用意周到すぎる気がする
こうして、幽霊屋敷に関する話は俺が逃げたことでその日は特に何事も無く過ぎていった。
せいぜいエイネがまた酒場での歌手をクビになったくらいである。
「なんでよ、何でまたクビになったの!? 今回は誰も寝なかったのに! 『皆すごく目が覚めて、酒を飲んでも酔えないって苦情が来ているんだ』っ、店主が言ってクビ……寝なかったんだからいいじゃない! 皆お酒一杯飲んでたし!」
と、その日はお酒を飲みながら愚痴るエイネに付き合わされていた。
そしてそのまま泥酔したエイネを、ミルルが部屋に連れて行った。
俺としては、何故か生け贄の羊がごとくお任せされて延々と愚痴を聞かされてしまった。
そしてようやく開放されたわけである。
ちなみにシルフとサーシャはすでに気持ちよく夢の中だそうだ。
俺ももう少しして寝よう、そう思っているとそこでミルルが戻ってきて、
「お疲れ様です」
「途中でミルルが俺に、バトンタッチしてきた意味がよくわかった」
「エイネはお酒が入ると愚痴が長いんです。あ、何か飲みますか? よく眠れるハーブティがありますが」
「じゃあそれで」
というわけで俺はミルルにそのオススメハーブティを貰う。
優しい花の香のするそれをいただきながら、今日は疲れたなと思っているとミルルに、
「それで、明日はなにか予定がありますか?」
「んー、南の方のゴミ山に向かおうかと思っている」
「あそこですか? スラム街のある」
「ああ……そういえば元奴隷の冒険者達が山賊だか何かになっているんだったか。あそこの近くの遺跡で遭遇したよな」
以前何人もに遭遇した記憶があるのでそう答えるとミルルが頷く。
ゲーム内ではただの“敵”と認識していたが、いざ戦うとなると戸惑う。
そう俺は思いながら、ふとある疑問が浮かぶ。
「そういえばどうしてあの山賊たちはそんなに武器を持っていたんだ? 密売ルート化何かでもあるのか? そんなに手軽に武器は買えたかな……」
「冒険者になる時に、武器も持たずに冒険者になるのは危険だということで安価な量産性の武器を一部配布したのですが……」
「ですが?」
「魔物は結構強いじゃないですか。そして普通に生活している人はそんなに武器は持っていませんし、使うことに躊躇してしまう。なのでどちらがより怪我をせずに、生きることが出来るかというと……その武器で脅したり、奪ったりするほうが楽で生活しやすいと考えた方々が結構いまして」
「そう……か」
「もちろん真面目に冒険者を目指したり商才があって商業で成功した方々など、もいましたが、一部は町を逆に乗っ取ってしまったりといったこともあったそうです」
「なるほど……」
異世界の事情も結構アレであるらしい。
ただ何となく歴史を紐解けば、色々過去にあった出来事を繰り返しているような気がしないでもないが。
そこでミルルが、
「でも、ゴミ山は今すぐに行く必要があるのですか?」
「すでに大量に鳥に食べられた後だったからな。とりあえずは幾らかは回収できたが」
「すぐに実がなる植物なんですよね?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
俺が問いかけるとミルルがにこりと笑い、
「いえ、少し気になっただけです。さて、そろそろ私も寝ますね。今日は疲れてしまって」
「? 家にずっといたのでは?」
「いえ、以前女神様から頂いた高級真珠をネックレスに加工してもらいにいったのです。ほら、まだ予定は決まっていませんが、タイキとデートをするでしょう?」
「あー、あのデートの擬似練習か。いつにした方がいい?」
「そうですね。うーん」
「まあいつでもいってくれ。予定は基本的に空いているはずだから」
「はい、よろしくお願いします」
そういった話をして俺は、ミルルと別れて眠ることになったのだった。
次の日。
俺はよく寝たなと背伸びをして、部屋から出た。
何だか懐かしい出汁の匂いがするが、いつもはパンの匂いだったよな、俺の鼻もおかしくなったのかなと俺は思った。
だがその俺の感覚は正しかったらしく、テーブルの上には熱々のうどんが。
しかも俺以外に皆起きていて支度まで整えている。
さらに付け加えるなら、何故かそこには鈴もいて、
「今日は朝から新製品のうどんだよ。丁度タイキも起きてきたから、味を見て感想を教えてくれると嬉しいな」
「新製品て……何だこの天丼のようなものは」
「うどんが隠れるくらい天ぷらを敷き詰めてみました。あ、トマトケチャップもあるよ」
「……そのケチャップを何に使う気だ」
「天ぷらにかけると以外に美味しい」
そこでそのトマトケチャップの瓶を持った鈴が笑顔で俺に近づいてくる。
俺はそこで先程の会話から導き出される答えについて、気づいた。
「まさか……俺の天ぷらにそのトマトケチャップを投入するつもりではあるまいな」
「ようやく気づいたのかね。だがすでに私はこのケチャップの瓶の蓋を開けてしまっている。その意味がわかるかな」
「だが、天ぷらは汁につけて食べる派の俺は、トマトケチャップなる邪道な食べ方は許せない!」
「邪道と申すか。前々から思っていたが……そういえばお主は、目玉焼きに塩をかけて食べる派だったな」
「そういう鈴は、醤油派だったな。どうやら俺達は分かり合えないようだ」
「残念だよ、タイキ君。君には失望した。こうなれば、実力行使だぁ!」
「やめろぉおおおおお」
俺は必死になって俺の天ぷらうどんをかばった。
同時にベチャッという音がして、俺のパジャマが赤く染まる。
どうやらトマトケチャップがついてしまったらしい。と、鈴が、
「ごめん」
「その割にはそこまで申し訳なさそうに見えないのは何でだろうな」
「さあ」
「……何を企んでいるのかはしらないが、とりあえず着替えてくる。というか皆なんでこんなに着替えているんだ? ……まあいい、とりあえずは着替えてこよう」
嘆息しながら俺は、洗面所に向かう。
後で洗おうと思っていると、鈴が、
「そういえば新しいパジャマも、もらったけれどいらないって言われたから持ってきたよ。あげる」
「……用意周到すぎる気がする」
「ソンナコトナイヨー、早く食べよう」
後ろの方から聞こえるその声に俺は、絶対に何かあると確信めいたものを持ったのだった。
そしてその予感はあたっていた。
食事が終わった後俺は、鈴も含めた全員(サーシャは杖の精霊、ミィも連れて)に取り囲まれるように外に連れだされていた。
だが俺はまだ行き先を聞いていない。
「皆俺を何処に連れて行く気だ」
「着けばわかるから」
鈴がそういうのを聞きながら俺はミルルに聞くと、
「大丈夫です」
「いや、教えてくれ」
けれどミルルは答えないので今度はエイネに、
「何処に行く気だ」
「全部、タイキのためだから」
エイネも答えない。
なのでシルフに聞くと、
「……」
「どうして無言になるんだ」
だがそれにも答えないので、しかたがないので一番最後にサーシャに、
「サーシャ、俺を何処に連れて行く気だ。答えによっては、魔力なしだ」
「うにゃ! どうして私にはそんなに厳しいんですか!?」
「俺に余裕が無いからだ。それで、俺を何処に向かわせる気だ」
「それは……幽霊屋敷です」
俺はそれを聞いてすぐに逃げ出そうとしたが、鈴に手を握られてしまう。
「大丈夫、幽霊に慣れれば幽霊恐怖症は治るわよぅ~。この歳になって幽霊が怖いっていうのも問題あるし」
「だ、誰にだって苦手なものの1つや2つある!」
「それに結構いいものがあるらしいよ? 幽霊って魔力の塊のようだし」
「幽霊ならここにいるサーシャで十分だ」
「あと、幽霊屋敷って、遺跡に似た環境だから何かを置いておくと変な効果がついてきたりするらしいよ」
「どうでもいい、俺は今すぐ家に帰るんだ!」
俺はそう必死になって抵抗したが、何故か女性陣の力は強くて逃げられない。
なんてことだと思っている内に俺達は幽霊屋敷の直ぐ側まで来て……。
「あれ?」
そこである人物がその屋敷に入っていくのを見かけたのだった。