別ルートの出来事-1
時刻は、タイキ達が二手に分かれた頃に遡る。
タイキ達と別れた、エイネ、シルフ、サーシャは現在一階を散策していた。
エイネは何処となく面倒臭そうで、シルフも無言である。
杖の精霊も面倒臭くなったのか、先ほどから出てこない。
この中で唯一、違った表情を見せているのはサーシャだった。
そこでシルフが大鎌を持ちつつ部屋を開けると、
「ばぁああああああ」
「ぎゃあああああ」
サーシャが涙目になって悲鳴を上げる。
この時“幽霊のしずく”が出来たりしていたが、それを杖の精霊のミィがいそいそと回収していたりしたがその辺りの話は置いておくとして。
「とりあえず、私をおどかそうなんて100年早いのです」
シルフがそう呟いて鎌を振るう。
一凪ぎするだけでおどかしてきた幽霊は消失する。
その一瞬で消える様子を見てシルフは半眼になりながら、
「こんな風におどかしてくるだけなんて、子供だましです。もう少し工夫が必要ですね、30点。赤点です」
シルフがそう評価を下し、先ほどの部屋に入っていく。
それにサーシャは相変わらず涙目のままでいると、サーシャの杖の妖精であるミィが、
「サーシャ、何時までもそんな顔をしているんじゃないの!」
「だって、おどかしてくるし、顔怖いし!」
「だから、いかつい顔で有名なミシェル叔父さんにこの歳になってもおどかされるのよ! まったく、サーシャはどうしてこんなに怖がりなのよ」
「だって突然出てきたら驚きます!」
「……タイキだけでなくサーシャまで。しかもサーシャだって幽霊なのになんで、幽霊を怖がっているのですか」
「幽霊だって夜は怖いし。だから寝ているんだし」
「……夜眠っている理由はそれだったのですか。幽霊になっても生活サイクルをきちんとしている、サーシャもちょっとは大人になったかと思ったのに……この駄目サーシャ!」
「うにゃあああああ」
そこで杖の精霊、ミィの猫パンチがサーシャにさく裂した。
更に涙目になるコントの様な会話を繰り返す二人を見ながらシルフが深々と溜息をついて、
「やはり私が頑張らないといけないようですね」
「そうね、シルフも頑張ってね」
「……エイネお姉様は一番の年長者です。積極的な行動を取るべきでは?」
「ふふ、大人は見守るものなのよ」
「私が大変なだけじゃないですか。でもいいでしょう、ここで私の実力を、認めさせるのです」
「頑張れシルフちゃん」
「よし、サーシャ、そろそろタイキの作った攻撃用の武器を使い援護してくいださい。先ほどから泣いてばかりです」
サーシャはシルフに言われてびくっとしながらも、
「うう、頑張ってみます。シルフより私の方がお姉ちゃんだし」
「サーシャが私よりも年上……そういえばそんな設定がありましたね」
「設定! 酷い! いいもん、私の実力を見せてやる!」
というわけでやる気を出したサーシャ。
そして中を覗くとそこはベッドルームのようだった。
もちろん布団も何もなく、金属製のベッドは長い間放置されていたためかさびてボロボロになっている。
そういえばこの家ではよく壺を目にする。
そしてその蓋を開けるたびに何かが出てきたり出てこなかったり。
ただ妙に壺が多い気がする。
それも似たような柄の。
「何か怪しげな商法に騙されてこんな壺を大量に購入したのでしょうか」
「うーん、似たような柄だし、昔は結構いろいろな用途に使っていたから、大量に買う時に値引きしてもらったんじゃない?」
エイネがそんな風に答えるのを聞きながらシルフが、
「ケチですね。お金持ちなのに」
「お金持ちだからケチなのよ。だからお金が貯まるの」
「なるほど」
などと話しながら先ほどの様に壺を見ていくが特に何もない。
幽霊が出てくる気配もない。
先ほどの部屋を開けるとおどかしてくる幽霊でこの部屋は打ち止めか。
シルフはそう思った。
なのですぐ傍にある、最後に見る洋服箪笥に手を伸ばそうとしてそこでエイネが、
「折角だからちょっと歌ってみていいかしら」
「いいですが、どうしてですか?」
「そのサーシャ姫には効きにくいけれど幽霊にも私の歌は効果があるみたい。だから試しに小さく歌って見たらもし幽霊がいても眠ってしまうのかなって」
「なるほど、そういった事はありそうですね。試してみるのもいいかも」
「あ、私はエイネさんの歌を聞くと本当に眠くなるのでなるべく小声でお願いします」
最後にサーシャがそう付け加えて、とりあえずシルフの持っている箱からサーシャが出てくるのでその洋服箪笥から離れた場所に移動する。
そしてエイネが何事かをそこに向かって呟く。
シルフには聞こえない音量なのだが、サーシャはうつらうつらしているのでおそらくは歌っているのだろう。
やがて、その洋服箪笥から、がこんと何かが壁に当る小さい音が聞こえる。
しかもそれとともにトントンと音がして、そこで引き出しが大きく開いた。
開いた引き出しからもこっと白い物が溢れて、白い何かがタンスから零れ落ちるように床に落ちる。
どうやら先ほどと同じような幽霊であるらしい。
この引き出しに隠れていたようだが、エイネの歌で眠ってしまったようだ。
だから中から出てきたようだ。
そこでエイネは歌うのを止めてからそれを見て、
「ここに隠れていたみたい。とりあえず他の棚に何かあるか見てから、次の場所に移動しましょうか」
冷静にそう告げるエイネ。
そして探したが小さな魔石しか見つからず、その場をシルフ達は眠っている幽霊を放置して移動したのだった。
一階の一番奥の部屋は、突如現れるお化けは開いた瞬間には出てこなかった。
だが中には本棚とグランドピアノが置かれている。
このパターンはとシルフが思っているとそこでサーシャが、
「何だかあのピアノが動き出して襲ってきそうですね」
「サーシャ、私があえて突っ込まなかった所にどうして突っ込んで行くのですか」
シルフがそう呟くとともにグランドピアノがぶるぶると震える。
そこでエイネが歌い始めた。
プルプル震えるグランドピアノは大人しくなり、やがて静かになる。
どうやら眠ってしまったようだ。
そんなグランドピアノが大人しくなったのを見てエイネが、
「大抵この歌で魔物なんかも簡単に眠ってしまうから、戦う事があまりないのよね。腕がなまるわ」
「いえ、でも戦うという事は怪我をする可能性もあるわけですし……」
「そうね、シルフの言う通りだわ。そしてサーシャ姫もごめんなさいね、先ほどから機会を奪ってしまって」
「いえ……いいです」
いそいそとタイキから貰った武器関係を収納するサーシャ。
何処となく残念そうな雰囲気が漂っているが何の問題もない。
とりあえずは危険なグランドピアノは無力化したので撤退してもいいのだけれど、そこで、
「折角だしここも見ていく? 本棚くらいしかないけれど」
と言った話になり覗き始める。
本棚自身も、本がそんなにあるわけではなく、引き出しにも小さな幽霊が眠っていてそっと閉めたりした。
そこでサーシャが、
「んー、何だか変な感じがします」
「そうなの?」
シルフに問いかけられて頷くサーシャが、亀裂の入った壁に近づく。
そこだけ他よりも真新しく見える気がする。
壊れた壁を修理したような跡。
黒ずんでいる壁と似た色で塗られているので、ぱっとみでは気付きにくい色調。
そこをサーシャは軽く叩くと、ぽろぽろと壁がはがれてくる。
「ひぃい!」
サーシャが悲鳴を上げる。
そこには赤い無機質な瞳が六つ……暗闇の中で輝いていたのだった。