早いかと」

「そうなのか。でも前回、20階から入ったが特に中では人がいなかったが」

「20階以上はレベルの高い冒険者しか行けずにいるのかと思います。それに、冒険者はそもそもそこまで人数が多くないですよ」


 ミルルが苦笑するのを見て、確かに危険な仕事だからやりたがらないのだろうと納得がいく。

 そうして更に進んでいきながらも、魔物と遭遇して攻撃したりを繰り返していくが、


「でもこういった遺跡は、不思議だな。俺の攻撃でも全然傷がつかないし、塔の中なのに植物が育ったり、外とは違うな」


 この遺跡の中と外では明らかに“世界観”が違う気がする。

 ゲーム内では不思議な遺跡で納得行くがこうやって異世界だと思うと変に感じるのは何故だろうか?

 もしやこの世界は異世界ではないのだろうか? といった不安を覚えているとそこで鈴が、


「凄く不思議だよね。まるで大昔に高度な文明があったかのようだよね」

「……それはそれで何だか嫌だな」

「もしかして宇宙的な何かが作ったとかだったり?」

「謎の高度な知的生命体がやってきて、その昔は別の文明が栄えていたとか、ある時突然その文明が海に沈んだとか、何かが封印されてて、テケリ・リと鳴くような物がいたりしないよな?」

「タイキ、何かの読み過ぎだと思うよ☆」

「話を振ったのは鈴じゃないか!」

「タイキ、あの話読んで怖がっていたものね。面白いと思うんだけれどな~」

「……ホラーはやめよう。怖い」


 幽霊も関係するのは嫌だがこのタイプのホラーも実は俺は苦手だ。

 何となく這いよってきそうで怖い。

 すると更に楽しそうに鈴が、


「かつて、別の進化を辿った生命体が支配していたのだ」

「……」

「という設定はどうでしょう」

「……というか別の進化を辿ったなら、その進化した生物の元の姿が女神様の姿に似ているような気がするが。多分、自分に似せて作るだろうし。……金魚が進化して足が生えて外を歩き回るようになるとかは、普通見たくないような気がする。となると女神様の本当の姿は、得体のしれない姿をした……」

「……女神様の本当の姿はあれだと思うよ。“女神様”の姿はね。というか昔はああいった白い髪で赤い瞳で胸の大きい女性がタイキの好みじゃなかった?」

「む、昔の話じゃないか!」


 さりげなく俺の性癖が暴露されて落ち込みそうになる。

 そこで俺達は、誰かが戦っている所に遭遇したのだった。


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