表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/147

文明の利器

 壁から覗く六つの赤い瞳。

 サーシャがそれを見て、悲鳴を上げて全力で箱の中に隠れる。

 そしてシルフもそれに気付きその場所から一気に後ろに飛ぶ。


 エイネはもともと少し離れていたので、それ以上は動かないが、腰の辺りから小さな剣を取り出す。

 

「私、近くに敵が来たら剣でバッサリするか、歌で眠らせてから近づいてバッサリがいつもの戦法だったから、離れた場所からの攻撃ってそこまで得意じゃないのよね」


 嘆息するようにエイネが呟く。

 シルフはそういえばエイネは、剣士だったと思いだして、それ以外はがっかりな腕前だったのを思い出す。

 しかも魔族なので魔法も使えるのだが何故か魔法使いは選ばなかった。


 だから、エイネが他に何をできるのかはあまり期待できない。

 そして、シルフも魔法使いではあるけれど、魔法がそこまで得意ではない。

 シルフがやはり近づいて攻撃かと思いて気が出てくるのを待つ。


 キィと、金属音が聞こえた。

 同時に壁に埋め込まれていたらしい金属の破片が折れ曲がり、はじき飛んでくる。

 それおよ蹴ると、壁がガラガラ崩れ出す。


 現れたのは八本足の、毛むくじゃらの生物だった。

 まるい胴体がありそこには六つの赤い瞳と、額に青い石がついている。

 赤い瞳はぎょろぎょろとしてよく見ると幾つもの赤い目が、その中に封じ込められているのが見える。


 気持ちが悪い、しかも全員の動きを見ている、シルフはそう気付いた。

 するどい足でどの獲物を倒そうか、狙いを定めているように見える。

 先手必勝、シルフは今まで見た事のない得体のしれないその魔物に不気味さを感じて走り出す。


 大鎌に炎の魔力をまとわせて、大きく鎌をなぐ。

 高い音がして、攻撃が結界により防がれる。

 その生物の足が片方上がっただけで、防御用の魔法がされたらしい。


「即座に魔法が晴れる怪物……何でこんな魔物がこんな隠れるようにしているのですか」

「……誰かが、何かを隠すためにその守り人としてそれを配置した、とか」

「! ここは、ただの幽霊屋敷でしょう?」

「……あたりを引いたのかもしれない。タイキが見た人物も本当に異世界人なのかもしれない」


 小さくエイネは呟いて、それから歌を歌い出す。

 いつもよりも本気の歌声だ。

 歌に潜む魔力が強い、シルフは気づいて慌てて耳を手で塞ぐ。

 

 音にのせた魔力は、音が少なくなれば少なくなり、流れこんではこなくなる。

 そしてシルフは小さくその目の前の魔物を見るけれど、小さく震えるのみで、ギョロギョロとその瞳を動かして獲物をどれにするか狙いを定めているようだった。と、


「うにゃぁああ、ここで、私の出番! というわけで猫パーンチ」


 サーシャの杖の妖精が攻撃に向かうが、それもあっさりと防がれてしまう。

 その防御の結界に弾き飛ばされた精霊のミィは、『にゃあ!』と叫んでそのままコロコロと転がって反対側の壁にぶつかった。


「ミィ!」


 サーシャが焦ったように近づこうとするが、そのサーシャにシルフが、


「今は目の前にいる敵を倒すのに集中してください! って!」


 シルフは目の前の怪物が何かを吐き出すのを見て、慌てて防御用の魔法を使おうとしたが間に合わない。

 そこでエイネが、


「“静かなる防壁(ノイズ・キャンセラー)”」


 そう呟くと、薄緑色の壁ができてそこにベチベチとなにか白っぽい透明なものがあたって溜まっていく。

 どうやら細い“糸”のようだ。

 しかも相当粘性があるらしく、壁にあたったと同時にべちょっと張り付くようにして次々と、その糸が防御用の結界に張り付いていく。


 そこでエイネが顔をしかめた。


「……重いわね。魔力の属性による影響を跳ね返すタイプとか余計な効果をつけなかったほうが良さそうね」

「そうでしょうか? この意図自体にも魔法的な効果があるからこれを打ち破らずにいるのでは?」

「……壁が触れた場所から凹んで見えるから、魔法そのものを消し去る効果があるのかも。なので跳ね返す効果があるだけ、すぐに壊されないのかも」


 そうシルフはエイネと、目の前一帯が真っ白になるのを見ながら、シルフは、


「これで近づいて攻撃は難しいですね」

「それもそうね。……このまま逃げて、遠距離からの攻撃をする?」

「……たしかにここが遺跡のような効果が有るのなら、そこから魔物はほとんど出てこないだろうけれど……この世界の魔物とは違って、これが異世界のものだったなら制限が加わらない、ってことはないわよね?」

「ここは癪ですが、タイキの力は強いのでそれで倒してもらいましょう」


 そうシルフ達が話していた所で、にゅっとサーシャが二人の間に現れて、

 

「そのタイキから貰ったアイテムが有りますが。使わないんですか?」

「「……」」

「私みたいな幽霊でもすごく強力な攻撃がそれでも出来ますが。すごいですね、錬金術って」

「……サーシャがそういう存在だと忘れていました」


 シルフがそう呟くと、サーシャはひどーいと呟く。

 けれどその方法がわかったので、サーシャに強そうな武器を見繕ってもらう。と、


「これなんてどうでしょう! 小型の短剣でヒモがついていて、この赤いボタンを押すだけらしいです。ここに説明の紙がついていました。名前は“ピクリンさん”らしいです」


 というわけで、その短剣のようなものを投げて、サーシャがポチッとスイッチをおす。

 ぶすりとその魔物に刺さると同時に大きな爆音が響く。

 大量の結界に張り付いていた白い糸が消えて後には束ねられた糸のようなものが転がっている。


 これが何かは分からないが使えるものかもしれないので回収しつつ、一瞬にして倒されたその怪物を見ながらシルフが、


「魔法よりも使い勝手がいいですね。しかもここまで強力な攻撃ができるなんて」

「女神様が選ぶだけの人物ではありますね。さて、倒せたのでこの壁の奥を見てみましょうか。何かをそこに隠していたのかもしれませんし」


 エイネがそういうので、シルフは一緒に覗きに行く。

 ちなみにサーシャは転がっていたミィの様子を見て、気絶しているようなので回収していた。

 なのでそちらはサーシャにお任せしてシルフはエイネと一緒にその穴を覗く。

 

 暗くてよく見えないが、銀色の作りかけの扉のようなものが見て取れる。

 けれどその扉のすぐ隣には壁に穴が開いているらしく外から光が漏れている。

 しかもその作りかけの扉は、“外と繋ぐ”予定のないものであるらしく、壁とのアダには少し隙間がある。


 では、一帯何処と繋ごうというのか。

 嫌な予感がした。

 あのタイキ達と一度合流した方がいい、そうシルフとエイネは思って、


「戻りましょう。お姉様達は今は上の階にいるはず」


 シルフの言葉にエイネが頷き、そして目が覚めたらしい杖の精霊にねこぱんちを理不尽に喰らっているサーシャを連れて、シルフ達はその場を後にしたのだった。








 場所は、タイキ達があの異世界からの女性と遭遇した所まで戻る。

 眠っている彼女に俺はどうしようかと悩んでいた。

 とりあえず上半身抱き上げて、息をしているか確認する。


「……生きているみたいだ」

「どうしましょうかこの人」


 ミルルが聞いてくるので俺は迷ってしまう。

 このままこの人を捕まえて差し出せば、それはそれでこの世界にとってはいいのかもしれない。


 でもここでこの人を差し出したなら、エロくない方のR18展開だろう。

 捕虜の扱いについては……俺達のいた世界での昔の話を読むと、あれである。

 多分同じようなことになるだろう。


 けれど、ここで逃がしたなら……そう俺は迷ってしまう。

 そこで彼女のまぶたが小さく動いた。

 そしてゆっくりと開いていくのを俺が見ていると、


「……え?」

「あ、えっと倒れていたのでどうしたのかと思ってみていたのですが……」


 そう俺が告げると目の前の彼女が顔を赤くする。


「わ、私としたことが」


 そんなふうに言う彼女。

 俺はどうしようかと迷っていた所で、すっと彼女から表情が消えた。それから、


「もう大丈夫ですので、離していただけますか?」


 というので俺は彼女から手を放し立ち上がる。

 そして彼女も立ち上がり、


「心配して頂きありがとうございました。ですが……ここをこの世界の人間に知られてしまったのは私の落ち度です」

「え?」

「規定通り、行動を開始します」


 そう、彼女は唇を噛みしめながらそう宣言したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ