第12話
戦争開始十一日目
再び前線へ向かう朝が来た。
トラックのエンジン音が、やけに大きく聞こえる。
守成は荷台に腰を下ろし、無言で前を見つめていた。
周囲には、見慣れない顔が増えている。
新しく配属された兵士たちだ。
若く、顔が硬く怖さがにじみでている。
その中に、ケビンの姿はない。
当然だ。もう、いない。
それでも、ふとした瞬間に探してしまう。
無意識に、三人だった頃の配置を思い出してしまう。
誰もケビンの名前を口にしなかった。
聞く者もいなければ、語る者もいない。
それが戦場の日常だった。
トラックが止まり、展開命令が出る。
建物の影に身を寄せ、銃を構える。
遠くで爆発音。
瓦礫が崩れる音が、地面を伝ってくる。
守成の心臓は早鐘を打っていた。
それでも、視界は不思議と狭くならなかった。
(来る)
そう思った瞬間、銃声が響いた。
敵の姿は一瞬だけ見えた。
人影が走り、遮蔽物に隠れる。
守成は息を整え、照準を合わせる。
指が引き金にかかる。
怖い。
それでも、迷ってはいられない。
引き金を引いた。
銃声と反動。
腕が痺れる感覚。
結果は分からない。
ただ、仲間の前には出られなかった。
戦闘は短時間で終わった。
敵が薄手で撤退したようだ。
静かになった戦場で、守成は周囲を見回す。
仲間は、全員立っていた。
それだけで、胸の奥が少しだけ緩んだ。
基地へ戻るトラックの中。
誰も大きな声で話さない。
マイケルが、ぽつりと口を開いた。
「……お前さ」
「なに?」
「前より、落ち着いてるな」
守成は少し考えた。
「そう見える?」
「うん。前は、撃つ前に全部顔に出てた」
守成は苦笑した。
落ち着いたわけじゃない。
慣れたわけでもない。
ただ、怖さを感じたままでも、体が動くようになっただけだ。
(変わったんじゃない)
(背負うものが、増えただけだ)
守れなかった仲間。
失った未来。
それらが、背中を押してくる。
基地が見えてきた頃、守成はふと空を見上げた。
灰色の雲で埋め尽くされている。
戦争は続く。
今日も、明日も。
それでも、自分はここに立っている。
その事実だけが、今の守成を支えていた。
戦争開始十一日目終了




