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人目につかないで入り口

 朝食を食べた後、俺達は食後の珈琲を飲んでいた。

 シルフは砂糖とミルクを入れないと飲めないらしい。

 さて、その辺りの話は良いとして。


「まずは何処から話そうか。時系列順の方が良いか」


 そう呟いて俺は、まず、マーヤと一緒に異世界の侵略者に遭遇した話をする。

 偶然遭遇してしまって、結果的に赤い球を返したという話にしておく。

 その過程でマーヤが何をしたかは……ぼかした。


 話すとそれはそれで、俺は見ていなくとも疑惑の目を向けられるのは確実のような気がするのだから。

 だがよく女の勘は鋭いというが、今回も女性陣は鋭かったらしく、まず鈴が、


「それで、タイキ、どんな戦闘をしたの?」

「……マーヤが頑張ったんだ」

「へ~、タイキは見ていただけ?」


 鈴が楽しそうに聞いてくるが俺としては何処が楽しいのか全く分からなかった。

 むしろ、冷や汗しか出てこない。

 ここで俺が見ていたといったとしよう。


 それで見ていたとなるとそのマーヤとの戦闘をすべて見ていたことになる。

 つまり、マーヤが少しずつ敵の女性の服を溶かして……。

 言えない、絶対に言えない。


 だがここで見ていなかったといった場合どうだろう?

 マーヤを放置して、俺は攻撃すらもせずに見ていただけ、ということになる。

 つまりマーヤが戦って倒したというのに、俺は赤い球を渡したことになる。


 その一方でマーヤが負けそうだから、赤い球を渡して引いてもらったということに。

 いや、マーヤが事の顛末を次にであった時に鈴やミルル達に話すかもしれない。

 そうなった時に、どうなるのか?


 悪夢のような想像が俺の中を駆け巡る。

 そしてそんな目に合うくらいなら今のうちに正直に話しておいたほうがマシだと思った。

 だから俺はまず初めにこれだけ言っておく。


「俺は、見ていなかったから」

「何を?」


 鈴が聞き返してくる。

 ミルルたちも今の発言で逆に興味を持ったらしく俺の方を見てくる。

 しかもサーシャもふわふわと浮かびながら俺の方を見てくる。


 もうどうにでもなれ! と俺は思った。

 思って全部そのまま正直に話した。

 話してからもう一度、俺の名誉のために、


「俺は見ていないからな!」

「えー、うーん、ふーむ……つまらないのう」

「面白がらせるためにそんな行動をしたわけじゃない! はあ……」


 とりあえずは特に何も言われなかったので、俺は安堵する。

 そこでミルルが、


「それでタイキは上着を着ていなかったのですね」

「ああ。流石にそのままで放置はできなかったし」

「一応は敵なのですが……もう少し私は、タイキに自分を大事にして欲しいと思いますが、そういった優しい所は気に入っています」

「あ、ありがとう」


 ミルルはにこりと微笑むので俺も微笑んだ。

 どうやら、マーヤが服を溶かしていったというエロ展開……ではなくフェミニズム溢れる展開は分かってもらえたらしい。

 良かったと安堵するとそこでシルフが、


「そのエロ展開は置いておくとして、その赤い球は……どうなったのですか?」

「あー、その後、リズさんの家に行ったら、魔王の方ですでに複製できているらしい」

「……そうなのですか。では特に問題はありませんね」


 子供なのに、そんな風に言ってくるシルフ。

 背伸びしたい年頃なのかもしれない。

 そう考えていると、ここに来たばかりのエイネが、


「うーん、何だかすごい事になっていたのね」

「はい、もしもここから出て行きたいようでしたら……」

「……ここの部屋、防音性能がとてもいいのよね」

「……え?」

「昨日は最高でした。そして易いのでできればここにいたいわ」


 エイネがそう言ってぺろりと舌を出す。

 可愛い仕草ではあるが、そんな理由で良いのかなと俺は思わなくはなかった。

 けれど本人がいいと言っているので良いのだろう。


 そもそも彼女は遺跡に一人で潜れるほどの魔族であり実力者なのだ。

 日常生活が、彼女のポリシーで色々駄目なことになっているだけで。

 そう俺が思っているとそこで、


「サーシャ、ごはん」

「あー、ミィにもデザートをもらえますか? この子デザートが大好きなので」


 それにエイネが、自家製パンナコッタをとりに冷蔵庫に向かう。

 杖の妖精な猫のミィは嬉しそうだった。

 そんなミィとサーシャを見ながら俺は、チルド伯爵の伝言を伝えることにする。


「サーシャの体がこれから一週間後に来るそうだ」

「え~またですか? また延長ですか?」

「今回は本当に戻れるのでは?」

「う~、でも戻ればこの眼の前にあるような美味しいものが食べられるのですね、ようやく」

「元に戻ったら、戻ったパーティをしよう」

「わ~、うれしいです~、でもそうなったらもうタイキ達と一緒にいられないんですかね?」


 ポツリと寂しそうにサーシャが呟く。

 確かにそれは俺も思ったけれど、


「いつまで俺に寄生されていても困るしな」

「! 私、そんなにご迷惑でしたか!」

「……いや、そういうわけじゃないが」

「今間がありましたよね!?」

「そもそも俺は異世界の人間なんだから、いつまでもこの世界に居られないぞ? そうなったら魔力はどうする気だ?」

「う、それは……」

「今、サーシャ自身あまり分かっていないようだが、危険な状態だからな? 俺自身がここの屋敷に来なかったらどうなっていた事か」

「……どうしよう、反論できない」

「そこはそういう問題じゃないだろう?」


 嘆息する俺に、サーシャが黙ってしまう。

 ちょっときつく言い過ぎた気もしたが、今回ばかりは仕方がない。

 そう思っているとふよふよと先程からパンナコッタを食べていた、サーシャの杖の妖精のミィが俺の側にまで飛んできて、


「元はといえば私が家出をしたのも悪かったし、サーシャは悪く無い」

「ミィ」

「でも、食べ物だけはきちんとするように!」

「うにゃにゃにゃ!」


 サーシャの頬をミィが引っ張って、サーシャが慌てている。

 この二人を見ているとどちらが主なのかが分からない。

 そう思って俺は、ほのぼのと見ていた。


 そんなふうに俺は油断していたのがいけなかったのかもしれない。

 ミルルが鈴の方を見て、


「そういえば鈴は何処でタイキにあったのですか?」

「私? 私はランニングをしていた時に幽霊屋敷の前で怯えているタイキにあったから、美味しそうなものを持っていたしついてきたの」

「タイキはお化けがそんなに怖いのですか?」


 不思議そうにミルルに言われて俺は、


「べ、別に怖くないし」


 そう答えると沈黙してしまうミルル。

 もうこれ以上幽霊関係の話はやめてくれと俺が思っているとそこでミルルが、


「確か人目を避けるような場所に、その異世界と繋がる扉のようなものがあるのでしたね」

「そうなるな。探しても見つからないこの街周辺の場所であるらしい」

「その、幽霊屋敷は人があまり来ない場所、に当てはまりませんか?」


 ミルルはそんな事を言い出した。

 そして俺はその話を聞かなかったことにして、


「き、今日は畑に野菜を見に行ってくる。この前は鳥などに食べられてしまったからな」

「あ、タイキ……」


 ミルルが何かを言おうとしたけれど俺は、それ以上聞くと幽霊屋敷に突入ということになりかねない気がしてその場から逃げ出したのだった。









 再び畑にやってきた俺は、またも大量に鳥に食べられたような痕跡を発見する。

 

「やはり、網のようなものが必要か。確か、大きめの簡易テントみたいなもので、網の部分に電気が走る道具があったようななかったような……でもいい値段だったからゲーム内で打ってしまった気がする。


 そう思って俺は調べてみるが、やはり持っていなかった。

 アレを作るには……ここん街周辺のゴミ山近くに向かう必要があったけれど。


「確か近くの遺跡には山賊みたいのが沢山いたんだよな。元奴隷がそういったものになっている……か」


 そういった話を以前聞いたなと思いながら、冒険者を大量に必要としている、という下りが気になる。

 本当に経済的な問題だけなのだろうか?


「……異世界の侵略者か」


 それが今後どれほどの規模になるのかはわからない。

 今は少しだけで済んでいるけれど……。

 そんなことを考えそうになって一回ため息を付いてから俺は、


「それより畑のことを優先しよう。材料のストックも今見たら無かったからその内に取りに行かないとな」


 こうして俺は、畑を後にし、幽霊屋敷には戻っても触れずに畑に必要なちょっとした道具を作って……その日は終わったのだった。

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