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俺自身の選択

 その言葉に不安を覚えた俺は彼女から少し離れた場所にまで飛び退いた。

 見ると鈴とミルルも下がって距離をとっている。

 鈴が楽しそうに、


「どうやら当たりみたいだったね。タイキ、それでどうする?」

「どうするもこうするも……どうしよう」

「捕縛して全部吐かせる?」

「……そういう血なまぐさいことは出来ればしたくない」

「そう、だとしたらどうする?」


 相変わらず鈴は楽しそうに話してくる。

 そこはそんな風に気軽に決めてしまえるところなのだろうかと俺は思いながら、


「よし、まずは聞いてみよう。答えてくれるかはわからないけれど。すみませーん、ちょっとお話をお聞きしたいのですが」

「……この状況でそれを聞くの?」


 どこか呆れたように、その異世界からの侵略者であるらしい彼女が呟く。

 ちなみに彼女の両手には、青い石のようなものが幾つも指と指に挟んで、計8個ほどになっている。

 それを何処かで見たような気がしながらも俺は、


「そこをなんとかお願いします。どうして貴方がたはこちらの世界を侵略しようとしているのでしょうか」

「……私達の世界が生きるのに辛いからよ。生きるために私たちはこちらの世界が必要なの」

「……そちらの世界の神様は、何もしてくれないのですか?」


 俺の今いる世界は、あのエロ女神様が何だかんだ言って手を加えているようなのだ。

 だからそちらにも神様がいて、何かをしていると思ったのだ。

 うちの女神様も神々では戦いたくないと言っていたし、そう俺が思っていると目の前の彼女が、


「……こちらの女神が攻撃してくれば戦うし反撃もできる。でもあの神は私達の世界をどうにかする、そういった思考自体が根本的に抜けている。だからこそ、魔法の使えない私達には“精霊様”は大切なモノだったのに……」

「“精霊様?”」

「全てに満たされた貴方達には、それを持たざるものの苦しみなんて分かるはずない」

「……でもいきなり侵略はないんじゃないのか? もう少し対話で何とか出来ないのか?」

「無理よ。すでに派閥が分裂して、散り散りになって……私達は戦っていて、ここに逃げるか侵略するより他、私達の世界を存続させる方法がない」


 真剣にどこか涙声で彼女は言う。

 そして今の話を聞いているとどうやら、その侵略してきている異世界がおかしくなってこの世界に侵略をしてきているらしい。けれど、


「そちらの世界が回復すれば、こちらに侵略してこないと?」

「無理よ。ここを奪うのは規定路線。今更変えられない。むしろ、こちらの異常を治してくれるなら、さらに装備を整えてこちらを確実に奪おうとするでしょうね。……甘えた考えは捨てることね」

「……いいんですか? そんな事を俺達に言って」

「優しい子は嫌いじゃない。そしてこの世界が本当に羨ましい。女だって皆自由だもの」


 ポツリと小さく付け加えた彼女。

 そして深々とため息を付いてから、


「いい、だから私に手加減しようとか、甘いことを言っちゃ駄目だからね!」

「え、えっとはい。何だかすごく親切に忠告してくれているような気がするのですが」

「! べ、別に、美人て言ってくれたり優しくしてくれたのが嬉しかったわけじゃないんだからね!」


 などと顔を真赤にして申されました。

 これはひょっとして……と俺が思っていた所で、側にいたミルルが、


「なるほど、これは“敵”ですね」

「ミ、ミルル、何だか顔が怖いぞ?」

「いえ、ですが我々のほうがそんな甘いことを言っていられる相手ではないとここで見せつけるいい機会です」

「え、えっと」

「やはり、侵略しようとは思わないような圧倒的武力の片鱗を見せつけるべきでしょう。もともと、脅そうが何をしようが、ありとあらゆる手を使って、どちらかを完全に叩きのめすような状況に持っていく“戦争”を回避するのは誰にとっても素晴らしいことなのですから」

「……それしかないか」

「今思いつく、タイキが好ましい血生臭くない結末に向かうにはそちらかと」

「そこを相手に付け込まれるという可能性は? 攻撃してもいい理由にされてしまう」

「まだ一度も接触しておらず、こちらとほぼ戦闘になっていない彼らはこちらの力を知らないでしょう。それに……タイキのちからは彼らは知らないでしょう?」


 ミルルが小さく最後に付け加えて告げる。

 思いっきりが良すぎる気もしたが、もしも幾らか力を見せつけることによって止められて、戦闘自体に付け込まれないのだとしたなら、


「確かに交渉の材料にはなるかもしれないのか」

「……そこ、何か話し合っているようだけれど、懐柔なんて出来ないんだからね」

「いえ、普通に戦闘してこちらの実力を見て、情報を持ち帰っていただこうかなと」

「……他の仲間を呼んだほうがいいと思うくらいの攻撃を私はしかけるつもりだけれど、その余裕が命取りになるわよ」

「た、多分大丈夫だと思います」

「そもそもこの会話をしている時に攻撃をしかけるといった事も、考えつかなかったの?」

「ま、まずは話ができればと」

「話しにならないわ」


 それに彼女は深々とため息を付いて、


「“開け”」


 そう告げると共にその彼女の手にある青い石が輝き、この屋敷の幽霊である白い靄がそこに集まり始めたのだった。










 青い石に向かって、白い幽霊たちが収束していく。

 不気味なその光景に不安を覚えつつ俺は、巨大化したお化けになったら嫌だという気持ちになる。

 だがそれは杞憂で終わった。


 それらの白い雲に覆われたかと思うと現れたのは、


「青虫?」


 キャベツをよく食べるあの虫である。

 その大きいバージョンが目の前でうぞうぞ動いている。

 見ただけで凍りつくようなそれに、一瞬俺は動けなくなった。


 だがすぐに俺の横で、シャッッと何かを取り出す音とともに、ミルルが三本ほど弓矢を持ち、弓をひく。

 それらは青虫に刺さったかと思うとその場所から凍りついていくも、すぐにそれは粉々に砕けてしまう。

 ミルルはぎょっとしたように、


「え、気持ちが悪かったので強力な魔法を乗せてこの部屋ごと凍らせる勢いでしたのに!」


 ミルルのその言葉を聞いて、これは魔法が効かなくてよかったというべきなのだろうかと俺は思った。

 下手をすると俺達まで凍りかねない。

 それほどまでにミルルの嫌悪感を煽ったのだろう。


 そもそも戦闘になったために、体力が表示されているが先ほどの攻撃ではそれほど減っていない。

 少し強力な技のほうがいいのかを俺が考えていると鈴が、


「とりあえず、鎚で叩きのめしてみるわ。せーのっ、それっ」


 横になぐように狭い部屋内をなぐ。

 おかげで俺の直ぐ側までそのやや巨大化した鎚が近づいていた。

 

「おい、もう少し場所を考えろ」

「うーん、いやね。ミルルの魔法でもあまり効果がなかったみたいだからこれぐらいでどうかなと思ったけれど、連続攻撃しないと無理そうだね」

「そうだな、何十回やればいいのか、って感じだが」

「よーし、次は雷でシュバッと行きましょう」

「ちょ、俺の側で電気を走らせるな!」


 俺の真横で雷が走るのを見ながら俺は叫ぶ。

 同時に動き出そうとしているこの青虫達に向かって、“人造精霊”を呼びだそうとする。

 ふっと体が少し軽くなる浮遊感と共に、少女の精霊が生じる。


 そこで鈴の雷が、やはりそれほど効果がないのが分かる。

 体力がそれほど減っていない、そう俺が見ると同時に俺の生み出した“人工精霊”が、


ご主人様(マスター)、命令を」

「じゃあ、あそこにいる魔物全員をそれ以上動けないように拘束してくれ」

「了解しました」


 大雑把な説明であったけれど、俺がイメージしたように魔力で糸のようなものを作り拘束していく。

 それを見ながら俺は、次にする攻撃の魔法を選択し始めたのだった。


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