6. 《京将視点》俺は帷さんのパピプペット
さて、いきなり俺のような不遜な人間が~sideという表現で描写してもいいのか、それは分かり兼ねるが、
とりあえず俺の仕事は、愛久津組である時期若頭として名が上がっている帷さんを起こす事から始まる。
まだ少し肌寒い日もあるが、もう霜も下りることのなくなった4月。まだ高校3年生は始まったばかりだ。
虎次郎さんから今日はVIPルームで眠っているとの情報を受け、まずはVIPルームの黒とグレーのチェック柄のカーテンを開けなければならない。
ちょうどベッドがこの窓に接していることもあり、俺はベッドの下から、端に少々乗り上げ手を伸ばしカーテンを一気に開ける。
爽やかな朝の陽ざしが入ると同時に、そのベッドに眠っている2人を笑顔で見下ろす。
帷さんを起こすのはいつも俺の役目で、なぜ俺の役目かと聞かれれば、寝起きの悪い彼を起こせるのは俺だけだから。
愛久津組18代目若頭、巽京将29歳。
愛久津組幹部だった本当の親父が病気で死んで、俺の育て親のような存在になってくれた親父、愛久津昌宗。そしてその本当の息子である虎次郎さんとは兄弟のように育ってきた。
俺のようなモブキャラの話はさておき、今眠っている2人の姿に内心俺はドキドキだった。
帷さんが誰かと同じベッドで眠るなんて、とても信じられない事だ。ましてや気を許している虎次郎やダニエルさんならまだしも、どこぞの馬の骨とも分からない女と一緒だなんて。
虎次郎さんにはこの女のことをさっき聞いたばかりだ。
突然夜中、公道に現れたセーラー服の女。とても信じがたいことだが、『あの柿の木の下で。』のキャラクター
である山元織羽だと本人は名乗っているらしいこと。
でもそんな得体の知れない女の内情はどうでもよくて、俺は虎次郎さんが言ったことを胸に刻まなければならない。
『まだ昨日の今日の話やけど、あんなに惚れとる帷は初めて見よる。もしかするとこの先織羽ちゃんは帷の足枷にもなり得るし、なんなら脅威になるともいえるよなあ。』
虎次郎さんが工場入口から入った真正面にあるソファで足を組み、煙を吐きながら言っていた。
もしこの女が帷さんの枷になるのであるとすれば、俺はこの女を排除しなければならないだろう。
本来、愛久津組次期若頭は虎次郎になるはずだ。しかし虎次郎さんは若頭になることを望んでいない。
そこで虎次郎さんが名前を出してきたのが帷さんだった。帷さんは確かに虎次郎さんよりも強いし、人望もありオーラもある。その器であることに違いはないし、将来、俺以上に親父の跡を継ぐべき人物であるともいえる。
親父は帷さんが高校に入学する時からすでに帷さんに目を付けていたらしい。
はっきり言ってしまえば、この流星界というチームだって、親父と虎次郎さんが帷さんをけしかけ作らせたようなものだった。
少しでも帷さんの力を世に知らしめるためにも。
要は帷さんの家の借金を愛久津組が肩代わりする代わりに、次期若頭になるという道を選べと脅しているようなものでもある。
もちろん帷さんもそのことを理解しているし、実際愛久津組の若頭になるかどうかは一旦保留ということになっている。
それでも俺は、こうして虎次郎さんだけでなく、帷さんのお世話をできることを誇りに思う。強い存在は、いずれ国を、いや世界を変える可能性もあるのだから。
小さい頃は虎次郎さんと俺の2人兄弟だったが、今や帷さんも含めた3兄弟といってもいい。
だから、俺たちの兄弟間を引き裂くような脅威は、どんなに小さなものでも俺が排除する。
例えそれが、帷さんの推しだったとしても。
「帷さん、朝です。今日はさすがに学校に行って下さい。」
帷さんの機嫌を損なわないよう、その頭を撫でながら起こしにかかる。
はぁ~きゃわいい~とばたん。
なんでちゅかこのふわっふわな髪の毛ふふっ。赤黒い髪が揺れて、「んん"~」と白雪姫と七人の小人が住んでいるような森のおうちの周りで飛び交う小鳥さんのさえずりのような声が微かに聞こえた。
なんでしゅかその「んん"~」って!っもう!どっからその声でたんでちゅか?!もっかいもっかい!もっかい「んん"~」って!ちょーだいちょーだい俺にちょーだい☆
例にならい、もう一度帷さんの柔らかい髪を撫でる。
すると今度は、隣の糞が嗚咽のような声を漏らした。
「ん」
お"いお”いざけんなよ糞女。何が「ん」じゃいおんどれ。「ん」だけじゃしりとりもできんじゃろがいワレ!!
お前は地面に埋まる蛾の幼虫か。子供が穴掘って遊んでる途中で見つけた幼虫があまりにもカブトムシの幼虫にそっくりなもんだから、それを連れて帰って、大事に大事に育てた結果、なんと蛾になって飛び立っていったと、子供の夢をぶっ壊す蛾の幼虫かいっ。
その女の頭を適当に叩く。
ばしっ
すると彼女が間延びしながら目を覚ました。
「…んん、ふぁ、」
「織羽さん、ですよね?朝です。帷さんたちの学校の時間です。」
「……ええ、と、あなたは…?」
寝ぼけまなこを擦りながら、首を傾げて俺を見る糞女。
上半身を起こしたところで、糞女の着ているものが帷さんのものだという事が発覚した。
「…それよりも織羽さん、そのあなたが着ている、スベスベマンジュウガニのパジャマ、なぜあなたが着ているんです?」
「…え?あ、ああ、これですか?帷さんが私に貸してくれたんです。」
この女、平気でべらべらと嘘を。
しかも今お前が状態起こしたせいでブランケットがめくれて帷さんの引き締まったは・だ・か☆がまるみえじゃねえかふざけんなよお前がぬくぬくしおって何帷さん裸にさしとんじゃいワレ。
「そのパジャマは私が帷さんのお誕生日にあげたプレゼントでしてね?しかも裸の帷さんを横に、追いはぎかってくらいぬくぬくとしやがって、それは今すぐ脱いでもらいたいんですけどね?」
「……え?、あ、す、すみませ」
「謝ってる暇あるならさっさと脱いでいただけます?」
「、あ、ここで、ですか?」
ふざけんなよ糞女!お前の汚物のような身体みたって何も思わんのじゃいクソガキ!さっさと脱げって言っとんだろがッ。海に投げ落とすぞ?!
俺は糞女の着ているパジャマの前を思い切り引き裂いて、その剥いだ皮を持ち、足がひっかかっている糞女を床に落とした。
「きゃあッ」
「ああ、ボタンが千切れてしまいましたね?これはもう誰かさんが着たせいで薄汚れたゴミ屑と化してしまったので新しいものを新調しなくては。」
俺が可燃ごみに入るよう、パジャマを丸めていると、糞女が床に座り込み全身を腕で隠す。
まじどうでもいいが、白くキメ細かい肌で、蝋人形館からやってきたのですか?ってくらいの艶をしている。
これはもしかするといい高値で売り飛ばせるかもしれないな、と、糞女に近付き、品定めをした。
「ふむ。」
「あ、ああああのっ」
ぎゅっと、さらに身体を腕で隠す糞女。でも俺はこいつの肌に腕毛すらないのを見て、思わずその腕を上げたくなった。
確認したい欲。その腕の下に生えてるであろうわき毛を拝まなければ俺の気が済まない。
「ちょっと失礼。というかさっさと腕上げろ。」
「あ、や、や、そそこは、はずかし」
パンツすらつけていない身体を無理やり押し倒す様な形にして腕を上げさせた。
ぶべしッッ
何か、すごい衝撃が頭に走る。脳細胞がぷっつんやられたかもしれない。
「京将…」
「と、とばりさんっ」
「何してんだ?いくらお前でもぶっ殺すぞ。」
ベッドに座る帷さんに、俺はどうも"かかと落とし"をされたらしい。
しかし「いくらお前でもぶっ殺す」って日本語の文法がおかしいな。普通は「いくらお前でも許さない」とかだろう。
「帷さん、もう学校の時間ですよ?俺は彼女を着替えさせようとしていただけで、」
「てめーは追いはぎか?」
あ、これ…本気で怒ってるやつ。
俺の胃が俺の脳よりも早く帷さんの憎悪を感じ取り、胃が痙攣してるのが分かる。
それでも笑みを絶やさない俺。冷静に、慎重にいけ俺。
「すみません帷さん。帷さんの許可なく勝手に彼女に触れてしまって。」
俺が丁寧に丁寧に謝ろうとしている間にも、帷さんは彼女を抱き起こし、その胸の中に顔を埋めていた。
は?
「おるはおるはおるは~♡夢じゃなかった夢じゃなかったよぉ」
「あっとばりさん、」
「あったかいあったかいしようねぇ」
てっきりブランケットで彼女を包むのかと思っていたら、帷さんの言う"あったかい"は想像を逸した。
「おるはおるはぁぐりぐりぐり~」
「ふふ、あはは、くすぐったい、くすぐったいですよ、帷さんっ」
床に座り込む彼女の膝の上に帷さんがまたがり、彼女を全身で覆うように身体を擦りつけている。
お互い裸のまま。
「はあはあ、あかんあかんやんっ!もう夜じゅう俺の股間がパンパンで今にも爆発してまうやん!」
帷さんが突如関西弁になった。
「…帷さん、そろそろ制服を着ないと。」
俺が制服のシャツを帷さんの綺麗な肩にかける。
はぁーとばしゃんの肩にちょこぉっと触れちったよ俺たん~すべすべすべすべはあはあ。
俺がはあはあしている隙にも、帷さんは彼女の下へ下へと抱きついていく。
「はあはあ、おるはぁおるはぁ、織羽のここにはやくはやく挿れたいのぃいいハアハアハアハア」
「……」
帷さんが、糞女の揃えている膝の上に顔を埋めて、ずっとハアハアしている。俺だって帷さんの膝の上ではあはあしたいのに。でも俺のはあはあと帷さんのはあはあが少し共鳴できて俺たんうれしいでしゅぅ。
およそ20分を無駄にした。
朝の1分1秒がどれだけ貴重か、俺が一番よくわかっているはずなのにな。
「ヤダヤダ織羽も持ってく、持ってくのぉ!!!」
「そんなゲームを学校に持ってくみたいな言い方しないで下さい。そんな大きいもの持っていったって邪魔になるだけでしょう。」
「じゃあもう俺学校行かねえし?織羽持ってけないなら高校中退してやるし?!」
帷さんが糞女を抱っこしながら、プンプンと怒り、また工場内へと入って行く。
せっかく車に乗る手前まで来たというのに。そんなにそのおもちゃが大事ですか帷さん。
「京将、まあええやん。織羽ちゃんも一緒に連れてったり。」
「虎次郎さん、そう言われましても。ではこの糞女は男子便所に縛りつけて肉便器にしておけばいいですか?」
「お前なあ、帷に尻からありったけのセメントを流し込まれるぞ?」
「あ"っんン"っッ♡イイ!!想像しただけで悶えます!」
「セメントは時間立てば固まるってこと、念頭に置いとけな?」
虎次郎さんに笑いながら言われたが、俺は本気で興奮していた。
そしてまた10分を無駄にした。
「織羽にゃん織羽にゃん♡」
「なんですか帷さん?」
「えへへ、信じられない、俺、信じられない。織羽と一緒に学校通えるなんて~。」
後部座席で糞女の膝の上で寝転ぶ帷さん。
糞が。なんの裏もない笑顔で俺の可愛い帷さんをほだしやがって。
後から図書館行ってありったけの辞典を糞女の名前で貸し出してやる!で、ありったけの辞典背負わせてそのまま海にドボン。あ、しまった!糞女は千城工業高校に在籍してないから貸出はできないんだった!俺いっけね☆
そうそう、帷さん、虎次郎さん、ダニエルさんは男子校である千城工業高校に通っていて、竜彦さんと竜馬さんは別の私立高校に通っている。あの双子は実家がセレブということもあって、中学から私立に通っているのだ。
ダニエルさんはジジ臭い慣習があるせいか、いつも早起きして一足先に学校に行っている。
帷さんと虎次郎さんは大体俺が車で送り迎えをしているのだが。それがなぜ糞女まで乗せなければならぬのだ。
『ならぬのだ、ならずものには、ならぬのだ。』(五、七、五、京将心の一句)
「京将、俺らが授業中、ちゃんと織羽ちゃんの見張りしといたってな?」
隣の助手席から虎次郎さんが話しかけてきた。
「……は?」
「は?じゃねえわ。うちの高校柄悪いの多いし、こんなセーラー服のべっぴんさんおったらすぐに集団愛撫されてまうやろが。」
「集団愛撫?…集団レイプの間違いでは?」
「あほう。こんな清楚な織羽ちゃんにレイプなんて言葉は似合わへんやろ。」
一緒やろ。集団愛撫も集団レイプも集団でやることに変わりはないでしょう虎次郎さん。
帷さんならず、虎次郎さんまで糞女の肩を持つのかと思ったらイライラして胃がきりきりしてしょうがない。太田胃散飲んどこう。
「まあ、そんな清楚な織羽ちゃんも昨日で初もん奪われてしもうたんやけどな。」
ははは。と大口で笑う虎次郎さん。初もんって何だそれ。初売りのことか。
「まだ、織羽は清楚なままだもん。ねー。」
「と、とばりさん…。」
バックミラーを見れば、後部座席で「ねー。」とかわゆく首を傾げる帷しゃん。んはーなんなのしょれ超かわゆい♡
でも糞女は顔を赤くして帷さんから顔を反らしている。ざけんなよ糞女!!タコを穴という穴から丸のみさせんぞごらぁ!!
「…ははは、って、…え?帷、織羽ちゃんとえっちしたんちゃうの…?」
「…してねーし。ばか。」
「……」
今の今まで大口開けて笑っていた虎次郎さんが固まる。俺も固まる。だめ。京将は固まっちゃ、だめ。
固まったらそのままハンドル切れずに壁に激突するか地平線まで行って海にドボンだぞ☆
「固まるのは俺の股間だけで十分。」
「………は??」
「いえ、何でもないです。」
しまった、思わず口に出ちゃったよ俺。虎次郎さんからツッコミ入っちゃったふふふ。
「靴、ちょうどいい?俺が昔使ってたやつなんだあ☆」
「あ、はい!ありがとうございます!」
と、と、ととととととばりしゃんのスニーカーを共有してるだと?!!
おま、その伝説の靴で糞みたいな足を差し入れてこの大地を踏みしめてたのか!!ちょ、ま、まって、この大地ってw今車内だし、大地じゃないしw
「また織羽の新しい下着もお洋服も買おうね~♪」
「…あ、あの、でも、わたし、お金持ってないですし…」
「大丈夫!京将が貯金というものをたくさん持ってるから!」
ははははははは、はははは、なるほど、なるほどね帷さんっ。
俺が糞女の下着と服買えってか?なるほどね、全然笑えねー。




