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栄養ドリンクを使った。効果は抜群だ!

 次の日の朝食はグラタンだった。

 熱々のとろけるチーズが非常に美味しい。

 ほくほくとしたじゃがいもと、ペンネのグラタン。


 しかし、ペンネはパスタの一種であるけれど、ふと俺は思う。

 この世界の多国籍風味な感じは何なんだろうか、と。

 そういえばスマホの電波が届くみたいなこともいっていたし、もしや俺達の世界の料理という異界の技術がこの世界に流入しているのではないだろうか。


 と思いながらあの女神様はちょっと俺達の国ではマイナーそうな国の話を聞くと、答えられなかったりしたので“日本”専門なのかもしれない。

 それも妙な話だが。

 そんな事を思いつつ俺は、今日はスラム周辺に行くと告げてある。

 

 だが昨日の暴漢に関して俺は思う所があった。


「一応は杖を持って歩いていくのもまあ、いい方法ではあるよな。自動攻撃タイプもあるし」


 もしもの時は即座に魔法で消し炭……ではなく、気絶状態にするとしても、それでも接近されてしまえばその攻撃魔法に俺も巻き込まれるとも考えられる。だから、


「確か、“プリンの素”と“白き輝ける粉”と“ライトボディ油”と……“完全な方岩石”で、ミネラルを補給……ミネラル?」


 説明書きを読みながら俺は、何か変なものを感じたが、この世界の味噌には豆を使わないようだったけれど、味噌の様な物は出来たので深く考えない事にした。

 とりあえずはこの栄養ドリンクである。

 早く作ってしまわねばと材料をセットしていると、


「タイキあとどれくらいで家を出る事が出来そうですか?」


 ミルルがそう聞いてきたので俺は、後10分位と答える。

 そこでミルルが俺の現在使っている機械を興味深そうに見てから、


「何を作っているのですか?」

「ああ、これは……見てからのお楽しみだ。もっとも人間相手だった場合にのみ使用という事になるが」

「対人間用ですか?」

「魔法攻撃にちゅうちょする事もあるからな」


 そう俺が答えるとミルルがタイキは優しいのですねという。

 そういうわけではないと思って言い返そうとするとそこでシルフがやってきて、


「まだなのですか?」

「もうすぐだ……できた」

「では行きましょう。あんな治安の悪い所にわざわざ行きたいなんて、頭がおかしいです」


 頭がおかしいと言い切ったシルフに、俺は何かを言い返したい衝動にかられたのだがその時は黙っていたのだった。











 そして装備を整え、というよりは、すでに装備系は欲しい時に出せるので後はすぐにあの薬を使えるようにしておくのみだったのだ。

 他には、その……これから行く場所はあれなので、汚れてもよさそうな服とマスクを準備した。

 ガスマスクの様な物でもよかったというか、ゲーム内では普通に装備はそれにしていたが、その、今この町でそれを付けて歩く勇気がない。


 現場で装着してもいいのだけれど、それはそれでどうなんだろうという気がしなくもない。


「でも臭いはきついからな。普通に料理の匂いなんかは分かるし……気絶しそうなら、つけよう」


 と俺は判断した。

 さてそんなこんなで普通に皆で町中を歩いていくと、段々と人通りが少なくなり薄汚れた家が軒を連ねる様になる。

 しかもどことなく異臭がする気がする。


「……何だか臭うわね」

「エイネもか」


 それに私もとミルル達が手を上げる。

 確かにそこそこ距離があるようなのに、臭う。

 この辺は現実だよなと俺が思いながら、花粉症用の様なマスクを取り出して全員に配る。


 子供用まで全て用意した。

 それらを装着して更に進んで行くと、段々に巨大な山が見えてくる。

 そしてそこに向かう人々も。


 服装も汚れてボロボロになった物を着ている人や、別の布でつぎはぎをしているぎしている人達を見かける。

 しかも彼らは、よそ者である俺達をじっと様子を伺うように、家の中からも見ている。

 こんな場所に無防備なカモがやってきたと思われているのだろうか?


 ありえそうな話だと思いながらも更に進んで行くと、予想通り、人間の追剥の様な物が現れた。

 決め台詞もゲームであれば早送りしてしまいそうな定型的な脅し文句。

 いかにも悪役といった様なそれらで、集まってきた人数は二ケタ近い。


 そう、二桁だ。


「……暴漢はこんなに多かったのか」

「タイキそんな事を言っている場合では」


 ミルルがそう俺に言うと同時にシルフが飛びだした。

 しまった折角の出番がというか俺のアイテムが無駄になりそうかと思って見ると、大鎌で数人一度になぎ倒している。

 けれど集まってくる人数は明らかに増えている。


「なあ、何でこんなに増えているんだ?」

「それは少数に対して大勢で叩いたほうが確実に勝てるからじゃない? ねえねえ、私、歌ってもいい?」


 それに答えたのはうきうきとしたように目を輝かせるエイネだったが、俺は、俺達も眠くなるのでとお断りする。

 代わりに、今こそ対人間用のドリンクを使うべき時……というわけで俺はそれを取り出した。

 味と香りは薄くしたりんごジュースのようである。


 まずかったらどうしようと思っていたが、味は大丈夫だと安心しながらそれを飲み込んだ俺の体には、異変が現れた。

 ごきっ、ごきっと音がする。

 同時に俺の二の腕が数倍にも膨らんでいく。


 だが腕だなく足も含めて体全体にそれが起こっている。

 そう、俺は筋肉ムキムキマッチョになっているのだ!

 この栄養ドリンク、その名も“マッスルファクターAtoZ”。


 筋肉。

 あのムキムキは冗談で言ったりするが、やはり心の奥底ではそういったものが欲しいという欲求がある。

 表面を輝かせるために塗るあの油も含めて、気持ちが悪いと言いながらも無意識の内に目で追いかけてしまうのは何故か。


 きっと思春期の頃にダンベルを買ってプロテインを飲み努力をしてきたが、そうなれなかったことへの反発心なのかもしれない。

 確かに俺も初めは躊躇した。

 だが、自身も傷つかずに敵を倒すことを目的としながらも本当は心の何処かで思っていたのではないのだろうか?


 あんな風なムキムキに一度はなってみたいと。

 本当の自分に嘘をついては駄目だったのだ。

 自分を開放した今この瞬間、俺は、限りのない爽快感に満たされている。


 そう、素晴らしい、これが俺の真に求めてやまなかったものなのだ!

 何故か目の前でシルフを含めて敵連中もぎょっとしたように俺を見ているが、全く問題ない。

 筋肉が凶悪化しても大丈夫な服を着ているので見苦しいことにすらなっていない。


 そこで俺は腕をボキボキと鳴らしてから、


「さて、始めるとしようか」


 そう呟いたのだった。









 まずは結果だけを話そうと思う。

 結果は俺の圧勝だった。

 この筋肉は魔法や刃物による攻撃を全て防ぎ、そして俺のパンチやキックは全て敵にあたっていく。


 しかもいつも以上に早く走れるというおまけ付きだ。

 この限りない肉体的な全能感と高揚感。

 一度味わえばその心地よさを理解してもらえるだろうか。


 そう思いながら俺は次々と倒していき気づけば俺の前に建っている人間は一人もいなかった。

 もちろん初めの頃にシルフは俺の後ろにコソコソと撤退済みである。

 さて、こうして全てを倒した俺は振り向きミルル達に、


「早くゴミ山に行こう」


 と、手を振ったのだった。


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