敵とは遭遇したのだが。
夜明けの道は、静まり返っていた。
まだみんな眠っているのかもしれない。
そう思いながらマーヤ(人型)の手を引き、歩いて行く。
途中ランニングをしている人とも遭遇したが特に何も言われなかったのは良かったと思う。
よくよく考えれば幼い女の子を連れて行く若い男、しかもひと目を避けるように朝方に……犯罪の匂いがしないでもない。
「やっぱり、ミルル達について来てもらった方が良かったかな」
「? どうして?」
「いや、俺一人だと不安というか、職務質問されそうだとか……」
どういえば良いのだろうと俺が考えこんでしまうとマーヤが、
「タイキは弱いの?」
「うーん、魔力的には女神様の加護があるから、この世界最強らしい」
「せかいさいきょう! これは勝負せざる負えない!」
「……勝負してどうするんだ」
「勝利して、私がこの世界最強になる!」
言い切ったマーヤを見ながら、なんだか昔の鈴みたいだなと俺は思いつつも、早速目を輝かせながら戦おうと間合いを取るマーヤを見ながら、
「そんなことをすると家に出入り禁止にするぞ~」
「……それは困る」
どうやら戦闘は諦めてくれたようだ。
しかしこの少女は一体、何を見てそんな相手を倒して世界最強などという、どこぞの少年漫画でも最近見なくなったようなネタを言い始めたのか。
気になったので試しに聞いてみると、
「最近人気の、“格闘人間”という子供に人気の絵本があるのです。女の子もそれを見て……冒険者を目指す子も多いのです」
「そ、そうなのか……へぇ。それでどんな話なんだ?」
「最強の冒険者を目指す、マーガリンは、親の敵のドラゴンを倒すためにより強い相手と戦い自身を強化していくのです」
「そうなのか」
「はい、その過程で今は、武闘大会編に入っているのですが……よくある展開とはいえ、武闘大会編は長いですね」
「お、おう」
俺はそれを聞きながら、昔そういった話が流行った時期があったような、いや、その前にもそういった流行があったらしいが……と俺が思っているとマーヤが、
「というわけで私も将来強くなって、リズよりも強くなるのです」
そんなマーヤを見ながらふと俺は、おしとやかな女の子というのは幻想なのかもしれないと思った。
さて、そのような話は置いておくとして……実はこのマーヤをリズさんの所に連れて帰るついでにもう一つ、話そうと思っていたことがあるのだ。
この拾った赤い球である。
実は昨日ちらりとそのことをリズさんに話すと、異世界からの侵略者の関係は、彼女の夫であるリドルさんの管轄であるらしい。
なのであまり触れたりは彼女はしないそうだ。
「今はゆっくり、普通の生活をしようって決めているから」
そうリズさんふんわり微笑まれてしまった。
年上の魅力に、一瞬傾倒しかかったが、どちらかと言うと妹萌えの方が強かったのでどうにか道を誤らずにすんだ。
だがその時やけに他の女性陣の視線が怖かった気がする。
しかもミルル達だけでなく鈴も、どことなく冷たい視線だった気がする。
やはり幼馴染のうどん脳とはいえ、何か感じる所があったのだろうか。
などと俺は考えていて、はたとこんなことを考えている場合じゃないと気づいた。
「そうそう、リズさんの所にマーヤを届けるついでに、リドルさんとお話をと思ったのだ」
「リドルさんに? そういえば夜遅くに帰ってきていましたね」
「ああ、この赤い球について、そちら側に話は通しておいたほうが良いと思って」
一応俺は、この世界に召喚されてこの世界の“味方”として存在しているから、話しておかないといけないと思ったのだ。
それに俺はこちらの世界で出会って、まだ短い間だけれど一緒にいるミルル達が気に入っている。
正確には一緒にいて楽しい。
「味方をする理由はそれでいいか」
今のところはそこまで嬉々的な状況ではないしと俺が思っているとそこで、マーヤに手を引かれた。
「どこに行く」
「いや、マーヤをリズさんの家に送り届ける予定ですが」
「……そちらは遠い。近道、こっち」
この辺りの地理には俺は疎いし、マーヤがそう言っているならと俺はついていき、後悔をする羽目になる。
まず、現在の状況について三行で説明しようと思う。
①マーヤに連れられ秘密の抜け道なる場所を通過(地獄)
②この赤い球の持ち主の女に遭遇
③俺が攻撃を仕掛ける前にマーヤが攻撃中←今ココ
「いやぁあああああっ」
そんな敵の女性の悲鳴を俺は聞きながら、困惑していた。
そもそも、どうしてこんな事になったのかというと、まず俺は、マーヤの秘密の道に誘われて、穴の空いた壁やら、塀の上やら、空き家やらを通らされた。
ここが一番近いのだというが、いい年というか大学生にもなって何でこんな場所を、とか、身長的にぎりぎり通れたから良かったものの……な目にあいつつ進んでいた。
やがて町外れの、草原と遠くに森が見えるような場所にやってきてしまったのだが、そこで、
「見つけたわ。返してもらおうかしら、この泥棒が」
「え?」
そこで怒ったような女の声が聞こえたかと思うと、魔法攻撃をされた。
とっさに、魔法的な防御を展開したは良いのだけれど、
「ふーん、なかなかやるじゃ無い」
「え、えっと、どちら様でしょうかって……あ、この前ぶつかった人か」
「……白々しい。わざと私を狙ったのでは?」
などと言ってくる彼女。
彼女にぶつかったのも偶然で、赤い球を拾ったのも偶然だったのだ。
そして再び俺に襲いかかろうとした彼女に、マーヤが今度は襲いかかった。
「リズに言われた。女性には怪我をさせてはいけないと」
「な、なにこれ、魔物? こんなの知らなっ、ちょ……」
焦る目の前の女性。
一応は美人の類にはいる彼女。
それが顔を赤くして喘いでいる。
どうやらマーヤは、女性に怪我をさせてはいけないので服を溶かすというフェチズム……ではなく、フェミニズム溢れる行為をリズさんに推奨されているらしい。
だがこう、この場合俺はどうすれば良いのか。
目の前にいるのは敵なので目が離せないのだが……がん見するのはどうかとは思う。
けれど自己の生命を守るためには敵の動向をしっかり観察している必要があるわけで、こう、喘ぎ声のようなものも聞こえる気がするけれど、そして胸は意外に大きいというか谷間もこう……太ももなども肉質感があり、ええ……。
「そこ、こっちを見るな!」
「はい!」
怒鳴りつけられた俺は、慌ててその女性から顔を背けたのだった。
明日はお休みします。