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あらかじめの戦闘

 魔物相手ならばそこまで気を使わなkぅてもいいだろうと思って俺は、魔法を選択する。

 何が良いだろうと考えて、虫だから草のような物……炎属性で行くかと調べる。

 俺の意志により現れた選択画面の中で、先ほどの鈴の攻撃をも防ぐ怪物に効きそうなものを考える。


 だが考え始めてから俺はある種の疑問を覚える。

 鈴は今まで、こういった選択画面を使っていただろうか?

 俺の見ていない所で使っていたのかもしれないが、ほとんどが武器を使った攻撃である。


 選択した職業に魔法使いがあったはずだけれど、それを使ったりする様子がない。

 それは今も、だ。

 鈴ができるかぎりこの魔法を使わないことに何か意味があるのだろうか?


 鈴の正確なら真っ先に、俺と同じその魔法を使って攻撃しに行きそうである。

 ここにいる鈴は、本当に俺が知っている“鈴”なのだろうか?

 ふと浮かんだ不安を俺は、すぐに奥に押しやり、魔法の技名に思考を切り替える。


 その中の一つ。

 “火山の吐息(ボルケーノ・ブレス)”を選択する。

 火山の噴火のイメージそのままに、高温の炎が吹き出す魔法だ。

 

 しかもゲーム内ではしてい範囲内に密閉空間を作り、そこに炎を流しこむという技で、周囲への影響は全く無かった。

 それを思い出しながら俺はその文字を指でふれえう。

 風をきるような音が聞こえて顔を上げると、俺の“人造精霊”が先ほどの青虫を白い光の糸で拘束していた。


 どういう素材なのだろうと思ったが、何となくその“人造精霊”に違和感を感じる。

 よく見ると少女の着ていたドレスのリボンが一つなくなっている。

 それを分解して、糸にしたのだろうか?


 問題のある能力だと俺は思いながら、そこで俺の足元にオレンジ色の光の魔法陣が現れる。

 そこから一本の線が現れたかと思うと、その青虫を取り囲むように大きな円陣が現れて、すぐに細い楕円形に変化する。

 範囲設定はそれでいい。


 あの謎の異世界の人物である彼女たちも、鈴やミルルもその範囲になっていない。

 “人造精霊”は無表情に魔法陣の外にいて、糸を緩めることなく棒立ちになっている。

 こうやって見ると意志のない人形のようだ。


 とりあえずは攻撃範囲に味方などがいないのを俺が確認した。

 それと同時に、いつもの様に俺の口から呪文がこぼれ落ちる。


「眠りし大地のその奥で

 大地の歌の微睡みに

 小さくまぶたを震わせて

 子守唄はすでに途切れ

 目覚めの時は近いと囁く

 律動に小さく息を吐く」


 そこまで呟くと、オレンジ色の魔法陣の光が強く輝く。

 光の柱がその青虫達の下で輝き、一番側面の円から光の柱が柵のように登り立つ。

 その光が天井につく程度に吹き上がると同時に、俺はその炎の魔法の仕上げとなる言葉をつぶやいた。


「“火山の吐息(ボルケーノ・ブレス)”」

 

 その言葉に呼応するかのように轟音がして、白い柱がどことなく赤い色に染まる。

 白い光に埋もれるようにあった、青虫の体力がバケツに穴が相手水がこぼれ落ちるように一気に減っていく。

 その間数秒程度。


 青虫の体力が完全になくなると同時に、轟音が収まり光は消えた。

 後には、キャベツのようなものと青い石が8個ずつ。

 このキャベツは、キャベツ炒めにして食べろとでもいうのだろうか?


 そんな疑問が俺の中で浮かんでいるとそこで、


「……一撃」

「え、えっと、はい」

「……まさかそんな奥の手を持っていたなんてね。こちらの世界の人間は。魔法を使えるといっても、ここまでとは」

「攻撃すると、痛い目にあいますよ」


 出来ればここで引いてもらおうと思って俺はそれを告げた。

 それに侵略者である彼女は嗤う。


「ええ、そうさせてもらうは。とても良い情報が手に入ったのですから」


 そう告げて踵を返す。

 彼女はそこで赤い球とともに、なにか黒い球状の小さなものを落としていく。

 その先には、よく見るとこの屋敷には似つかわしくない金属とガラスを組み合わせたような扉がある。


 それが開かれて、その扉の先には砂に満ちた砂漠が見える。

 不毛の大地を垣間見ると同時に扉が閉まり、そこで俺の前に“人造精霊”が現れる。


ご主人様(マスター)危険です」


 その声とともに、“人造精霊”の姿が透明な結界のようなものに変化して俺の前面に広がる。

 同時に黒い粒が爆発する。


ドオオオンンッ


 大きな音と何かが壊される音。

 モクモクと煙が立ち上り、部屋に充満する。

 先ほどの衝撃でこの部屋の窓ガラスが割れたらしく、そこから煙が抜けていく。


 後にはいくつかの金属片が転がるのみ。

 それを見ながら俺は、何故彼女が最後にあの爆弾のようなものを置き土産にしたのかが分かった。


「彼女が消えた扉はたしか結構大きかったはず」


 その扉があったであろう場所に残された、俺の握りこぶし大の金属片2つと、幾つかの砂粒を見ながら俺はそう呟いたのだった。








 それから俺達は扉の周辺を調べてみたが綺麗になくなっていて、よく分からない。

 “人造精霊”の壁のおかげで俺達は助かったが、もう少し俺も気をつけるようにしないとなと思いつつ礼を言って“人造精霊”を消す。

 それから鈴とミルルで分かる範囲で探しものをするけれど、異世界の侵略者の痕跡は何処にもない。


 攻撃した過程で、青い石から生まれた青虫達の素材すらも、彼女の起こした爆発で消し炭にされたのか魔力に戻ったのか……消失している。

 あの扉を使わせないようにということだろうか。

 最後に壊していくあたりは流石だと思う。


 そして俺の力を見て彼女たちは次にどんな行動に出るだろう?


「これから、か。後でリドルさん達にも全部伝えておかないとな」


 俺がそう呟くと同時に、シルフ達が部屋に現れた。

 まず俺達の遭遇した出来事を話すと、


「奇遇ですね。こちらにも青い石を額につけた凶悪生物がいたのです。倒しましたが」

「そうなのか? そっちは防御が柔らかかったのか?」

「……タイキの武器を使いました」

「そうなのか。確か強力なものを渡しておいたが」

「……ああいった強力なものを手軽に作ってしまえるのも、さすがは女神様の加護という気がします。強力な武器を作るのは失敗した時は危険ですから」


 そういえば俺は作っていて、今のところ、強力な武器は失敗していないのに気づく。

 危険を認識しながらそれによって怪我をしないように作り上げる、それは現実世界でも同じだ。

 包丁に気をつけながら、じゃがいもを切るようなもの。


 ……例えが何か違う気がしたが、大体そんな感じだ。

 そう考えているとそこでシルフ達が、扉の作りかけを見つけたと知る。

 なので見に行くとそこには、確かに先ほど彼女が消えたあの扉が残っていた。


「どうして残っているのでしょうか」


 シルフがそんな疑問を呟くとエイネが、


「案外、ここは見つからないと慢心していたのかもね。たまたま割れ目があったから気づいただけで」

「敵も人間らしいな。そんなミスをする当たり」


 俺がそう答えるとエイネがそうねと笑う。

 敵だからミスもする。

 でも同じ人間ならば人間相手の……一番危険で大変な敵相手でも、何とかなるのではという気もする。


 同じ人間だからこそ、“似たようなこと”を考えるから推測出来る。

 けれど怪談のオチのように、本当に怖いのは人間なのだ。


「気を抜かないように、甘えないようにしないとな」


 そう俺は小さく呟いたのだった。

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