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3.ギャルゲー美女の毛根という名の神秘



そして今、私は工場内にあるシャワー室でシャワーを浴びている。


小さいけれどバスタブもあるし、綺麗とは言わないけれど、掃除もされていて清潔感は保たれているようだ。


簡易的なアコーディオンカーテンで区切られた脱衣所の前には、ちゃんと掃除当番表が貼った。



「おい、タオルを置いておくぞ。」


シャワー室の外から聞こえてきたのは冷静な彼の声だ。


「あ、あの、ありがとうございます。」


ずっと嫌そうに私を見ていたけれど、なんだかんだ優しい人なのかもしれない。


「服も下着も汚いから洗濯機に入れた。出る時はそのまま裸で出てこい。」


「えっ」


「まだお前の査定が終わったわけじゃない。」


「……」


「因みにあと5分で湯が水に切り替わる。さっさと済ませろ。」


「ええっ!」


アコーディオンカーテンが閉められる音がして、湯船からそっと立ち上がる。


少しでも優しいと思っていたのは私の勘違いだったのかも。


こんな身体、査定するようなものでもないのに、とシャワー室にある全身鏡で自分の身体を見つめた。



「帷~、お前さぁ~なんなん?!皆を誤魔化せないようなことすんなや。」


「そうだぞ、突拍子無さすぎて対応に困る。まあ突拍子無いのはいつものことだが。」


「てかいくら推しに似てるからって庇うことないのに。帷があんなことするなんてめずらし。」


「おいおい竜彦だってちゃっかりバイクの後ろに乗せてたよな?」


カーテンの向こうからは口々に話す声が聞こえてくる。


このシャワー室は帷さんと他の4名、いわゆる最高幹部しか入れないVIPルームに併設している。


つまり今ここで私が出ていけば、一瞬で裸を見られるということになるのだ。


さっき大勢いた時よりも緊張するのはなぜだろう。


とりあえず髪の毛を拭いて、タオルを身体に巻く。


ここでもたもたしていたって、きっと勝手にカーテンを開けられるだけだ。


緊張するのは裸を見られるということだけではない。もし査定で皆のお眼鏡にかなわなければ、私は捨てられるのだ。きっと、一突きで殺されるのとはわけが違う。殴って殴って、徐々に弱るのを楽しむかのように、生殺しの状態で捨てられるのだろう。


覚悟はできているはず。


生唾を呑み込んでから、大きく深呼吸をする。


自分の頬を軽く叩いてから、アコーディオンカーテンをゆっくりと開けた―――


すると、目の前には


「シャワー浴びれた?ごめんね狭いとこで。しかもトゥルトゥルになるトリートメントとかなくてさ~。」


帷さんがいた。


それはもう全面的に私の視界が帷さんだった。


アコーディオンカーテンにずっと張り付いていたかのように。


今彼との距離は、およそ20㎝。ソーシャルディスタンスだってなるべく2mの感覚は開けるようにといわれているのに。


「あ、あのっ、バスタブもあってゆっくりできましたっ。ありがとうございました!」


このままお辞儀をしてはぶつかると思い、お礼だけしっかりと伝えた。


そう、彼はここのトップ。一言でメンバーを一掃できるような、独裁国家を背負って立つ長だ。


「あー、俺と同じシャンプーの匂いすんね。えへへ。あ、よく見れば目の下と口元にほくろがあって、もうまさしく『あの柿』の山元織羽って感じだね。」


「……あ、そうです。わたし、『あの柿の下で。』の山元織羽です…。」


「へえそうなんだ。そうやって俺の推しの振りしちゃって、俺をだまくらかそうったってそうはいかないよ?」


あははーと彼の顔はずっと笑顔を保ったままだ。周りにお花が飛んでいるかのような笑顔。


そして手動のはずのアコーディオンカーテンが、自動的に閉まった。


バシャンッ


「……」


一体、何が起こったのか。


でもよく考えたら、ここに来てから私は「一体、何が起こったのか。」と考えてばかりだ。


カーテンの外からはまた口々に話し声が聞こえてきた。


「とばりぃッ!なに言っとんねん!推しとリアルを一緒にすな!!そいでもって死ぬな!!」


「そうだぞ、愛を語るのはまだお前には早い!」


「ちがうんだよそーじゃないんだよ。いやそうだけど、壮大な物語を展開させないと俺の自制心がララバイしちゃいそうだったんだよ!!」


帷さんの悲痛な叫びに、静まり返るのが分かった。


「だってこの風呂のシャンプーはメリットのはずなのにめちゃめちゃいい匂いすんだよ。俺と同じシャンプー使って同じ香りがすると思ったらあれれびっくり!もっともっと信じられないくらいいい匂いがすんだよ!!」


「ここの風呂を使うのは帷だけじゃないけどね。」

「その理屈でいくとここにいるメンバー全員同じ匂いをまとわせていることになるな。」



「それに見れない見れない顔以外見れない。あの子の身体見たら俺多分死ぬから!!」



私はどのタイミングで出ていけばいいのか。


でも今の壮大な牧場物語を聞く限り、帷さんが悪い人だとはとても思えない。


それに、私のことを知っている。彼は『あの柿』の山元織羽のことを知っている。



「じゃあお前は見んな帷!俺が隅々まで身体検査して電マ使って感度確かめたるから!」


「転んで泣け虎次郎!!」


「お前はせいぜい指咥えて死んでればええわ!」


このままでは話の終わりはこないと思い、私は思い切ってアコーディオンカーテンを引いた。


「あ、あの、」


5人の視線が私の方に向けられる。


でもなぜか帷さんが関西弁の彼をベッドの上で押し倒していて、


竜彦さんと竜馬さんがポッキーゲームをしていて、


私の顔が青ざめた。


「お、お邪魔でしたか?」


しっかり身体を巻いたタオルの端を持つ手が、動揺を隠せず震える。ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる


「ち、ちがうよ?!!俺は違う!絶対にBLなんて言わせないから!!」


「なにゆうてんねん帷ぃ。いつも俺らラブラブやんかー♡」


押し倒されている関西弁の彼が、下から帷さんの胸ぐらをつかんでキスをした。


薔薇の花が一気に咲き誇る。ふぁさぁ


私がいたゲームの世界は圧倒的に女子の数が多く、『あの柿の下で。』は男性向けの恋愛シミュレーションゲームのため、男性同士がこうしてキスをするなんてことはあり得なかった。


あまりの衝撃に、巻いていたタオルが落ちてしまった――――。



「…………なんだ、その身体は。」


私の裸を見てすぐに言葉を発したのは、冷静な彼だった。


「そんなリアリティに欠ける身体は初めて見た。」


「り、りありてぃー?」


さっきまで嫌そうに私を見ていた彼だったが、今は驚いた顔をしている。何か普通とは違うのだろうか?


「普通、それだけ胸がでかければ重力で垂れるし、乳首の色だって褐色が平均的。あっても薄すぎるか黒すぎるか。そんなに発色のいいピンクは初めて見た。」


「…………」


「私はあくまで人間の身体を理論上分析した上で言っているだけだ。断じて不特定多数の女に興味があるわけじゃない。」


あごに手を置き、私の胸をまじまじと見る冷静な彼。そして、他のメンバーが呆気にとられている。


「ダニエルが女の身体みてべらべらしゃべっとる」


帷さんの下から起き上がってきた関西弁の彼。


なぜか帷さんは、関西弁の彼の首に手を回し、抱っこされる状態になった。お猿の子供がお母さん猿に抱っこされるように。でも、


「なっ、うそやろ……ないやないか……」


その関西弁の彼の言葉で、ストーンと下に落ちた帷さん。


ない?一体なにが??


「ちょっと失礼。」


「えっ?!」


冷静な彼が私の手首を掴み、そのまま腕を上にあげる恰好をさせられる。


「ちょっ」


どこをどう隠せばいいのか、やっぱりすぐにタオルを拾っておくべきだった。


「脇の下まで生えてない。」


「脱毛サロンか?!ミュゼ?!」


「いや、毛根自体が、ない。」


その一言で、今度は皆の視線が私の頭に集まる。


「髪の毛はあるのになあ」


関西弁の彼の一言で、冷静な彼が今度は私の髪をかき上げ、頭の地肌をじっと観察する。


さすがに、いやだ。こんな増毛診断に来たおじさんのような扱いをされるの。


私はすっとしゃがみタオルを取ると、すぐに身体の前を隠した。


そんな動きをする私に気にも留めず、冷静な彼は私の髪の毛根と脇の下に夢中。


恥ずかしすぎて顔が火照る、というよりも熱くて火を吹きそうだ。



「全員、動くな。」


突如、帷さんの、ドス黒い声が部屋中に響く。大きな声でもないのに、キーンと耳鳴りがした。


地鳴りのような振動は、床が揺れているわけではない。自分の身体に伝わる音の振動のようだ。


「一人でも動いてみろ。内臓に手ぇつっこんで毛細血管一本ずつゆっくりと切って嬲り殺してやんぞ。」


最高幹部と言われている彼らが、帷さんの言葉に固唾を呑んだ時だった。


ッ!


部屋の電気が消え、真っ暗になる。


「っ!あのっ!」


私は、真っ暗が嫌いだ――――。


手探りも出来ず、真っ暗な倉庫の中で縛られたままの状態にされた経験がある。ゲームの中で。


次の日、倉庫の鍵が開く音が聞こえて、外に出た時に見た光景は今でも忘れない。


自分が真っ暗な中で怯えている間にも、いつの間にか学園の人たちが殺されていて―――。



『大丈夫だよ。俺がいるよ?』


「っ?!とばり、さん??」


『大丈夫。俺だけ見てればいいからね。』


真っ暗になった部屋の中で、帷さんが私の脚を下からなぞっていく。


「あっ」


ツー……と、指3本ほどが駆けあがってきて、私の太ももを撫でる。


「ん、」


『ごめんね、他の人間が見ていい身体じゃないのにね。』


「だ、だめっ、んん、」


『俺の目、猫みたいな目でさ、暗闇でもすぐによく見えるようになるんだよね。』


「わ、わたし、猫は、苦手で……」


『知ってるよ。でも犬は好きで、ブラックコーヒーは飲めないけどカフェオレは好き。』


「……え、」


太ももからすっと指が上がってくる感覚。


こんな暗闇で、初めて会った男性に触れて、ぞっと寒気がしそうなのに。


帷さんの優しい声が私の鼓膜を揺らす。


『…お尻が90。』


っ?!


お尻を手で撫でられる。


90って、もしかして、私のヒップサイズ??


『で、腰が60。』


お尻を左手で撫でられながら、彼の右手が腰をさする。


「ッ、ん、」


『はあー、すべすべだね。スベスベマンジュウガニみたい。』


す、すべすべ饅頭蟹……?!


撫でる手とさする手が、触れるような触れていないような、くすぐったいような、気持ちいいような。


『で、おっぱいが、88。ふわふわなFカップで、』


彼の両手が、今度は胸にやってくる。


下から持ち上げられるように触られて、撫で回されている感触で。


「や、んんッ」


『声は我慢しよーね?』


「ぁ……」


『次声出したらお仕置き。』


「っ」


言葉に反し、あくまで優しい手つき。


『声、出しちゃだめだよ?』


「あッ」


『だめだって言ったよね?』


「だ、だって、」


『王様のいう事は絶対。守らないと拷問しちゃうよ?』


―――"王様の言う事は絶対"。


どこかで聞いた言葉だ。確か、ゲームの中で、暗闇の中で……


武者震いがして、怖くなって、拷問と言われているのに縋りつきたくなってしまった。


彼に。触られていた手を遮って彼の胸に身体を預ける。


「と、とばりさ……、わた、わたし、こわい、こわいです!」


一瞬戸惑いからなのか、無反応だった帷さんだったけれど、すぐに私を包み込んでくれた。


『大丈夫。大丈夫だよ。俺がいるから。ね?』





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