ドリンクの効果が切れました
目的のスポットに辿り着くと俺は、スコップを構えて、
「真の力を見せてやる、うおおおおおおお」
といった掛け声とともに穴を掘り進める。
回転を加えドリルのように掘り進める俺。
本来この筋肉がなければこの10分の1程度の深さしか掘れないであろう時間で、何かを探し当てた。
ドリルのように掘っていたスコップのその先にあったのは、紫色の石である。
硝子のように半透明なその立方体は確か、
「“幽玄の紫水晶”! どうしてこんな場所に!? ここ、ゴミがおかれている場所では!?」
ミルルが驚いたように口にする。
だがそれも当然だろう。
これは確かに、特に混ざり物もなく純粋な透明度を誇るこれは“宝石”としての価値が高い。
しかもこれはまだ合成の出来無い、自然産出でしか手に入れることのできない代物……のはずだった。
ゲームでは。
これはそのまま宝石としても利用できるが魔法使いの杖といった魔法系の道具にも使える。
魔力を貯めることによって、威力を増大させるのにもよく使われている。
ただ自然のものなのも含めてあまり手に入らないために、買うとかなりのお値段である。
しかもこれほどの大きさともなれば、推して知るべしである。
「いいものが手に入ったな。よし、これを使って新しい武器を新調しよう。作れそうなものがあるか後で調べてみるか」
実の所これ自身がレア・アイテムなのでゲーム内では手に入れられなかったが、これさえあれば色々作れる。
既成品と比べるとどうなのかは分からないが。
さて、それを手に入れて俺の体がすっぽり入る程度の穴から這い上がり、
「それでミルル達はなにか手に入ったのか?」
「いえ、特には。こんなゴミ山は普通入らないものしか集まりませんよ。むしろどうしてそんなものが……事件の臭がします」
ミルルにそう言われてしまったが、俺としてはゲーム内ではここではそこそこな確率でいいものや珍しいものだ手に入っていたのでよく分からない。
それとも何か事情でもあるのだろうかと俺は思ったので、
「女神様、少しよろしいですか?」
「……音声のみの会話だけよ」
「それでいいです。このゴミ山には特殊なものが出て来ますが、これらに事件性はあるのでしょうか」
「事件性? ……何処からの盗品とか?」
「そうなりますね」
「こんないいものがひたすら盗品としてここに埋められていると?」
「……そうですね」
ゲーム内では高級品なども大量に手に入れることはできたが、ここは異世界なので何か影響はあるのだろうか?
そう思った俺が問いかけると女神様が、
「ここのゴミ山の下に実は大きな遺跡があってね。その影響で色々なものが湧き出してくるのよね」
「あー、そんな感じですか」
「そうそう。だから好きなだけ持って行っていいわよ。……まだマッチョなの? タイキ」
「はい」
「……変な物は見たくないから、暫くこもるわね」
と女神様の声は聞こえなくなった。
代わりにそう言えばと俺は思い出す。
「サーシャ達は手伝わないのか?」
「……物を持ったりするのは疲れるんです。魔力的な意味で」
といった声が俺の腰の箱から聞こえた。
そこに本体が入っているからそこから聞こえているわけだが、
「どことなく俺が避けられている気がするな。まあいい、ここでいいものは出てきたが俺の望むものではなかった。次に回るとしよう」
「……口調まで変わっている気がする」
「シルフ、今、何か言ったかね」
「……いえ、何でもないです」
そこはかとなくシルフにしては顔を青くしながら、俺の問いかけにそう答えたのだった。
さて、女性陣の冷たい視線だが、段々とそれも心地いいような、もしやこの輝ける筋肉がまぶしくて目をそらしているのではあるまいかという結論に達した俺は、さらに進んで次々に貴重な材料を手に入れた。
しかも埋まっているものは一つや二つではなかったらしく、シルフやミルル、エイネも次々に、いいものを見つけていた。
しかも彼女たちの場合は、女性が喜びそうな宝飾品の類である。
ピンポイントでいいものが手に入っているのでサーシャも挑戦してみると、なぜかサーシャはごみしか引き当てられなかったが、面白半分で、杖の猫精霊のミィが赤い宝石を手に入れて大喜びしていた。
しかも二つもである。
なぜ自分はこれほどまでに運が悪いのかと嘆くサーシャだったから、
「ふん、サーシャが運が悪いのはいつものことじゃない。……ほろ、これ、後でおそろいでブローチにでも加工してもらいましょう」
「ミィ」
「ま、まあ、一応、サーシャだって私のご主人様だしね。って、なんで抱き着くのよ、じゃまよっ!」
「ふええ、久しぶりにデレてくれたぁ」
「このっ、ダメサーシャ!」
「うにゃああああああ」
そこで杖の精霊である顔を真っ赤にしたミィに猫パンチを食らっているサーシャ。
なかなか仲のいい関係ではあるのだが、このかわいい猫パンチを俺の場合は、今ならば指一本で受け止められるかと夢想する。
次に現れた敵は、指一本で戦ってみようか?
否、獅子はウサギ一匹をとらえるにも全力で追いかけるものである。
強き者ほど出し惜しみをしてはいけないのだ!
「やはり次に敵に遭遇した時は、先ほどの用に手を抜かず全力で行くとしよう」
「「「「ひぃいいいい」」」
そこで見知らぬ男たちの声がした。
振り返れば、少し離れた場所に先ほど見たような輩が複数人いたが、俺の今の言葉が聞こえていたのかもしれない。
ガタガタと震えている。
なので俺はにやぁと満面の笑みを浮かべて、
「やあ、また来たのかい? 遊びなら歓迎するよ」
そう俺が告げるとそのまま、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった。
それを見ながら俺は、
「強いということは、孤独であるのだな」
悲しさと優越感を滲ませながらそう呟いたのだった。
そんなこんなで再びタイキが掘り始めたころ、ミルルのそばにエイネが近づいてくる。
「……ねえ、ミルル。とても建設的な相談をしましょう」
「何でしょうか」
「……タイキを私の歌で眠らせてしまうっていうのはどうかしら」
「いい案ですがあれだけの肉の塊を運ぶのは大変でしょうし、それに」
「それに?」
「大丈夫です、もし今の記憶が薬の効果が切れて元に戻ったら……タイキのことですから羞恥心にさいなまれてしばらく部屋から出てこなくなるでしょう」
微笑んだミルルを見ながらエイネも、それもそうねと頷いた所で、タイキが目的のものを手に入れたのだった。
こうして俺たちは自宅に帰ってきたのだが、シャワーを浴びる間もまだこの薬の効果は抜けなかった。
その間に俺が何をしたかは置いておくとして……ちょうど着替えて出てきた所で俺の薬の効果が切れた。
「!」
まるではっと正気に戻ったような感覚が俺を襲う。
慌てて部屋にこもりつつ、おそるおそるこのドリンクの効果を調べてみると、
「隠れた願望が露わになります……隠れた、願望、だ、と」
つまりあの筋肉に対する惜しみのない“愛”はそう、俺自身がずっと見て見ぬふりをしていた俺の願望だったのだ。
あの言動すらも俺の一部だったのだ。
そう、全てがだ。
「痛い、痛すぎる。忘れたころに黒歴史ノートが出てきたくらいに痛い……痛い、う、う、うわぁあああああああああ」
俺は絶叫をあげてベッドにもぐりこんだ。
こうして羞恥心から逃れられなかった俺は、部屋にこもって布団の中で打ち震え……その日は夕食を食べ損ねたのだった。