いつもの家に戻ってきました
逃走して急いで俺は元のロリィがいる部屋を目指す。
確か階段を幾つか上がって、そしてその廊下を右に行き、次に左に行ってペンギンのような木彫りの像のそばを通りすぎて、
「よし、この表札の出ている部屋だ。えっと、タイキです、今戻りました」
そう声をかけてから俺は、部屋の扉を開ける。
すると中にいる三人、つまりロリィとマーヤといつの間にか先にこの部屋に戻ってきたらしい女神様が俺を出迎えた。
しかも三人揃って、
「「「おかえり~」」」
「……女神様はどうして俺よりも先にこの部屋に?」
「それはこう、タイキを驚かせようと思って」
悪びれもせずにそう告げた女神様。
しかも足を組んだまま中に浮かんで髪を片手でかきあげている。
余裕めいたその様子に、やっぱりこの人? 女神様は俺を弄んでいる気がして苦手だと思った。
もうちょっと思わせぶりなエロ台詞を言わないで欲しいと思う。
それこそ幼馴染の鈴のような。
もう少し女性は恥じらいを持つべきというか、持って欲しい。
けれど現実はこれである。
そんなある種の嘆きを俺は覚えているとそこでロリィが、
「そういえば、女神様はタイキとどうして一緒にこちらに戻って来られなかったのですか?」
「うーん、ちょっと、えっちな意味でからかったら、初心なタイキが逃げてしまったの」
「……なるほど」
そこで魔王ロリィにまで納得されてしまった。
俺の立場は……そう思っているとそこで、ロリィが俺に、
「結局どこの遺跡に行ったのだ?」
「お得な遺跡でしょうか。白い霧状の物がふわふわと漂う遺跡で……」
「なるほど。この都市では通称“白い幽霊の洞窟”と呼ばれ、よく肝試しに若いカップルが向かうそこそこ安全な方の遺跡だが……ん?」
「……」
そこで魔王ロリィが沈黙して俺をまじまじと見る。
普段であればもう少し隠せるのだが、突然、幽霊という名を聞いて俺はビクッと反応をしてしまう。
それを気づかれてしまったようだが、そこで、女神様が、
「タイキは“幽霊”がとっても怖いのよね?」
「べ、別にそういうわけでは……」
俺はそう口ごもってしまうと、女神様は珍しく優しげなほほ笑みを浮かべて、
「そうよね、タイキは昔から、とっても幽霊が苦手だったわよね」
「苦手なのであまり話さないでください。そういえば……この世界に幽霊がいるから、俺、死んだら幽霊になったりするのか?」
「あら、タイキはこの世界では死なないわよ。良かったわね、幽霊の仲間入りをしないですむわ」
「……幽霊の話は、あまり話さないでください。切実に」
「ふふ、まあ、今日はこの辺でやめてあげるわ。それにそろそろ結果も聞きたいでしょう?」
そう女神様に言われる。
俺としてはようやく幽霊の話が終わったと安堵しつつ、ただ……今の女神様の言葉で引っかかる部分があった気がしたが、そこで魔王ロリィが話しだしてしまった為に俺の意識はそれてしまう。
だがその違和感の正体については、後に知ることになるのだが。
と、そこでロリィが俺に拾った赤い球状のものを俺に返してきた。
「ありがとう、参考にさせてもらった」
「そうですか。何か分かりましたか?」
「ふむ、とりあえずは少し時間が掛かるが、同じものは作れそうではある」
「あー、そうなのですか。それでこの赤い玉は一体?」
「ふむ。我々魔族が、りばーえんじん?」
「リバースエンジニアリングですか?」
「ふむ、それにより調べた所どうやら、条件によってはこれで、異界と行き来できるようだ」
「え?」
「それも我々の世界とな。つまり、これを持った相手は、この世界の“敵”だ」
たまたま遭遇した女性だが、彼女が敵と言われて俺は戸惑ってしまう。
しかもそうなってくるとこの赤い球は、
「これを俺が持っているのはどうなんでしょうか」
「必死になって取り返しに来るのでは? まあ、色々我々の方も分かってよかったがのう? 文明レベルも」
「? そうなのですか?」
「妾達がいた時代からそこまで文明は進んで……正確には今の文明水準がほぼ同じ程度。これならば同じものも量産できそうだ」
そう言って黒く笑う魔王を見てしまった。
こういったところは魔王らしいなと思っているとそこで、
「複製できたらまた連絡する。後はそこにいるマーヤだが、どうする? 我々の城で一緒に暮らすか? “原初の魔族”であれば 高待遇で受け入れるが」
「……リズの家に戻る」
「そうか、だがいつでもこちらに来たければ妾に連絡してくれれば迎えに行く。ああ、連絡はこの透明な球を渡しておくから、これに呼びかけてくれれば迎えに行く」
「ありがとうございます」
マーヤが無表情に頷き、その球状のものを受取る。
見ている文には小さな水晶球のように見える。
それを受け取った所で女神様が、
「そろそろ帰りましょう。ミルル達がいい加減心配しているわよ?」
「う……それは……」
確かに心配しているかもしれないと俺は思う。
窓を見るとやや夕日が沈みかかっている。
逃げ出したのが午前中だとすると、そこそこ長いをしてしまったようだ。
そんな俺達に魔王ロリィが、
「では、ミルル達におみやげのケーキを用意させよう。日持ちする焼き菓子のほうが良いかな?」
「確かに……朝、ケーキを頂いたのでその方が助かります」
「ふむ、では用意させよう。少し待っておれ」
魔王ロリィがそばにあった鐘のようなものを鳴らすと、生の? うさ耳メイドが現れてロリィと話しているのを見ながら俺は、
「それに戻ったらミルルのお姉さん達にあった話をしよう。その家に来るみたいなことも言っていたし」
「そうね。ふふふ、私も負けなくってよ」
「? 何をですか?」
「なにかしら、ね」
女神様は一人で楽しそうだった。
そして俺は、なにかまたあるのだろうかと戦々恐々としつつ、それからロリィにおみやげをもらい、家に帰されたのだった。
突然現れた俺達にミルルが驚いたようだった。
俺達が転送されたのは、俺達の住んでいる部屋、その玄関に繋がるリビングだった。
現れた俺に、ミルルが抱きついてきて、
「心配しました。すみません、冗談のつもりだったのですが……」
「あー、えっとごめん。実は魔王ロリィとちょっと話をしていたんだ。おみやげのケーキもあるからそれを食べながら……いや、先にマーヤだけをリズさん帰さないと。こんな夕暮れ時になっているし」
「あ、リズさんならさっき、ここにいればマーヤにも会えそうだから待たせてもらうと言ってここにいたのですが、ついでに夕食を作ってくれるそうで、今、シルフや鈴、エイネと一緒に買い出しに行っています」
「……鋭すぎるな。リズさん」
「鈴もそうなりそうだよね、と笑っていました」
「……でもこうなったら皆が戻ってきた後でまとめて話せばいいか」
そう言いながらそういえば女神様はどこだと思って周りを見回すと、先程まで楽しそうに俺の側で話していた女神様はいなくなっていた。
そして、試しに女神様が何故か出てくるスマホを見ると、“お休み中”の文字が。
相変わらずこの女神様は自由だなと思いつつ、俺達は皆の帰りを待っていると、幽霊のサーシャが、ペットの杖の猫精霊ミィを連れて現れた。
そのサーシャは俺に気づくと、
「ん? タイキが戻ってるぅ! ……でもなんか変な感じがする?」
「もしかしてこれか?」
試しにあの赤い球を見せるとサーシャは眉を寄せて、
「……美味しくなさそう」
そう一言呟く。
そこで、玄関の扉が開かれたのだった。
これから完結まで頑張ります。よろしくお願いします。