女神様の事情もあるのか
拾ってしまったあの赤い球について話すと、皆が皆黙ってしまった。
今後の指針について、女神様に俺は聞いてみることにする。
「これからどうしましょうか」
「あら、タイキの好きなようにしていいわよ?」
「……それって全てを丸投げというのでは」
「ん? 私にお手伝いして欲しいの? 対価はタイキの体で支払ってくれれば良くてよ?」
やけに楽しそうにセクハラを開始した女神様。
そろそろ俺を弄んで話を誤魔化そうとするくせはやめたほうが良いのでは通れが思っていると、そこで女神様は肩をすくめて、
「ちょっとあっちの世界の神様とは接触したくないのよ。できるだけ直接の殴り合いは避けたかったから。だからそれとはあまり関係のない間接的な所でのお手伝いなら良いのだけれど、直接はね。お互いの怪我を含めたリスクを考えると……末端での小競り合いで現状では止めたいのよ」
「その末端の小競り合いが、俺ですか?」
「いえ、リズの夫であるリドルの方。タイキにはもう少し違った役割を期待しているかしら」
「どんな、ですか?」
「……違うルートでの異世界との接触。でも最終的に、リドル達と同じような道を辿り、最終的にそれが、リドル達で抑えられなくなったのなら……私も覚悟を決めないとね」
その時、女神様の表情は真剣で、深刻そうだった。
いつもと違う様子に俺は驚きながら、けれど、どこかでその雰囲気的なものだけれど、誰かに似ている気がした。
誰だろうと思っているとそこで女神様は楽しそうに笑い、
「けれどすでに私達あちらとの戦いには勝利しているのよね。だって、魔族に人間は勝利しているし」
「あ……そういえば数百年前に戦っていたらしいですね」
「そうそう。そして随分と人間と同化してしまっているのよね。魔族のいる世界が同じような世界でよかったわね」
女神様の話を聞きながら、確かにあの怪物たちを倒した後の素材が使えるのも、あちらとこちらの世界が似ているからだろう。
けれど世界というものはそんなに似るものなのだろうか? といった疑問を持ったが、この世界が俺のやっていたゲームの世界に似ているのを考えると、野暮なツッコミに思えた。
けれど今の話を聞くと、
「結局女神様は、そこまで介入は出来ないと」
「いえ、実は結構介入できるわよ」
「……え?」
「つまり、ルールの隙間を縫う簡単なお仕事よ。私の仕事は。そのルールだって“妥協”の産物だしね」
楽しそうにコロコロ笑う女神様を見ながら、そうですか、抜け穴が沢山有るのですかと俺が突っ込みたい衝動に俺はかられていると、
「そろそろ私も本当に眠るわ。じゃあまた明日~」
そう一方的に言うと女神様は去っていったのだった。
色々すごい話を聞いたなと俺が思ってそこで気づく。
「あの赤い球の対策が全く話し合われていない」
いつものようにまた誤魔化されたという疑惑が俺の中で出て来るけれど、かと言って女神様が出てきて答えてくれるとも思わなかったので、しかたがないので考えることにした。
「これをどうするかだな」
「そのうち奪いに来るという事ですか?」
「そもそも俺が持っているか気づかれているかどうか」
ミルルに聞かれたのでそう応える俺。
その赤い球を俺が持っているとどうして分かるのだろうか?
だが以前の偽怪盗の件でサーシャのアレを追いかけてきたから……。
「間違って再びサーシャを追いかけに来る、か」
「なんですと!」
サーシャがそんな声を上げるのを聞きながら俺は、
「この前はサーシャ自体にその魔法が写し取られてしまった状態だろう? もしも似たような魔力の傾向があるのなら、それを追て再び俺達の方にやってくる可能性もあるのか」
「また彼らとの戦いに」
「ああ。しかも俺がこの赤い球を持っているというおまけ付き……待てよ?」
そこで俺はあることに気づいた。
この前の戦闘で、彼らには気づかれなかった方法が一つある。
それはこの異次元に繋がっていると思うかのような腰につけている箱の中。
その中に入れてしまえば、彼らには気づかれない。つまり、
「サーシャも箱詰めにするか」
「!?」
「どうやら、この……箱のなかだと、あいつらには気づかれないようなんだ」
俺は言いながら腰についた箱を取り、机の上に置いた。
まずはこの厄介な赤い球を入れてと俺がそこに入れていると、サーシャが宙を浮かびながらふよふよと近づいてきて、
「あの……私、箱の中に監禁されてしまうのでしょうか?」
「……とりあえず、眠っている間は襲撃されても困るから、箱の中に隠れているってことでどうだろう?」
「それなら良いです。でもあの異世界の人達も、この前はよくここに辿りつけましたね。この街も結構広いのに。何だか偶然と言うにはタイキの周りでは色々なことが多すぎる気がします」
「偶然は偶然だけれど、似たようなことが沢山起きるなら、何か“理由”があって起っている可能性が高いんだよな。……女神様が何かをしているか」
「ありそうですね、女神様は万能ですから」
そう言われて俺がスマホを見ると、お休み中になっている。
万能な女神様も眠るらしい。
とはいうものの本当に万能ならば俺や鈴がこちらの世界に来る必要が無い。
でも今は言う必要が無い。
だって丁度夕食ができたらしいのだから。
「はー、今日は特製かぼちゃのシチューと、“丸飲みチキン”の香草焼きに、温野菜サラダです」
リズさん達が作ってきてくれた料理はどれも美味しそうだった。
デザートまであるのが最高だった。
そこで食事の用意を手伝っていたエイネが俺に近づいてきて、
「異世界人と戦うために、召喚された方なんですか? タイキって」
「多分そうなんじゃないのか? 微妙に言い回しは違うけれど。それと鈴もそうだぞ」
「そうなのですか。ふむ」
「よくよく考えたなら結構危険な状況だからもしここから出たくなったら……」
「いえ、敵が襲ってきたら全力で歌えばいいですよね」
「……」
エイネは楽しそうではある。
歌えるのが嬉しいのかもしれないが、それってどうなんだろうと俺は思うが。
その日食べたリズさんの食事は美味しかった。
そして、サーシャは意外にその箱の中が寝心地が良いらしい。
これで気配が消えたはずなので安心して眠れると思う。
そう思ってベッドに向かうと、エイネが丁度部屋から出てきて、
「睡眠に一曲いかがですか」
「いいのか?」
「良いですよ、一回くらいはサービスです」
今後はお金を取る気らしい。
とは言え眠りやすいのは良いよなと思って頼んでみたが、
「ぜ、全然効かない」
「全然てことはないが完全じゃないな」
「く、ここで私は新たな段階に向かう必要があるようね」
何故かあまり効かなかったがために、エイネのやる気を出させてしまったことを付け加える。