第11話
戦争開始十日目
休暇の日だった。
前線への出動はなく、基地全体がどこか気の抜けた空気に包まれていた。
それでも、守成は夜明け前に目を覚ました。
理由は分からない。ただ、目が閉じていられなかった。
反射的に隣のベッドを見る。
そこには、何もない。
整えられたままのシーツ。
使われることのない枕。
分かっている。
分かっているのに、毎朝確認してしまう。
「……走ろう」
独り言のように呟き、静かに立ち上がった。
装備は何も持たず、基地の外周へ向かう。
冷たい空気が肌を刺す。
肺に入る空気が痛い。
ただ走る。
何も考えないように走る。
頭の中では、どうしてもケビンの声が蘇る。
屈託のない笑顔。
「明日、妹に会いに行くんだ」という言葉。
足が重くなる。
呼吸が乱れる。
それでも止まらない。
止まったら、泣いてしまう。
後悔が頭をよぎる。
前に起こったことを振り向いて思い出してしまうから。
遠くで、同じように走る影が見えた。
マイケルだった。
一瞬、目が合う。
だが、互いに声はかけなかった。
言葉にした瞬間、何かが壊れてしまう気がした。
夕方、同じ時間に戻ってくる。
汗と泥で汚れた姿。
「……まだ、いけそうだな」
マイケルが、無理に明るく言う。
「うん」
それだけで十分だった。
その夜、守成は夢を見た。
ケビンが、いつも通りそこにいた。
三人で笑って、何気ない話をしていた。
目が覚めたとき、涙は出なかった。
ただ、胸の奥にあった大きな荷物をおろせた気がした。
忘れたわけじゃない。
前に進めるわけでもない。
それでも、生きている。
ケビンの思いも背負って生きていかなければならないのだから。
戦争開始十日目終了




