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でも悔しい、ビクンビクン

 魅力的な女性に弄ばれた俺は精根尽き果てて、傍の椅子に座る。

 そこでカウンター越しに鈴が、


「それで、タイキはこれからどうするの?」

「そうだな……まずは錬金術師用の部屋、機材もセットになった所を借りて、後は薬草を育てるための畑も借りないといけないな」

「あれ? まず冒険に出かけるんじゃないの?」

「……寝泊まりする所は欲しいからその手続きだけはしておこうと思って」

「あー、この町を拠点にするつもりなんだ」


 鈴に言われて今更ながら、俺は他の都市に居を構えても良いんだよなと気付いた。

 一応そこそこ大きいこの町だが、それでも都市と比較すれば小さく、設備や手に入る情報も少ないだろう。

 けれど逆に都市に行けば、俺が異世界から来たとばれて……知識をはかさせられたりといった、エロくない意味でのR18になるかもしれない。

 正直俺は、エロい意味でのR18にしか興味がないので、あまり近づかない方が良いだろうと思うのだ。

 ついでに付け加えるなら、女神様がチートをくれる程度の寵愛? を受けている状態の俺が権力闘争のようなものに巻き込まれてどうこうするのも嫌なのだ。

 出来るだけ目立たず普通に生きたいと願う程度に、俺は大人しい人物なのだ。


 それにあまりにも普通な行動しかしなければ女神様が飽きて元の世界に俺を戻してくれるかもしれないし。

 そんな計算をしている俺に鈴が、


「それよりもさ、お店に来たんだから料理を注文してよ」

「……それもそうだな、何だかお腹も減ったし。所でミルルはなににするんだ?」


 先ほどから無言で自分の胸を揉み続けていたミルルに俺が問いかけると、彼女ははっとしたようにそれを止め、次に顔を赤くして、


「は、はい、そうですね……タイキと同じもので良いです。私にはよく分からない料理ですので」

「そうか。じゃあ……かき揚げうどん」

「はーい、かき揚げうどん二人前ね」


 嬉しそうに注文を聞いて、鈴がうどんをお湯に入れ、その間にかき揚げを揚げ始める。

 ぱちぱちと天麩羅が揚がる音を聞きながら、


「それでさ、ミルル、俺達のパーティって、ミルルともう一人なのか?」

「はい、そうですが……何か?」

「もう少し人数がいた方が良いと思わないか?」

「それはまあ……でも変な方と組むくらいなら少ないパーティでやっていく方が良いですし」


 そのミルルの答えを聞きながら、そこで俺は鈴に目を移した。

 この世界に連れてこられた時に、女神様にチートを貰ったりしているし、多分力も強いだろうなと思うので、


「鈴、俺達とパーティを組まないか? 一緒に冒険をしよう!」

「え? プロポーズ?」


 俺は吹き出した。

 今の会話でどうしてそうなったと思いながら、


「違うよ、どうしてそうなるんだよ!」

「もう、残念ね。はい、かき揚げうどん、チャーシューはおまけしておくね、これからも御贔屓に」


 そう言って出されたかき揚げうどんの端に一枚チャーシューが載っている。

 チャーシューって……これってラーメンじゃないんだろうかという野暮な突っ込みはしない。

 十代の男子にとっては肉は貴重なものなのだ。


 そう思って試しにチャーシューに箸を付けて、俺は一口。

 口の中に肉の旨みが広がり、脂身の部分がとろりとしたの上で溶ける。


「美味しい……」

「ふふ、自信作なんだよ? 秘蔵の調合したスパイスで味付けした、私のオリジナルなの」

「これは美味しい、また食べにくるよ」

「ぜひぜひそうして下さいませ」

「それで一緒に来てもらえないか?」

「うーん、お店が休みの日なら良いよ。普段は仕込みとか忙しくてね」

「休み……何時だ? 」

「二日後に二日間あるよ。その時なら少しは冒険のお手伝いしてあげても良いよ……タイキなら、ね」


 最後に俺ならと笑う鈴だが、幼馴染のよしみで手伝ってくれるという意味なのだろう。

 男勝りな鈴だが、情が深い所もあるのだと、幼馴染な俺は知っている。

 そこで俺は天麩羅に口を付ける。

 つゆが少し染みていたが、揚げたての部分が残っていて、


「サクサクの天麩羅、うまいな。鈴は良いお嫁さんになりそうだよな」

「でしょう? でも問題は相手がいないって事なのよねー、ちらっ」

「そうなのか、良い男が見つかるといいな」

「そうなのよ、ちらっ」

「これ以上うどんを褒めろっていうのか。はいはい美味しいですよ」

「……あんた私の事なんだと思っているの?」

「うどん脳」

「……」

「間違っているか?」

「間違っていないわね。でも悔しい、ビクンビクン」


 冗談めかして言う鈴だが、この色気よりも食い気な幼馴染は基本的にうどんしか興味がない。

 それはこの異世界でうどんを作り始めた時点でお察しだろう。

 そう思いながら、俺はうどんに手を伸ばす。


 つるっとしたのど越しに、汁が絡まり旨みが口いっぱいに広がる。

 これがうどんだよなと思いながら俺はそれを全て平らげて、ミルルが全てを食べた後に俺は、


「ごちそうさまでした。美味しかったよ鈴。それでお代は……」

「そうだね、おまけしちゃうよ。同郷のよしみでね」

「悪いな、ありがとう」

「その代りまた別のお客さん連れて来てね~」


 ミルルを連れて店を出る。

 そこで何だか考え込んでいるミルルに、


「どうしたんだミルル」

「いえ、まさかタイキが異世界から来てしかも女神様の加護があるとは思わず……」

「あー、俺も信じられなかった。気がついたらここの世界にいたし」

「そうなのですか。でも、私、私達のパーティからは絶対にタイキは逃がしませんからね!」

「わ、分かっています。良い恋人が見つかるといいですね」


 そう俺は答えたのだが、何故かミルルの機嫌が悪くなってしまった。

 これはまさか……ミルルが俺を彼氏候補に!

 そこまで考えて俺はむなしくなって溜息をつく。


 はあ、ハーレム作りたい。

 女の子にきゃあ、素敵、流石ですって言われてみたい。

 そんな異世界に行きたかったな……切なく心の中で泣いた俺はそこで、


「そこの黒髪の平凡そうな怪しい男! お姉様から離れなさい!」


 ミルルに良く似た少女の声で、俺は変質者扱いされたのだった。


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