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何かのフラグをおった気がする

 辿り着いた水族館は、白い立方体のビル群が連なった形をしており、中央に円柱の様な水槽があり、そして東の方にプールがあるようだった。

 プールではイルカショーでもやるのだろううか?

 そう思っていた俺はそこで、あるショーの看板を見て目を疑った。


「……生きた化石と呼ばれるシーラカンスが、宙を飛ぶ様をご覧ください。ショーの観覧席ではポップコーンや飲み物が販売されています、か」

「シーラカンスのショーですか。飛び跳ねたりして可愛いですよね。人懐っこいですし」

「……そうだな。そこを一番初めに見に行くか?」

「はい!」


 嬉しそうなミルルを尻目に俺は、もしやこの世界のシーラカンスとはイルカのような形をしたというか、俺達の世界の“イルカ”なのではないだろうかと推論を立てた。

 そうでなければあの細長く大きく可愛いとは言えない様な魚である気がするので、そのような事はないと思える。

 やはり異世界は俺の常識とはちょっと違うのだろう。


 以前、鈴がシーラカンスが空を飛んでいたら楽しそうと言って、名状しがたき物体(その夜夢に出てきた)を描きあげたという懐かしくもないどころか思い出したくもない出来事を思い出した。

 だがそんな物が娯楽になれるとは思えない。

 きっともっと違う……楽しいものであるに違いない。


 そう俺はある意味で期待に胸を膨らませながらそちらに向かう。

 そのショーの場所は入口からすぐにいける場所であり、水槽は後で見る事に。

 とりあえずは飲み物、俺は柑橘系の果物の汁が含まれた炭酸水、それとキャラメルポップコーン、ミルルは葡萄の様なジュースを購入した。


「さて、見に行こうか」

「はい!」


 といった感じで手を繋いで俺はゲートをくぐった。

 まだ朝が早いからなのか人は少ない。

 けれどそこで俺は目撃する。


 ひれ? の様な物を手で振るシーラカンスの、その説明をしたりするお姉さんの二人を。

 予想外の現実に俺は一瞬凍りつきそうになっているとそこでミルルが、


「わー、相変わらず可愛いですね。シーラカンス!」

「……そうだな」

「タイキの世界にもいるのですか? あんな魚が」

「いるにはいるな、同じ名前で。でも多分、あそこにある様な青い輪を飛んでくぐったりはしないな」

「そうなのですか? 不思議ですね」

「俺達の世界で飛ぶのは、“イルカ”だ」

「あの猛獣がそんな事になっているのですか。やはり異世界は少し違うようですね」


 ミルルがそう言って微笑むと、その笑顔に魅了されて他はどうでもよくなってしまって、そして実際にシーラカンスが飛んでいるのを見るとそれはそれで可愛い……様な気がしたのだった。









 さて、そういったショーを楽しんだ俺達。

 次は水槽である。

 一番初めにやってきたのは南の方の魚が泳ぐ場所であったらしい。

 

 この世界の南の方の事情は良く知らないが、何となく南国の様な雰囲気がある。

 サンゴ礁や貝、色とりどりの小魚が鮮やかに輝くように泳いでいる。

 ゆらゆらと泳いでいるその様子を見ると、しばらくじっと見ていた気がしてしまう。

 

 と、くすくすと笑うミルルに気付いた。


「あ、ごめん。一人で見いってしまった」

「いえ、そんなタイキを見ているのも私は楽しいですから」

「一応、擬似的なデートだから俺一人が楽しんでいても仕方がないだろう?」

「そうですか? デートなら、好きな人と一緒にいるだけで幸せだと思いますけれど」

「そ、そうか……」


 といった話をしながら、何故か俺はドキドキしてしまう。

 何かを期待してしまっているのだろうか?

 期待した所で、何処かのラノベ主人公や漫画の主人公の様に良い思いが出来ないのは分かっている。


 でも今日のミルルは可愛い。

 俺が彼氏だったら自慢したくなるくらいだ。

 これで振る人間がいたらきっと男じゃない。


 そう思うと何となくもやもやしていしまうのは、どうしてだろうか。と、


「私は別に、本物のデートでもいいんですよ」

「え?」

「何てね。どうですか? ドキドキしましたか?」

「……ミルル、からかわないでくれ」

「何ですか、脈ありですか?」


 悪戯っぽく笑うミルルに俺は、からかって聞いてくるのは酷いと俺は思う。

 まったく、男心を弄ぶとは……流石は淫魔なのかな? と不安に思った。

 つまり、ミルルは天性の悪女、という事に……。


「ならないな」

「……ですよね。いえ、うん、そうですね、こうやって私の疑似デートに付き合ってくれているのも仲間だからですしね」

「え、いや、えっと」

「そういったタイキの優しい所は大好きですよ」


 にこりと微笑んだミルル。

 これ以上はおそらくは先ほどの話を続けられない。 

 だが、本当に何となくだが、今、フラグが折れた気がする。


 恋愛的な意味でそんな感じの展開だった気がするが、


「多分気のせいだな。気のせい」

「何がですか?」

「いや、こっちの話……え?」


 そこで俺の腕にぎゅっとミルルが抱きついてくる。

 ふにょっと柔らかい感触を覚えた俺が焦っているとそこでミルルに、


「では、行きましょうか」


 そう言われてそのまま移動する羽目になった俺。

 それから大きなクジラの様な生き物のいる水槽に行ったりとそこら中を回ったのだけれど、結局、水槽の入口の部分で団子のように頭を連ねてこちらを見ているシルフ達を目撃してしまい、その後もしばらくは無視していたのだけれど、


「そろそろこのデートも終わりにして、皆で楽しみましょうか」

「そうだな。あの視線はやはり気になる」


 ミルルもそう言ってくれたので俺は、他の皆に手をふって呼び、その日は皆で水族館を楽しむ羽目になったのだった。








 楽しんで家に帰る頃には全員くたくたになっていた。

 なので、外で買ってきたお惣菜で済ませてしまった。

 そして皆が寝静まった夜、俺もそろそろ寝ようかと思っていると、サーシャがやけに真剣にカレンダーを見ていた。

 そして意を決したかのように、赤いペンを取り出して丸を付けている。

 日にちがこの位置から見えなかった俺は、


「サーシャ、何をやっているんだ?」

「私が戻れる日を丸しておいたのです」

「後残り五日か」

「そうですね……」


 そこで会話が途切れてしまった。

 しばらく沈黙が俺とサーシャの間に流れてからそこでサーシャが、


「あの、タイキにお願いがあるのですが」

「なんだ?」

「その、元の体に戻ったら、その、ミルルみたいな疑似デートにタイキに付き合って欲しいのですが」

「いいぞ」

「……軽いですね」

「ん? 別に疑似デートだしな」


 俺はそういうと、サーシャは物凄く変な顔をした。

 なのでなんでだろうと俺は思いつつ、


「サーシャ、幽霊から人間に戻ったお祝いで、いいぞ」

「……はーい。……もう寝ます。それでは」


 そう言ってサーシャは何処かに消えていった。

 まったく何だろうと俺が思っているとそこでミルルの部屋が少し空いている。

 よく見ると隙間があいていてそこにはミルルの瞳が覗いていて……何処となく複雑そうに、俺を見ていた。


 だが俺に気付くとドアを完全に閉めてしまいカギをかけてしまう。

 鍵をかける音がしたから間違いない。


「何なんだ一体」


 俺はそう小さく呟いて、仕方がなく自分の部屋に戻ったのだった。


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