第三話 大阪女 他国の王子と話す
「ウチは庶民的なモンしか作れへんで?」
「通常の食事はテオ達王宮の料理人が作り、蒼月王子たちの歓迎会食での軽食を作ってほしいそうだ」
「そんならええで!たこ焼きに、デザートはベビーカステラのクロカンブッシュ風。んーこれだけやと淋しいな。折角来てくれるんやし、東国の食品をたっぷり使って美味しいモンを作りたいなぁ」
「ふむ、一番輸入しているのは鰹節だが……」
「東国は食べ物とか日本に似とるんよなぁ。あ!あれはどうやろか?」
「あれとは?」
秋乃が何か思い付いた様子を見て、リヒトが不思議そうな顔をする。
「あれを作るにはあれがないとアカン!テオのおっちゃんに相談に行って来るわ!」
部屋を飛び出した秋乃の後を侍女シータがすかさずついて行く。
「アキノ様ってエネルギッシュですね」
「ああ、本当に」
少し呆れた口調で言うクロードに、リヒトは柔らかく笑いながら相づちを打った。
*****
今日はいよいよ蒼月がソルタニアにやって来る日だ。
「そういえば、東国からどうやって来るん?船?」
「王族が他国を行き来する時は、各国の王宮内にある専用の魔方陣から転移するんだ。秋乃も出迎えに行こう」
リヒトについていくと、煌びやかな装飾が施された部屋についた。
地面に大きな魔方陣が書いてある。
その前に、ソルタニア国王を始めとするソルタニア国のトップ達が立っている。
「そういえばリヒトは第二王子やんな?お兄さんはどこにおるん?」
「兄上は現在、他の国の外交で不在なんだ」
「へえ~王族って忙しいんやなぁ」
「兄上は優秀だからなぁ、時間だ」
リヒトが呟くと同時に、地面に書かれた大きな魔方陣が金色に輝く。
その光が治まると、魔方陣の上に東国の一団が現れた。
(みんな黒髪で着物を着とる!ほんまに日本と似とるんや)
先頭にいるのは若い男性だ。
艶やかな黒髪に切れ長の瞳。
繊細な刺繍が施された豪華な青色の着物を着ている。
「東国の皆様、ソルタニアにようこそお越しくださいました」
ソルタニア国王と宰相が東国の一団に歩み寄る。
「初めまして、東国の第三王子の蒼月と申します」
蒼月と名乗った男は、切れ長の目を細めてにっこりと笑った。
(乙女ゲームに出てきそうな和風のイケメンや!)
秋乃がぼんやり眺めていると、蒼月と目が合った。
「君が異世界からの転移者?」
「そ、そうです!菜庭 秋乃と申しますねん……!」
突然話しかけられて、挙動不審になる秋乃。その様子を見て蒼月が微笑む。
「ふふ、よろしくね秋乃」
秋乃に近づいた蒼月は握手をしてきた。秋乃は驚きつつも、相手が他国の王子ゆえになすがままだ。
「蒼月王子、初めまして。ソルタニア第二王子リヒトと申します。同い年のよしみで私も混ぜていただきたく」
すかさず会話に入って来たリヒト。
蒼月は微笑を浮かべてリヒトとも握手をした。
「同い年なら敬語は無しだよ。僕、リヒトと秋乃と友達になりたいな」
「ああ、よろしく蒼月」
「わ、わかったで!」
*****
蒼月の意向で、歓迎の会食も蒼月の向かい側に秋乃とリヒトが座る形になった。
蒼月の前には、秋乃が作ったたこ焼きなどの料理が並んでいる。
「うん、美味しい。東国は海に囲まれているからたこをよく食べるけど、こんな食べ方は初めてだ」
たこ焼きを食べ終わった蒼月が、隣の料理に箸をつける。
「これもたこ焼きかい?ああ、出汁が沁みていて美味しい」
「これは明石焼き言うねん。出汁は、東国の鰹節と昆布をたっぷり使っとるで」
「へえ……!馴染みのある味で、こっちの方が好きかも」
(読み通りや!)
東国の文化や料理について聞いた時、秋乃は慣れた味のものも用意した方がいいと考えたのだ。
「たこ焼きと違って、明石焼きはなぜこんなにふんわりとした食感なの?」
「うき粉を使うとるからやね」
「うき粉?」
「小麦粉のデンプンってヤツで、これを入れるとぷるぷるした食感になんねん」
「東国に帰っても食べたいなぁ。霧島、うき粉を沢山買っといて」
蒼月は霧島と呼んだ眼鏡の側近に、うれしそうに命令をした。
「リヒト様、うき粉の輸入について詳しいお話をしたいのですが」
「込み入った話になるので、続きはあちらでーー」
霧島に話しかけられたリヒトは、そう言って別室に移動した。
「そういえば秋乃、元の世界へ帰るために、勇者について調べてるんだってね」
「蒼月も勇者のこと知っとるん?」
蒼月は頷く。
「勇者はソルタニアだけでなく東国も含めた全世界を救った英雄だからね。あ、女性だから英雄とは言わないか」
「勇者って女の人なん!?」
「うん。記録によると当時16歳の少女だったらしいよ」
「魔王を倒したんやろ?めちゃ鍛えてたんかな、かっこええなぁ」
「魔王はどんな物理攻撃も攻撃魔法も効かなかったけど、聖魔法だけは効いたんだ。勇者はこの世で唯一の聖魔法使いだったのさ」
「蒼月は詳しいなぁ。なかなか勇者の情報が見つからへんから、助かったわ」
秋乃の呟きに蒼月が怪訝な顔をする。
「僕は勇者に憧れていて色々調べたのだけれど、勇者が現れた時や魔王を倒した時のことは細かく記録が残ってるのに、帰還した時のことだけぽっかりと残ってない。いくら100年ほど前とは言え、全世界の救世主なのに、おかしくない?」
「確かにそうやな……」
同意した秋乃が思案を始めた。その様子を見た蒼月が、一瞬、蛇のような笑みを浮かべたことに、考え込む秋乃は気付かなかった。
(日本史とか詳しないけど、100年前やったら普通に詳しい情報残っとるもんな……)
別室から戻って来たリヒトが着席した。
「アキノ、浮かない顔をしてどうかしたか?」
「……何もないで!」
「リヒト、銅製の明石焼き器も沢山買いたいな。明石焼きを東国の皆にも食べてもらいたいから」
「ああ、わかった」
「ウチの世界の料理を気に入ってもらえてうれしいわ」
会食はつつがなく終わった。
*****
蒼月が東国に帰る日がやって来た。
「皆様のお陰で大変楽しく過ごせました。ソルタニアと東国、これからも良き関係を続けて行きましょう」
「ええ、是非とも!」
蒼月とソルタニア国王が固い握手をする。
東国の一団が魔方陣の上に立つと、すぐに黄金色の光に包まれて転移した。
光が治まってから、ソルタニア国王が秋乃の方を向く。
「アキノの料理のお陰で、東国との関係がとてもよくなった。ありがとう。帰還の仕方についてはリヒトが調べておるので、今暫く待ってほしい」
秋乃はなんとか笑顔を作って頷いた。
(モヤモヤするけど、さすがに国王に対して、ストレートに聞けへん……)
*****
一方。
東国に帰った蒼月たちはーー
「ソルタニア、歴史のある古い国だから保守的かと思いきや、なかなか面白い国だったね」
蒼月がにこやかに、後ろに控える側近に話しかける。
「転移者に特に危険性がないことを直接確認できて良かった」
蒼月の低く小さな呟きを聞いた眼鏡の側近が息を吐く。
「……貴方がにこにこしながら秋乃様と喋っていて、気味が悪かったです」
「東国は海の恵みで生きる小さな島国だ。もし転移者が強大な武力を持っていたら、ひとたまりもない。だから転移者様と仲良くしただけさ」
「……」
「まっ転移者は特別な力を持ってなかったし、もしそうだとしてもソルタニア王室の傀儡にもならないだろう。不信感を持つように仕向けたから」
何か言いたげな側近に、蒼月は無邪気な笑顔を向ける。
「さて、ソルタニアとこれからも良い関係を続けるために、東国でも転移者様の料理を流行らせようねぇ」
つづく




