曇らせの為の下準備
正直、害獣の住む夢の世界が悪魔たちに支配されようが世界樹さまがザーメンまみれになろうが、俺からすれば知ったことではない。
けど、この世界の為に戦おうという気持ちはある。
なぜなら、この世界は俺が大好きな漫画の世界だ。
間違ってもこんなエロゲの世界観から出てきたやつらに、大好きな世界を汚されたくない。
それが作品の一ファンである俺に出来ることじゃないか?
絶対に見たくないしな、原作主人公やヒロイン⋯⋯果てはラスボスまでザーメンまみれになってる光景なんて⋯⋯。絶対に阻止してみせる。
「そんなに熱弁しなくても俺はシャドウと戦うよ。この世界を汚されたくないからな」
「それなら良かったポヨ!」
ホッと一息吐いた害獣⋯⋯ミューが俺の傍に近寄ってきた。
「ところで、君はいつまで魔法少女の姿でいるポヨ?」
「何言ってんだ?変身は解けないって言ったのはお前だろ」
一度魔法少女に変身すれば、肉体は作り替えられ二度と元には戻らない。確かにそう言っていた筈だ。
「それは性別の話ポヨ!変身を解除する事でいつでも魔法少女の衣装から変身前の衣装に戻ることが出来るポヨよ」
「⋯⋯先に言えよ」
一度変身したらずっとこの姿のままだと思い込んでいた。俺はこの先ずっとファンシーな見た目で生きないといけないんだと、軽く絶望していたくらいだ。
この魔法少女の衣装を脱げるならそれが一番だ。変身の解除方法は⋯⋯ミューから聞くまでもなく、最初から知っていたかのように思い出した。
昔、学校で習った普段使わない単語を数年経って急に思い出す⋯⋯そんな感覚に近い。
「魔法の変身、メイクオフ!」
正直、羞恥心がすごい。
せめてもの救いは変身時と違ってポーズが必要ない点だろう。変身の解除と共に俺の全身をピンク色の光が包み込む。
魔法少女のものの作品にはありがちな、体のシルエットは見えるが衣装が変わる瞬間は見えないやつだ。
レーティングが高めの子供より大人向けのアニメの場合はガッツリ、変身シーンが見えたりするが俺の場合はしっかりと隠されている。エロゲの世界観のくせにだ。
「⋯⋯やっぱり少し大きいな」
俺が元々着ていた男性ものの衣服はこの体にはやはり大きい。ダボダボのシャツと、ズボンはサイズが合わず手で押えておかないと落ちてしまいそうだ。
「⋯⋯はぁ」
ため息を吐いてから、ある事を確認する為に部屋を移動する。
後ろからミューが付いてきているがあえて触れず、そのまま脱衣所まで向かう。
「この部屋は脱衣所ポヨね」
「見て分かるだろ?」
俺の記憶を読み取ったのが事実なら、そもそも確認の必要すらないだろう。ミューと目が合うと、何を勘違いしたのかニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。
「分かったポヨ!君は女の子の体を堪能したくてこの部屋にきたポヨね!お風呂でおっぱい揉んだり、一人で楽しむ気ポヨね!」
「んな訳あるか!」
鼻息を荒くして早口で喋るミューの頭を掴み、力の限り握りしめる。ミューの絶叫が聞こえているが俺以外には聞こえていないそうなので、騒音のトラブルは起こらないのでそのまま続ける。
反応が鈍くなったタイミングで脱衣所の外に放り投げてから、扉を閉めた。ピクピクと動いていたから死んではいないだろう。
妖精が簡単には死なない事は既に俺も学習済だ。いや、まぁそんな事はどうでもいいな。
ミューがいなくなったので余計な茶々入れを気にする必要はなくなった。俺の目的は脱衣所にある洗面台の鏡だ⋯⋯。
「やっぱり⋯⋯女の子だよな」
最初から分かっていた事ではあるが、洗面台の鏡に映るのは全くの別人だ。男の俺の面影など、ありはしない。
俺をベースに性転換した訳じゃない。魔法少女に文字通り作り替えた感じだな。そのお陰かどうかは知らないがめちゃくちゃ美少女だ。
これだけビジュアルが良ければアニメの主人公を張れるだろう。いや、世界観で考えるならエロゲのパッケージキャラクターか⋯⋯凄い嫌だな。
───美少女だ。
現実ではまず見ることがない、現実離れした美しさと可愛らしさを持ち合わせている。
そんな美少女のダボダボTシャツとズボンが落ちて下半身が露出するというあられもない姿だというのに微塵も性欲が湧かない。
試しにTシャツを脱いで、ブカブカのボクサーパンツを脱いで真っ裸になっても同じだ。エロい筈なのに何も感じない。
自分の体には欲情しないということか⋯⋯。
まぁ、ある意味でその方が都合はいい。自分の体を見て欲情していたら⋯⋯それこそ猿のように致していた可能性が高い。TSもののエロゲーのようにな。
「このままシャワーを浴びるか」
認識を確認する為とはいえ、一度服を脱いだんだ。このままシャワーを浴びる方が無駄がなくていい。
という訳でシャワーを浴びてきた。シャワーシーン?カットだカット。俺のシャワーシーンなど需要はない。
「服⋯⋯どうするかな」
下着を含めて男性ものの衣服しかこの家には存在しない。脱衣所に置かれた収納ケースから着替えを取り出して着替えはいいが、やはりダボダボだ。
この格好のままだと生活に困る。
いや、それ以前だな。
「どうするよ⋯⋯これから先」
俺はまだ学生だ。当然、高校にも通っている。何事もなければいつものように学校に出て授業を受ける筈だった。友達とワイワイ過ごす筈だった。
けど、魔法少女になり⋯⋯性別が変わった事で当たり前の日常が変わってしまった。
学校に行く?なんて説明するつもりだ? 魔法少女になったから性別が変わりましたなんて誰も信じてくれないだろう。それこそ外見は全くの別人だ。男の時の面影すらありはしない。
「親になんて説明したら⋯⋯啓吾にも⋯⋯」
俺が住んでいる家は一軒家で両親の持ち家だ。ただ、今この家に住んでいるのは俺だけで、両親は仕事で海外に在住している。
それこそ年に数回くらいしか家には帰ってこない。両親に会うのはずっと先ではあるが、なんて説明したらいいのやら⋯⋯。
いくら寛容な俺の両親とはいえ、息子が女の子になっていたら大パニックだろう。受け入れてくれるか?⋯⋯まぁ、なんだかんだ両親なら受けてくれそうな気がする。
問題は啓吾だな。
何も言わなかったら心配するだろうな。現にスマホのメッセージに『なんで今日休んだんだ?風邪か?』って俺が学校を休んだ事を気にしてメッセージをくれている。
啓吾とは小学生からの付き合いで、それこそ兄弟のように仲がいい。お互いの家に何度も出入りしている。大親友と言っていい。
そんな親友が急に学校に来なくなったら間違いなく心配する。で、心配した啓吾は俺の家を訪ねてくるだろう。
そこで出迎えるのが親友の知る俺じゃなくて、見知らぬ美少女だったら⋯⋯。
俺だって説明して⋯⋯信じてくれるだろうか? それだけが怖いな。
「ひとまず⋯⋯学校には通わない方向性でいくしかないな」
今の俺には学校に居場所はない。最悪⋯⋯退学まで考えた方がいいかもな。俺の将来設計が台無しだ。後でもう一回、ミューの事を殴っておく。
啓吾にはインフルエンザになってしばらく休むと返信しておくか。これで対処法を考えるくらいの時間は確保できるだろう。
「⋯⋯⋯⋯」
───女として、これから生きていくしかないんだろうか?
考えたくはない。けど、最悪は想定しておくべきだ。
「両親には悪いけど⋯⋯引きこもりニートコースも待ったナシかもな」
学校にも通えない。戸籍も使えない。ここにいるのは五十嵐 純平ではない魔法少女だ。
この日本で、社会で生きていく事にすら苦労すること間違いない。波風立てずに生きていくにはそれこそ引きこもりくらいしかない。
「マジカルパワーでどうにかしてくれよ⋯⋯」
それが出来ないのは知識で分かってる。本当にふざけた契約だとつくづく思う。
「 俺が大好きなこの世界を護る為の代償か」
なら、仕方ないよな。いいぜ。受け入れてやる。
この世界が汚されるより、ずっといい!
俺は『アビリティ・ストライク』のファンとして、この世界を護る。その為ならなんだって捨ててやるよ。
覚悟はできたか?俺はもう出来ている。
───この時の覚悟が原因で、原作主人公が曇る事になるのだが⋯⋯それはまた別の話。




