擬似デートの約束を
またも幽霊について聞かされた俺は、顔から血の気が引くような感じになってしまう。
幽霊なんて存在しないし、科学的な証明のような意味でなかったはずなのだ。
けれど女神様の今の話ではいるような……いやいやいやいや。
「幽霊なんて俺達の世界にはいませんよ」
「それがね~、最新の研究結果でそれらしいものが“ある”らしいのよ。鈴は知っているわよ」
「聞いていませんよ! 何だそれ!」
俺は焦って鈴にその答えを聞くべく顔を向けると……鈴がにまぁと笑い、
「そうなんだよね。タイキはまだ知らないんだ」
「いやいやいやいや、何の話だよ」
「ん~、新しいエネルギーの発見? まだ私達の世界ではほんの少ししかなくて使えないらしいんだけれどね」
「……まるで幽霊とかがその新しいエネルギーみたいじゃないか」
「そう思ってもらっても構わないと思うよ。これからきっと幽霊や精霊狩りも加速するんだろうな~」
「……よく分からないが何だか脱力した」
怖いと思っていたものがただのエネルギーのようなもので、そう考えると全く怖くない気がした。
だがそこで更に鈴が、
「でもこれからもタイキが、時々幽霊にとりつかれるのはあるだろうなと思うけれど」
「! だから幽霊なんて存在しない……あー、なるほど」
「まあ取り憑かれたらいつでも、頭を叩いて追い出してあげるから安心しなよ」
「頭が悪くなりそうだから嫌だ」
「じゃあ毎日私の手作りうどんを食べるのが良いと思うの」
「うどんは関係ないんじゃ……」
「気休めな願掛け?」
「……それって役に立つのか?」
「さあ、私のうどんを食べた日には、墓場に肝試しに行っても何もなかったでしょう?」
確かに鈴のうどんを食べた後に肝試しに行かさせられたが、特に何もなかった。
だが家が隣同士の幼馴染ということもあり、趣味のうどんを延々と食べさせられる鈴の実験台、つまりモルモットになっていたのでそれがたまたまそうだっただけの気もする。
そもそもいつも何だか変な感じになることなんてなかったし、と俺は思った。
そこまで考えた俺は、ある事に気づく。
「だいたい、なんだよ、その新しいエネルギーとか……胡散臭すぎるだろう。最近連日、新聞を賑わせているのは“人工知能戦争”の話ばかりだし。そんな話聞いたことがない」
「え? 私を疑うの?」
「……今まで鈴の冗談を真に受けて、何度ひどい目にあったことか」
「信用ないな~、ともあれまだ一般的な話じゃないから、仕方がないかもね。それで、まだ幽霊の話を続ける?」
そう鈴に言われて、俺はもうそろそろ止めたかったので止めることに。
新しいエネルギーウンタラカンタラはどうでもいい。
それよりも今はもう少し他に話すことが、と思って、
「そうだ、“原初の魔族”だったことが、マーヤについては判明した」
それに反応したのは、俺の目の前にいるミルルとシルフ、料理のお手伝いをしているエイネだった。
ミルルが真剣な表情で、
「つまりそこにいるマーヤは、新しい魔族という事になるのですね」
「そうなのか? 俺にはよく分からないが……」
「はい、特に始まりの魔族は強い魔力を持っていますので、魔法も強いものが使えると聞いています」
「そうなのか……でもだとすると、魔王の城で暮らしたほうが良いのでは?」
まだ魔力の使い方も含めてあまり知らないのであれば、あちらで教育してもらえば魔族流の教育が受けられるのではと俺は思ったのだけれどそこでマーヤが無表情にじっと俺を見た。
まるで何かを訴えかけるようなその視線に俺は、小さくうめいてしまうがそこでマーヤがはっきりと、
「私はリズの家にいたい」
「あ、はい、そうか……うん、良いんじゃないか?」
そう言ったまま黙るマーヤを見て、どうやらこう見えてリズには好意を寄せているようだ。
一応は文字の勉強……マーヤは勉強が嫌で逃げてきたようだが、気に入ってはいるようだ。
その点に関しては良かったと俺は思う。
いい人に拾われたと。
でも何かこの前問題発言がリズさん達にもあった気がしたが、なんだっけと俺が思っているとそこで、
「嬉しいことを言ってくれるわね。よし、明日から私も頑張るわね!」
「……ここのうちの子になる」
リズさんが張り切ったらどうしてか俺の家の子になると言い出した。
そんなに勉強が嫌なのかと俺は思いながら、
「逃げたくなったらいつでも来ていいから、帰るんだ」
「……分かった」
どこかふてくされたようなマーヤだが、とりあえずは納得したらしい。
どうやら我が家の住人が更に増えることはなくなったようだが、時々マーヤは逃げてくるのかもしれないなと俺は思った。
ただ逃げ道をふさがれると人間、大変な事になるのでこれでいいのだろうと俺は思う。
さて、そろそろ何か料理ができそうだと思いながら俺は、
「魔王の城でのおみやげのケーキは、本日のデザートで」
「わー、きっと美味しいのでしょうね」
嬉しそうなミルル、そして机の上におかれた箱を興味深そうに見ているシルフを見ながら、そういえば何かを忘れているようなと思い……思い出した。
「そういえば、魔王城の近くの遺跡に女神様となにかいいものがないか見に行ってきたが、シルフとミルルの姉が婚約者と一緒に戦っていて、遭遇したんだ」
「姉さんに!」
「そのうち会いに来るらしいぞ」
「そうですか……そうですか」
と言いながら俺をチラチラ見てくるミルル。
シルフはどことなく機嫌が悪そうではあるけれどそこで意を決したかのようなミルルが、
「あ、あの、タイキ、実はそのお願いがあって」
「? なんだ?」
「そ、その私と……デートの練習をしてもらえないでしょうか」
「そういえばミルルは恋人探しをしているんだったか。いいよ」
と俺は答えつつ、やっぱり俺はそんなポジションなんだなと悲しくなった。
でも擬似的でもデートはしてみたいと俺は思った。
この異世界でそういった女の子とのイベントは、とても珍しい気がするから。
ミルルは美人だし。
それにどことなく幸せそうなミルルがなんとなく嬉しいような気もと俺が思っていると、無言で半眼で見つめるシルフと目が合う。
何故そんな目で俺を見るんだと俺が言い返そうとするとそこでミルルに、
「そもそもどうして魔王城の城に?」
「ああ、たまたま今日ぶつかった人間が異世界の人間で、彼女が落とした赤い球……サーシャが美味しそうじゃなさそうだと言っていた石を拾ってしまったんだ」
俺がそう答えたのだった。