表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/147

いかにして、筋肉ムキムキは否定されたのかについて

 筋肉ムキムキの時間は終わらない。

 俺の黄金期間(ゴールデンタイム)はまだまだ続くようだ。

 そんな無敵な俺の前からは、暴漢連中は全て消失した。


 しかもさらに俺に挑戦してこようというものはいないらしい。


「俺に挑戦するものはいないのか~、いないのか~」


 筋肉の高揚感に包まれながら俺はそう叫ぶが、これまでじっと俺を観察しているような視線すらも次々と消えていく。

 あたかも嵐が過ぎ去るのを待つがごとく、窓を閉め、カーテンすらも閉めている。

 昼間だというのにしんと静まり返った道を俺達は歩いて行く。


 途中、鳥にも遭遇したが俺が近づくと逃げていった。

 何故だ、こんな力を手に入れたとはいえ、特に手出しをしたり焼き鳥にしようとしているわけではないというのに。

 そう思って俺は振り返る。


 そこには無言で俺についてくる女性陣の姿がある。

 だが……ミルル達の俺を見る目がおかしい。

 どことなく俺から視線をそらすような、しかもその表情無表情なのだ。


 どちらかという痛い子でも見てしまったような、視線に入れたくないようなそんな感じである。

 だから俺は一番初めに近くにいたミルルに聞いてみた。


「ミルル、さっきから俺と目を合わせないようにしているような気がするのだが」

「……いえ、多分気のせいです」

「この筋肉素晴らしいと思うのだが」

「……」


 それにミルルは沈黙してしまった。

 仕方がないので次にシルフに目を移し、


「シルフ、どうして俺から顔を背ける」

「……タイキはその肉体が素晴らしいとそう思っているのですね」

「そうだが」

「……」


 再び無言になってしまった。

 なので次にエイネに話を振ると、


「人の趣味はそれぞれだから。個人を私は尊重するわ」


 と俺から顔を背けて言う。

 あまりな反応に俺はサーシャの名前を呼んだ。

 一人ぐらいは肯定的な言葉が聞きたいと俺は思ったのだ。


 だが、サーシャは呼んでも出てこなかった。

 杖の精霊すらもそうである。

 やはりペットは持ち主に似るのだろうか?


 こうなっては、この手段は使いたくなかったが最終手段を使わなければならないようだ。

 

「女神様、お話があります」

「はーい、今日はどんなセクハラが御所も……う……」


 とうとう自分がセクハラをしてくることを隠さなくなった美貌の女神様だ。

 だが笑顔だった女神様は俺の姿を捉えると、すぐに無表情になった。

 痛い沈黙後、


「今すぐに元にもどれ」

「! そんな! 素晴らしいじゃないですか筋肉!」


 だがその言葉に女神様は珍しく真剣な表情で、


「私、細マッチョの方が好きなの」

「! ヒョロヒョロの筋肉よりもこの、彫刻に残せそうな肉体美のある実用性も高い筋肉のほうがいいのでは」

「煩い。私は細マッチョが好きなの!」


 言い切った女神様に俺は軽く絶望を覚えていると女神様が珍しく、恐る恐るといったように、


「タイキ、一つだけ聞いていいかしら」

「何でしょう」

「その肉体を手に入れた状態で鏡の前でポージングしたい……とか思わないわよね?」

「いいな、それ」


 鏡の前で自身の肉体を余すこと見つめられる。

 素晴らしい。

 そう、うっとりとそう呟いた俺に女神様はじっと俺を見て、


「絶対なにか危険なものが入っているとしか思えないけれど、効果の持続期間はそこまでじゃない」

「もちろん、いずれは元に戻りますよ」


 そう俺が女神様に答えると、ふうっといった息を吐く音が聞こえた。

 振り返るとミルル達が安心したようだった。

 なぜ、筋肉の良さが分からないんだと俺が心なしか傷ついていると、


「もういいからこの薬の効果を解除しなさい。折角だから私がしてあげるわよ?」

「いえ遠慮します」


 俺はきっぱりと女神様に、Noと告げた。

 空気を読み過ぎると延々と押し付けられてパンクをするから、程々にしないといけないのである。

 それも処世術だ。

 

 しかもまだ人間が俺に立ち向かってくるかもしれないのである。

 その俺の答えに女神様は珍しく嘆息して、


「勝手になさい」


 そう言って俺のスマホの中に戻っていってしまったのだった。








 こうしてさらに進んでゴミ山の付近まで来てしまうと、結構において気には来るものがある。

 だが必要なものを手に入れるためにはしかたがないのだ。

 というわけでそこを登り始める……前に。


「確かあったはず……あー、これだ。“ゴミ山限定:ここ掘れワンワンexれーだー”。確かこの四角い画面に、何処にいいものがあったか表示される装置で、これが、“ふわふわスコップ”地面がまるで綿菓子のようにカンタにい掘れるようなスコップだ」


 といった道具を取り出して俺はさらに進んでいくとそこで、


「よくここまでたどり着いたな。よそ者が」


 現れたのは顎や頭の毛が手入れされていないのが分かるくらいボサボサの男だった。

 しかも今の俺ほどではないが、程よい筋肉である。

 この男、俺の敵ではないなと俺が思っているとそこで、


「あれだけの人数を相手にして、無傷とはな。しかも女まで連れていいご身分だな……と言いたい所だが、その力、もっと有効に使わないか?」

「有効とは?」

「それだけの力があれば、この町を、いや、この国すらも乗っ取れるんじゃないのか?」

「何だかすごい勧誘を受けている気がするが、今の話って、誘っている貴方にしかほとんどメリットがないのでは?」


 実際に働くの俺みたいだしな、と思ったのでそう答えた。

 やはり人間なので楽をしたいという欲求があるのかもしれないが、その犠牲に俺がなるのは嫌だ。

 というわけで俺は、


「残念ながらそのような野心は持ちあわせていないのでお断りします。そしてここでひくのであれば見逃しますが、もしも俺達に攻撃を仕掛けるのであれば……」

「そうか。なら仕方がない。俺達もお前さんと敵対するのは得策ではないと思っているのでね」


 そう言って引いていく彼ら。

 どうやら対話で解決できたようだ。

 そして俺は彼らに背を向けて、ミルル達の方を振り返った所で、


「馬鹿が、油断して背を向けるとはな! 死ね!」

「あー、よくある展開ですね」

「ごふっ」

「「「お頭ぁあああ」」」


 背を向けたところでの攻撃という、使い古されたような展開。

 けれど別に俺にとっては背を向けていた所で攻撃されてもなんの問題もなかったのだ。

 だってこの筋肉は移動速度にすらも影響する。


 つまり、彼らの動きなど俺にとって、“遅すぎる”。

 結果一発のパンチでその親玉を倒し、子分たちは悲鳴を上げてその親分らしき人物を連れて逃走している。

 とりあえずは暫く俺達の邪魔はしないだろう。


 そう思いながら俺はとりあえずはミルル達に、


「さて、ようやくゆっくり探せるな」

「……そうですね」

「あ、スコップは人数分あるから目的の地点に来たら配るから。俺の用時以外でもいいものが埋まっていたりするぞ」

「……そうですね、楽しみです」


 ミルルがそう答える。

 とりあえずは現状ではそんなところかと思いながら俺は、いいものが埋まっていそうな場所を探し始めたのだった。


作者夏バテのため、明日はお休みします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ