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自分の世界を再確認する

 “鼠森の螺旋の塔”。

 最上階には以前、ミルルの淫魔特有の風邪の時に“もこもこ花”を採りに来たのだ。

 それほど時間は経っていないけれど、再び同じ場所に。但し、


「ここにいる、“魔物使い”を倒すのか」


 依頼の紙を見ながら俺はつぶいやいた。

 そして次にサーシャを見て、


「“精霊使い”よりも“魔物使い”の方が下級だったか?」

「さあ? 私に聞かれても、ふぎゃあああああ」


 サーシャの頬に猫ぱんちが炸裂した。

 ビクビクそいているサーシャを見ながら俺は、


「もう少し周りからは目立たないようにしてくれ。人が少なくて俺の体が影になっているとはいえ……俺が幽霊に取り憑かれているように見えるからな」

「いいじゃないですか。幽霊は軽いので乗っかっても重くないですよ?」

「気分的に嫌だ。それより、ミルルに聞きたいが、“魔物使い”はどの程度危険なんだ?」


 そう問いかけられたミルルは、少し黙ってから、


「……タイキの力で、敵になりそうな方なんていましたか?」

「その慢心が怖い気もするが、そうだな……この遺跡なんかはどうなんだ? サーシャ」


 話を振ると、サーシャがぴくっと反応して、


「ぜひ行きたいです。この前行ったら沢山の魔石がありました。そして取れませんでした! 緊急時だったのが分かっているのですが、あの魔石はもう、もう……」


 よほどあの時魔石を撮りそこねたのが悔しいらしい。

 もっとも、魔力が切れかけて死にかけていたので仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが。

 とはいえ、今日はサーシャが皆で冒険したいと言っていたので折角だからギルドの依頼を受けようという話になったのだ。

 

 それならば、この依頼を受けよう。

 というわけで俺達はこの依頼を受付に持っていたのだった。







 依頼では“魔物使い”を縛り上げてギルドに連れて行けばいいらしい。

 何でも魔物をけしかけて遺跡に来る冒険者から、金品を巻き上げているそうだ。


「魔物がいる場所で、か?」


 そんな場所にいれば自分も襲われそうな気がする。

 だからそんな危険を犯すくらいなら、遺跡に行く街道などで待ち伏せしたほうがよほど危険が少ないような気がする。

 と、そのつぶやきを聞いていたミルルが俺に、


「魔物には縄張りもありますし、ほぼ魔物は遺跡の外に出てきませんし。やはり強力生物を手なづけられると、そんな気持ちになるのでしょうか」

「魔物を手懐けるのも、才能の一種なのか?」

「はい、精霊使いよりもよほど数が多いのです。目撃例も。ただ遺跡にしかいない敵の魔物を扱えるという点で能力が限定されてしまうのと、能力を持つ人が多いのでその分その……“悪人”が割合は少なくとも人数が増えてしまうといった意味でもあまり心象が良くありません」


 なるほどなと俺は思いながら頷く。

 ちなみにどんな魔物を扱っているのか、はすでに目撃者により判明していて、現在以前購入した遺跡の魔物などが図で示されたファンシーな本である。

 ここに描かれた範囲では、体は緑色の大蛇で、黒い羽が生えており、更には鳩のような足が生えている魔物で口から火を吐き空をとぶ……そんな魔物の絵が描かれている。


 名前は“ジャソク”というそうだ。


「……これは突っ込んだら負けだな」

「わー、私、ヘビは苦手なんだよね」

「鈴、俺だって苦手だ」


 そう言いながら何処に生息をしているのかを見ると、23階であるらしい。

 だがこの危険人物の目撃例を見ると、


「12階らしいな。上の階の魔物の方が強いからそれを下の階に連れてくれば、確かにそこまでしか行けない冒険者にはきついよな」

「よくある手ですね」


 ミルルが今度は俺の本を見ながら呟いた。

 どうやらこれは“魔物使い”がよくやる手であるらしい。

 だが俺としては、


「“氷結の露”という爆弾でどうにかなりそうだな。計算上はこの範囲だとこれで大丈夫だよな……サーシャ、やってみるか?」

「うーん、それもいいかな」

「よし、それで行こう。そして俺達は人間相手……それも一人のボスと部下三人に、俺とミルル、シルフ、鈴で全員一人ずつ倒す感じか」


 そう俺が分配するとそこで鈴が手を上げて、


「タイキが一人で倒してもいいよ」

「鈴……」

「というか皆で一斉攻撃は、役割分担を決めないと攻撃相手がかぶるし。だったら、タイキ一人でとりあえず一発攻撃をして、様子見してから更にタコ殴りでいいんじゃないかな?」


 鈴が笑顔でなにか酷いことを言った気がする。

 そう思いながら俺は、


「もう適当な攻撃の道具を使って攻撃するかな」

「……錬金術は、誰でも使えるような危険で強力な兵器が多い気がします」


 俺が何気なしに言うと、そこでシルフがそんなことを言い出した。

 日常的に使っているので俺はあまり気にならなかったが、そういえば異世界の侵略者も錬金術に特化している。

 魔法が使えない人間達の世界だから発達したらしいのだが、確かに物騒なものも多い。


 その点に関して、魔法の“ない”俺達の世界について考えてみると、錬金術=科学で思いつくものの一部は“戦争”と“軍事技術”である。

 なんとなく怖いもののイメージが強い気がするが、これも俺達に植え付けられたイメージの他ならない。

 何故なら、“科学技術”はそれら以外にも大量に俺達の身近にある。


「気のせいだな。確かに兵器関係も作る科学者もいたが、その人だって俺達人類の生活を豊かにするようなものも生み出している。そもそも、その人が生きていた時代に戦争があったからな……」

「それはタイキの世界の話ですか?」

「そうだな、魔法のない俺達の世界で、そんな人も歴史上にはいた。それに元が軍事技術でも、今となっては日常に溶け込んでしまったものも結構あるしな。このスマホで使える、インターネットとか」

「そうなのですか?」

「ああ。だからどんなものでも使い方次第だ。それこそ包丁を料理に使うのか人殺しに使うのかといったような違いで、使う人間による」

「使用者の倫理観に影響する……なるほど」

「だから、使い方さえ誤らなければいいって考えて使うか、悪い事に使われないよう手段を講じていく、と考えた方がいいと思うぞ。否定するのではなく。下手をすると思考停止になるから」


 そう説明すると、シルフは落ち着いたようだった。

 ただ今の話を聞いて、よく物語でも“科学”が悪者にされていた気がする。

 理系に進んだ俺としては、そんなに悪いものではないし、身近なものだと思うのだが。


 そう考えているとそこでシルフが更に、


「そういえばタイキ達の世界はどんな所なのですか?」

「どんなって、普通だな。……この世界の違いみたいなものか?」

「そうです」

「そうだな……ロボットはそこまで普及していないかな」

「? ロボット?」

「そう、人の形に似た人形が、人の代わりに働いたりするんだ」

「便利ですね。でも何でそんなに普及していないのですか?」

「コスト対効果かな。本来ならロボットの進歩という産業の発展によって、浮いた分のその労働力を他に回せて効率化できる。だからロボットもそこそこいるが……最終的にコスト対効果等がね。やはりロボットは高いし、細かい部分ではまだ人間の代わりを出来るくらいまでの動きをするのは難しい。だから飲食店などは、普通に人間が給仕をしていることが多いかな」

「最後は立ちはだかるお金の壁だと……現実は厳しいのですね」

「そうだな。結局昔もそうだが、技術が進歩してその仕事がなくなるだろうといった話があるようだが……結局無くならないというものも結構あるらしい」


 などと答えながら、俺が様子を見ると、シルフはロボットに興味を持ったようだった。

 でも今の話を聞きながら俺は、今現在の日常を書くだけでもそれは、そこまで技術の発達していない場所では未来のような“SF”に感じられるのかもしれない。

 そう考えるとその昔、日本が先進国になったので現在の自分達よりも優れた文明に行くSFが廃れたのかもしれない。


 個人的にはそういった話を読むのも好きだが、時代にそぐわなくなったのだろうか。

 そして現在は、“SF”の時代を通過し“ファンタジー”の時代に突入していると言われている。

 科学が次の段階に入っているのだろう。


 物語には時代を予見するものが含まれるといわれているけれどそれかもしれない。

 実際に、小説投稿サイト内でのファンタジー然り、SF然りの内容で出てきた製品を現実の技術の範囲で作り上げ、販売も行われている。

 “アイディア”の重要性が、基礎力をつけると同時に高まっているのが俺の世界だった。


 意外な側面に気づかされた俺だが、そこでようやく遺跡にたどり着いたのだった。


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