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思い出作りのために遺跡へ?

 この世界に来て、二つ目の黒歴史を作ってしまった。

 朝起きて俺はその現実に打ち震える。

 一つ目はあの呪われた杖で口にしてしまったあの発言その他である。


 その他だ、うん。

 そして今回の、“肉体美”に対する俺自身のコンプレックスとそれを得たことへの爽快感である。

 はっきり言おう、俺は、俺は、あのムキムキの肉体になって心地よかった。


 確かに魔法的な強化をなされていたが、その肉体を持たざる者として憧れがあった。

 それは認めよう。

 だがあの自己陶酔したかのような発言は、心のタガが本当に外れてしまっただけなのだろうか?


 あの時の言葉が俺の本心だったとでもいうのだろうか?

 そう思いながら朝起きて再び、あのドリンクの効果についてスマホをいじり調べる。

 やはり本心が露わになる傾向があるよう……あれ?


「下の方、どうしてこんなに空白になっているんだ?」


 そこで俺は奇妙なことに気付いた。

 つまりこのドリンクの説明の下の方に大きな空白があるのである。

 親切な場合であればそのあたりに、ネタバレといった文字が書かれている類があるのでは。


 そう思ってその空白の範囲の画面を選択していくと、案の定文字が浮かび上がってきた。

 白い背景に白い文字で描くことによって、選択するなどして色をつけると文字の浮かび上がるあの方法である。

 そしてそこには、俺にとって非常に都合のいい効果が書かれていた。


「“このドリンクを服用すると、その時間、幾つかの発言がランダムで口から発せられます。その発言は……以下略”なるほど。つまりあの時の陶酔したかのような発言は、全てこのドリンクのせいだったんだ! ……よし、それで行こう」


 一部やはり俺自身の発言でもあったような気がするが、それが全てとは言い切れないのはアレだが、それでもいくばくかドリンクの効果もあったのだ。

 どうにか言い訳を考えついて、昨日の女性陣の冷たい視線を思い出してぶるっと震えつつ俺は、着替え始めたのだった。







 ミルルたちは普通だった。

 確かに元の姿に戻ったのを彼女達が見ていたので当然だろうか。

 そして、おはようと挨拶をしながらずいぶん長く眠ってしまっていたらしいと俺は気づく。


 すでに朝食が用意されていた。

 トーストされたパンとサラダに卵焼きにスープといった、軽い食事である。

 なので俺の分が置いてあるの席に俺が座ると、そこでミルルがエプロンを脱ぎながら俺に声をかけてきた。


「でも元に戻って本当によかったです」

「う、い、いやあの時の発言はドリンクの影響もあったから」

「そうなのですか? 面白いですが、やはり女神様の言う通り、ムキムキはちょっと……」

「い、いや、でも少しくらいは良いと思わないかな、とか、思うわけでして」


 けれど俺はついミルルに抵抗してしまった。

 やはり、俺の中ではその、筋肉が……。

 そんな俺にミルルが微笑み、


「筋肉がそれほど好きだとおっしゃるなら、私たちも強制的に筋肉を減らさないといけません」

「ど、どうやって?」

「筋肉にたまった魔力を抜けばいいのです」

「そんな方法があるのか」

「そうですね、タイキに責任を取ってもらう感じになってしまうでしょうか」

 

 なんとなくエロ的な意味に聞こえてしまうのは、俺の煩悩のせいか。

 というか魔力を抜けば筋肉が消えるのだろうか? この世界は謎が深い。

 でもそうなってくるとそぎ落とすという選択肢も出てくるだろう。


 グロだ、間違いなくグロだ。

 ミルルの頬が赤い気がするのは、俺の気のせいだ。

 なので俺が渋々といったように筋肉を諦めるかと思っているとそこで、


「今、元に戻っている気がするわ!」


 そう言って女神様が現れた。

 そしてそのまま後頭部からむぎゅっと胸に押し付けてくる。

 しかも俺の前へと手をまわして、


「そうそう、こんな感じだったわ。あんなニカッという笑いが似合いそうな筋肉なのは、気のせいだったのよ。はあ、これを堪能しておかないと。あの悪夢のような記憶はこりごりだわ」

「……俺、あの筋肉がそこそこ気に入っていたのですが」

「……いい? どんなに裸になって表を歩きたいと思っても、人間、裸で歩いちゃいけないの。おまわりさんに連れていかれてしまうの。だからルールは守るべき」

「でもムキムキになるのがいけないなんてルールはありませんでしたよね?」

「私がルールなの!」


 以前のように俺は言われて、女神さまがどことなく幸せそうに抱きついている。

 もう放っておこうと思った俺は、放置するのに決めたのだがそこでシルフが、


「意外にも全て覚えていたのですね。お酒のように忘れてしまうのかと思っていたのですが」

「お酒を飲んで酔っている間の記憶が飛んでいるというが……実は結構覚えているものらしいぞ?」

「そうなのですか?」

「そうなのだ。というわけで全部覚えている俺は何もおかしくない」


 シルフがそれを聞いて少し考えるように上を見てから、


「それでもまだムキムキになりたいと?」

「す、少しだけは……」


 それ以上シルフは何も言わず、そして周りの女性陣がどことなく俺に対して冷たい視線を送っているように感じた。そこで、


「ふああああ、寝坊しちゃった!」


 そう言って、サーシャが現れたのだった。








 朝食をとっていた俺たちは、サーシャにある提案をされた。


「明日以降、残り4日なのですよ。こんな生活ができるのはあとそれだけなのです。姫になったらそこまで自由に離れませんし」

「つまり、サーシャは何をしたいんだ?」

「そう、せっかくなので遺跡に冒険に行きたいです。ここのところゴミ山や幽霊屋敷といった場所ばかりですし」

「もう少し普通の場所か。俺は構わないが皆はどうする?」


 問いかけると今日は、エイネはアルバイトの関係で来れないらしい。

 なので俺と、サーシャと杖の精霊ミィ、ミルル、シルフだけでギルドに向かったのだが。


「あら、タイキさんも何か依頼を受けに?」

「タイキがいる」


 リズさんと原初の魔族なマーヤがいる。

 どうやらマーヤのためにリズさんは遺跡に潜る事にしたらしい。

 そしてマーヤが、


「タイキも一緒に来る」

「え? えっと、どうしようかな……ごめん、今日はサーシャ達と一緒だから」

「……いたしかたなし」


 がっかりしたようなマーヤ。

 マーヤはタイキさんのことが気に入っているようですねとリズさんが笑う。

 そしてしばらく離れてからほっと俺は安堵した。と、


「タイキ、一緒に行ってもよかったのではないですか?」


 子供同士なので一緒に行きたかったのかもしれないシルフが俺にそういうので、俺は、


「延々とリズさん無双の後をついていくという作業ゲームの状況は避けたかった、という理由で納得してもらえるだろうか」

「……なるほど」


 至極納得がいったかのように頷くシルフ。

 わかってもらえてよかった、そう思って依頼の掲示板に向かっていくと、そこである人物と遭遇する。


「うわっ」

「鈴、どうしてそんなに変なものに遭遇したかのような声を上げた」

「う、うん、えっと……昨日はうどんが忙しくてね。更に知る機会がなくなりかけたというか、色々とね」

「何を言っているんだ」

「そ、そうだね」

「……もしや俺の筋肉ムキムキマッチョな話を誰かから聞いたのか?」

「……」

「沈黙という名の肯定か」

「……さて、それでどこかに行くの? ギルドの依頼を受けに来たなら一緒に行かない?」


 そんなわけで俺は鈴とも合流して遺跡に向かうことになったのだが、そうしてどの依頼にするか探していた俺たちはそこであるものを見つける。


「……ここの遺跡か」


 俺はそう、一言呟いたのだった。




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