何でこんな場所に……
そんなこんなで俺達は、町の近くにある遺跡に来ていた。
遺跡の中は古代の技術によって明るく照らされているので、灯りは必要はない。
この古代文明の遺跡で、過去の優れた遺物や遺跡では手に入らない植物、鉱物などが取れるのだ。
以前ゲームでも駆け出しの頃に何度ももぐりこんで敵と戦ってレベル上げをしたのは良い思い出だ。
そして初心者のレベル上げには丁度いい遺跡なので、何度も何度も俺はこの遺跡に潜ったのだ。
つまり俺はこの道順も、部屋も、手に入れられるものもほぼ全て暗記済みである。なので、
「こっち側に行くと、“冷却の実”があるから、それを幾らか採取していきたい」
「……お詳しいんですね、タイキ。この世界に連れてこられらのは初めてなのでは?」
「あ、えっと……俺の世界にはこう、箱庭のようなものの中で人形のようなものを動かして、その人形と感覚を一体化させて動かして遊ぶような玩具があるんだ。それが、この世界のものにとても良く似ていて、それで多分こっちだろうなと」
ゲームの説明を異世界に人にするならばどうした方が良いんだろう、と考えた結果そのような説明になってしまった。
ただそれだけ聞くと、お人形遊びのように聞こえて女々しいと思われないだろうか。
そんな不安が俺の中にあったのだが、ミルルの反応から杞憂だったと俺は知る。
「そんなものがあるのですか、もしかして異世界の文明はここよりも進んでいるのですか?」
「どうなんだろうな。俺達の世界には魔法がないからな」
「! 魔法がなくて、どうやって生活したり、そんな魔法の箱のようなものが作れるのですか?」
「言われてみればそうだよな……まるで魔法みたいな時代になったよな。……俺達の世界で使われている魔法のようなものは、“科学”と呼ばれている。ただ、高度に進歩した“科学”だから、魔法のようにみえるのかもしれない」
その答えにミルルは驚いたようだった。
けれど逆に俺自身は気付かされる。
“科学”と一括りにしても、それこそ赤キャベツの汁にお酢をいれたら色が変化するかどうか、といった単純なものから、俺が現在持っているスマホまで、全てが“科学”に分類される。
そしてそれが複雑に、高度になればなるほどより高度な“魔法”、俺達が使えたらいいなという“魔法”に変化するのかもしれない。
何だかロマンがあるな~と俺が思っていた所で、シルフが変なものを見るかのように俺を見ていた。
「? 何だ?」
「……お前は異世界から来たのか?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
そう答えるとシルフはさらに変なものを見たような顔になり、そこでミルルに抱きついて、
「お姉様、この男は頭がオカシイです。イカれています。多少腕は立つようですがこんな男のそばに居ては、お姉様が穢れます!」
「シルフ、タイキに失礼なことを言っては駄目です。それに彼は女神様の加護を得ているのですよ?」
「! ……信じられません! あの“うどん”屋のお姉さんレベルの実力者ならともかく、この普通っぽい男が女神様に気に入られる要素なんて何処にもないじゃないですか! そもそも女神様は美形が好きですし!」
相変わらず酷い言われようの俺だが我慢しているとそこでミルルが、
「でも事実が事実なので、これ以上は言ってはいけません。わかりましたねシルフ」
「うぎゅ~」
「タイキもごめんなさい。でもシルフは悪い子ではないんです。私が甘やかしたのがいけないのかな……」
悩みだすミルルに、俺は気にしていませんよと答える。
それにミルルは安堵し、シルフは気に入らないようだった。
そこで俺達は開けた場所にやって来る。
灰色の石造りのドーム状になった場所だ。
特に装飾もなく、石がただただ積み上げられているような部屋。
この端や中心部などいろいろな場所には、雪のようなものが積もっており、この雪自体も夏場には貴重な冷却材として使えるのだが、それよりも効率がいいのはその雪の中から生えている緑色の植物。
その先端に青い光がぼんやりと輝いて、その“実”のような物が、“冷却の実”と呼ばれるものだ。
遺跡自体は難易度が低いのだが、錬金術の調合などを行っていると冷却しなければならない操作が多々あるために、あればあるに越したことはないくらい必要な物だった。
しかもこの“冷却の実”、とってもとっても瞬く間に現れるという、無限に取れそうな植物なのだ。
すぐ使ってしまう必須材料なのでその点はとてもありがたい。
そう思いながら採取して俺は集めていく。
実の部分は冷たいが、少し触れるだけでは大丈夫だ。
そんな俺を見ながらシルフは、
「……異世界の人間が何でこの世界の植物やらなにやらを知っているのですか」
「? シルフ、先ほど私がタイキに聞いたように、魔法の箱の玩具で知ったのではないかしら。それに他の方から聞いたのかもしれませんし」
「でもそうなると、私達は玩具箱の人形みたい。そんなの気持ち悪いよ」
呟くシルフの言葉を聞きながら、俺は確かに失礼な話だよなとも思った。なので、
「多分この世界を元にして複製した玩具なのかもしれない。俺も“科学”の全部を知っているわけではないから」
「……当然です」
シルフがそう答え、けれどどこか安堵したようだった。
そこで、大きな音が聞こえた。
どしん、どしんと重いものが歩いて行く感覚。
俺も聞いたことしか無いが、そういえばこのはじめの方の簡単な遺跡だが、希にここには似つかわしくないような魔物が現れるという設定がゲームではあった。
しかもこの音や雰囲気から、俺が知っているものだと、
「……コールドドラゴン。何でこんな場所に……」
現れたそれにミルルが驚いたように呟く。
そしてミルル達は焦ったように攻撃の準備を始め、俺も炎の杖を取り出す。
確か氷系のこの魔物は炎に弱かったはずと思いながら、俺は先手を仕掛けた。
「その炎は闇を照らす光“ 閃光の炎”」
そう杖を向けて俺は魔法を使い……恐ろしいほど大きい炎の塊がコールドドラゴンに向かって行き炎に包まれる。
数秒後、そこにはコールドドラゴンの核となる、“ 竜華石”の、氷属性のものが転がっている。
けれどそんなものよりも、俺はある疑問によって動けなくなっていた。
何であのドラゴンは、こんなに弱くなっているんだ?