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この世界の幽霊事情

 玄関の扉が開かれると同時に姿を表したのは……鈴達だった。

 

「ただいま~! 新鮮とれたて野菜が手に入ったよ! ……あれ、タイキ、戻ってきていたんだ」

「ああ、魔王ロリィに連れて行かれて、魔王城に行っていた」

「え? 魔王の城? ……空間転移魔法だっけ」

「それで行ったな」

「でも何で魔王の城なんかに? 私の天むすを置いて行くなんて……酷い(笑)」

「悪かったよ。ちょっと変なものを拾ってしまったんだ。それとマーヤの正体が“原初の魔族”であるらしくてそれでちょっと話を聞いていたんだ」

「「“原初の魔族”!」」


 その俺の説明に声をハモらせて驚いたように叫んだのは、ミルルとエイネだった。

 そしてその大きな声に引き寄せられるように、近くの部屋のドアが開いて、


「お姉様、何事ですか……ふあぁあ、むにゃ」


 どうやら昼寝をしていたらしいシルフがその開いたドアから現れる。

 だがその部屋はサーシャの部屋だったので、遊んでいる内に眠ってしまったのだろう。

 そこでシルフが俺に気づいて、


「戻ってきたのですか、良かったです」

「あ、ああ……そうか」


 そっぽを向きながらシルフがどこか照れたように俺に言う。

 いつもはそこまで快く思われていないようだったけれど、気にはかけてもらえているようだ。

 そんな俺を見ていたシルフがムッとしたように、


「……どうしてそんなに嬉しそうなのですか」

「いや、心配してくれていたんだなと思って」

「……それはまあ……その……仲間だし……」


 小さくぼそぼそとした声でシルフが言うので俺はよく聞こえなかった。

 ただ好意を寄せられているのは確かなので、それはそれで俺も嬉しい。

 そこでシルフが、


「そ、そもそもタイキが逃げ出したのを見てやり過ぎたかなって思って、皆で後をつけていったのに、うどん屋で急にいなくなるから……」

「皆で追いかけてきたのか? 俺の後を複数人で?」

「そうですけど。というか、皆って行ったら複数人に決まっている」


 半眼で俺を見てくるシルフ。

 だが今の話を聞いた範囲では、先ほど畑で俺の後ろをじっと見つめていたマーヤが、後ろに誰かいる、しかも複数人と言っていたのはつまり、


「マーヤ、畑で俺の後をつけたミルル達が見えたのか?」

「うん。でもタイキが見ると隠れていたから、タイキには見えなかったかもしれない」

「……そこまで説明してくれ」


 俺は脱力しながら、お化けに怯えてしまった顔の苦い思い出に心のなかで泣いた。

 しかもそんな俺にマーヤが無表情に、


「タイキ、幽霊が苦手」

「……そうだよ、俺は幽霊が苦手なんだ」

「え?」


 そこで不安そうに声を上げたのはサーシャだった。

 確かにサーシャは幽霊だったのだけれど、そこまでは幽霊という感じではない。

 なのでおれは、


「サーシャはその、幽霊という感じがしないからまだ大丈夫……だと思う」

「でも私幽霊ですよ~、うらめしや~」


 などとやってくるサーシャに俺は、この幽霊はそうそうに見捨てるべきなのかもしれないと思った。

 その気配を感じ取ったらしサーシャがむっして何かを言おうとした時に、


「でもサーシャ、実は貴方って本当の幽霊ではないのよね」


 俺のポケットに入れておいたスマホが小さく揺れて、ニュと女神様が出てきた。

 おやすみモードになっていたはずなのに目をさましてしまったようだ。

 相変わらずの女神様はそのままふよふよと宙に浮かんで、俺の頭にその豊満なバストを乗せながら、


「あら、タイキが全く反応しないわ。乗せるのは駄目みたいね」

「……そうしてください。頭が重いだけです」

「だったら後ろから抱きつきながら説明してあげましょうか?」

「……それで、サーシャが幽霊でないというのは?」


 俺は話を変えようと、そう女神様に話を促すと、


「仕方がないわ、また今度にしてあげるわ。夕食前のようですものね」


 夕食前がどうしたとう言うのか、そう俺が思っていると先程から黙っていたリズさんが、


「では私はもう夕食を作りますね。今日は夫は諸事情でうちに帰れませんしね」

「……それは異界の人関係ですか?」

「もちろん」


 そのリズさんの答えを聞きつつ、それはひょっとしてこの赤い球の持ち主なのではと思いながらも口には出さず、


「よろしくお願いします」


 リズさんにそう俺はお願いしたのだった。







 因みに離れたといっても台所が近いので、俺達の会話は全部聞こえるらしい。

 そんなリズさん新しい同居人のセイレーンのエイネと一緒に作るらしい。

 そして俺達は、席についていてねと言われたので席につくことに。


 だが俺としては移動する間も胸を頭の上に乗せてくるのはどうだろうと女神様に対して思った。

 口に出すと藪蛇になりそうだったので俺は口には出さなかったが。

 そんな俺に女神様が、


「それでサーシャが幽霊でないという理由、はね。実はこの世界の幽霊は魔力そのものが、生前の記憶を拾い具現化する……タイキと遊びで潜った魔王城の近くの遺跡にいたお化けこそが“本当の”幽霊なのよ」

「あれが……幽霊」

「そう、会話もできず、写しただけの存在。そう説明すれば、サーシャがどれだけ“異常”か分かるかしら」

「確かにサーシャはそう考えると幽霊とはいえないような……」

「そう、でも幽霊がその体の基本構造なのは確かなのよ。人格と記憶の一部をほぼコピーしているわけだしね」

「? でも幽霊ではないのですよね?」

「ええ。幽霊と精霊の混ざりものといった所かしら。実体化と、記憶の保持と記憶を使い思考出来るようにするためにこのような形態をとっている、そんな状態ね」

「……精霊?」

「ではないわね。まだ幽霊に近いわ。この前遺跡で重力の魔法があまり効かなかったのもサーシャの魔力が“弱い”からよ」


 そういえばこの前の戦闘で、一番自由に動けたのはサーシャだった。

 次に動けたのは俺の生み出した人造精霊だったが。

 俺が生み出したものだから精霊といってもやや魔力が弱いがために、影響は少なかったのだろう。


 そこで女神様が楽しそうな声で、


「そう、魔力が強ければ強いほどこの世界の法則で……地面に引き寄せられたりするわ」

「つまり宙に浮かんでいないものが精霊ということに?」

「いえ、空をとべる精霊もいるわね」


 そろそろわけがわからなくなってきた俺だがそこでミルルが手を上げて、


「あの、そうなると昔話に出てくる会話のできる幽霊は全て、精霊もしくは精霊になりかけということでしょうか」

「そうね。精霊と言っていいもののほうが多いかもしれないわ、昔話には。超常的な力を得たり、何かをもらったり、逆にひどい目に合わされたり……そんなことが出来るのは精霊か人間の仕業でしょうね」

「なるほど、ありがとうございます」


 ミルルは知らない話を聞いたらしく頷くとそこで女神様が、


「どういたしまして。他には……そうね、折角だから注意をしておくわね、サーシャ」

「は、はい、何でしょう」

「記憶を維持するのにも魔力がいるから、涙を流して“幽霊のしずく”を作ったり、魔力を使うような行動はあまりしないように。でないと元に戻る時に幽霊の時の記憶が保持できなくて忘れてしまうわ」

「え?」

「因みによく幽霊が成仏したという話があるけれど、よく“幽霊のしずく”が手に入る時に起こるでしょう? それはそのアイテムを作るのにその記憶のコピーである魔力がそちらに変換されたからなの」


 それを聞きながら結局はただの魔力の現象なのか、そんな幽霊は怖くないと俺が思っているとそこで女神様が、


「そうそう、タイキの世界の幽霊はこの世界の精霊と同じような物で、時々とりつくわね」


 楽しそうに付け加えて俺は、頭痛がしたのだった。 

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