表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

2.目の前に現れた天使がハイソックスとか可愛いかよ



その場所から私はあっという間に連れ出された。


聞けば彼らは、竜彦(たつひこ)さんと竜馬(りょうま)さんという双子の兄弟だそう。一見温和そうでも実は気性の激しい、一人称"僕"の竜彦さん、その逆で"俺"が一人称の竜馬さん。


モニカさんは最後の最後まで唇を震わせたまま、私の「夜中ですけれど一人で帰れますか?」にも返すことなく、そのまま道路にへたりこんだままだった。



竜彦さんが私に"こいこい"と指で差し図する。


「僕の後ろに乗って。菊地の後ろに乗ると羽が風で飛ばされて口の中わさわさするから。」


「そ、そうなんですね。」


竜彦さんの後ろに乗せられながらも、後ろからついて来る何十台ものバイクからざわめきが消えることはなかった。


道路のような道から細い道を抜け、そこからまた道路に出れば、そこにはところどころの寂れた民家と空き地が広がっていた。


着いたのは大きな工場で、でも見るからに稼働しているとは思えない。



「さて、まず君、名前は?」


山元(やまもと)織羽(おるは)です。」


今頃になって名前を伝えると、竜彦さんが眉間にしわを寄せた。


「………偽名?」


「いえ、偽名なんかでは、」


「じゃあどこの学校?」

 

「至極、」

至極学園(しごくがくえん)とか言ったらぶっ飛ばすよ?」


「……え?」


さっきはこんなセーラー服の襟は見たことないと言っていたのに。


もしかして私の学校を、知ってる??


益々分からなくなってきた。もしかしてここは異世界でも何でもなく、同じゲームの世界?


それから竜彦さんはめんどくさそうなため息をついて、さっさと工場の中へと入って行ってしまった。


「なあ、あんた、」


竜馬さんが私を怪訝な目で見下ろす。 


「ふざけてるなら痛い目見るぞ?今からあんたの審査が始まるってのに。」 

 

「し、しんさ?」


「"非女"として相応しいかどうかのテストみたいなもんだよ。」


「"ひめ"?」


「顔だけ良くても中身残念じゃ誰も興奮しねーからな。」


興奮って、どういう意味の興奮なのか。


ただ罰を受けるために来ただけなのに、そんな大がかりなものなのだろうか?


かといって今さら引き返すことも出来ず、私は重い足取りで彼らについて行った。



「とばりぃ、おま、どんだけリバースしとんねん!!」


「22回。」


「それ絶対別のウノ使ってドーピングしとんやろ?!」 


中からは楽しそうな声が聞こえてきて、使い古したようなソファに座る数人の男性がウノをしていた。


「ええか?!負けたやつ、女子校行って、次期非女のスカウトいってもらうからな?!」


「俺は女子高よりも短大のがいいな~。」


「帷に行かせたら女の家行って帰ってこんのがオチやろ!」


笑い声を響かせる集団と、そこから少し距離を取った場所で優雅に本を読んでいる男性がいる。


どこもかしこも男性、男性、男性で。



「ねえ、連れてきたよ(とばり)。」


竜彦さんのその言葉で、一斉に視線がこちらに集中する。


これだけ男性がいる中で、断とつに目立つ男性が中心にいる。


赤黒い髪にブルーの瞳。周りにいる男性よりも小柄なのに、オーラがまるで違う。


「あの中心にいる男がうちのトップだよ。黒江(くろえ)(とばり)。」


「とっぷ、とばり、さん。」


「君、絶対この"流星界"のこと何も知らないよね?」 


「……」


「知ってたら自分から"身代わりになる"なんて早々言わないからさ。」



モニカさんがあれだけ怯えていた場所、それがこの、流星界(りゅうせいかい)…?


こんな夜中に集まって騒いで、見るからに普通の人達でないのは確かだ。


これが不良という人種かもしれない。



「ほら、前いけ。」


と、竜馬さんに背中を押されて、よろけながら前に出る。


周りの視線が鋭く、品定めされているのがよく分かる。


『なんだあの汚い女』

『モニカの代わりになれんの?』

『てか竜彦さんの後ろ乗せてもらうとか図々しい女じゃね?』

『あれはゴミ行き確定だな』


バイクでここまで乗せてもらって来た時も、周りの人が同じようにざわついていた。


でも一番よく聞こえてきたのはこの言葉。


『あの女、帷さんに殺される』


私、殺されるの? 逃げて殺されて、その後はどうなるの? 解放される?


解放されるのなら、私は喜んで彼に殺されようと思う。


周りのメンバーとは一味違い、ウノを持つメンバーの視線が、重い。


半笑いなのに怒っているようにもみえるのだ。


彼らがウノを持ったまま、次々と灰皿にタバコの火を押しつけていく。


それなのに、周りの視線に気を取られるよりも私は、帷さんに一直線に目がいった。


そして動けなくなったかのように彼に目が奪われてしまった。


いや、違う。彼が私を、じっと見つめているのだ。


反らしたくても、反らせない。


怖ければ対抗せずに、さっさと反らしてしまえばいいものを。


でも彼の瞳は、獲物を狙うようなそういった類いのものではない。


くるりと涙液を輝かせた瞳が、私に必死に何かの熱量を伝えているかのようで。


少しだけ下がった様な眉がその証拠。


なんて、なんてつぶらな瞳―――


クゥ~ン


捨てられた子犬のような顔で、一切まばたきをしない彼。


まばたきしないと目が乾くから、と私がまばたきをして見せても、彼は一向にまばたきをしない。



「おい、帷?」


向こうで静かに本を読んでいた、ベージュのサラサラヘアに斜めに切り揃えられた前髪の男性が立ち上がって言った。


「ふっ。ダニエルはせっかちさんだな~。」


「は?」


「ちょい待ち、」


帷さんが組んでいた足をおろし、立ち上がると、ソファの隣に置いてあったゴミ箱を取った。


今度は皆が、私から帷さんへと視線を移す。


そのまま工場内の奥の方へと消えていって


そして、ゴミ箱の中に顔を入れて、叫んだ――――



『めっちゃヤバいやつやん!!来たやん!!七夕に推しに会えますよーに祈ってたらめっちゃ来てまったやん!!どーすんのよコレ!!!!』



―――一瞬にして工場内が静まり返る。



『でもちょい待とうよ俺!!もしかしたら推しになりすました"なりすまし詐欺"かもしれんじゃん!!ATMで振込する時しつこいぐらいに"振込め詐欺じゃないですか?身内の方に確認しましたか?"って画面バンバン出てくるじゃん!!確認は大事だよ?!一つ一つチェック項目つくって皆で照らし合わせて確認しよーよ?!!』



ふうと息つき、ゴミ箱を抱えてこちらに戻ってきた帷さん。


相当な労力を使ったかのように、首の関節をコキコキと鳴らし、再びソファに座った。


周りの目は真剣そのもので。


その静寂を断ち切ったのは、あご髭の生えた関西弁の彼だった。


「よっしゃ、皆よう聞き!」


皆が彼に集中する。


「今帷はゴミ箱を糸電話代わりに、ブラジルの人と通話しとったんや!」


しーん


「『地球の反対におるブラジルの人元気ですかー!』ってな!」


しーん


「以上、俺から皆に向けてのフォローとアドバイスでした。」


周りがぱらぱらと拍手をし始めて、私もこの波に乗り遅れてはいけないと拍手をした。


「ツッコミ待ちかどうかは知らないが、さっさとこの女の査定を始めるぞ、帷。」


一人だけ拍手をしていない、さっき本を読んでいた彼が淡々と言った。この状況でも冷静そのものだ。


でも帷さんは再び私をじーーーーー、っと見つめるばかりで動く気配がない。でもゴミ箱は大事そうにしっかりと抱えたままだった。


「今日はうちのトップの調子が良くない。」


そう言った冷静な彼が、嫌悪を表す様な顔で私を見る。


「よし、とにかくお前、今すぐここで脱げ。」


……え?…なに。


「聞こえなかったのか?脱げと言ったんだ。」


彼は確実に私を見据えていて、まさかと思うもやっぱり私に向けて言っているようだ。


「ぬ、ぬぐって……?」


「脱がなければ査定も何もお前の価値が図れない。モニカの身代わりで来たんだろう?なら少なくともあの女以上の身体でなければ誰も納得はしない。」


「ぬぐって、ここで?」


「当たり前だろう。」


「……」


今になって身代わりになった現実味が帯びてきた。


そうだ、私はここで"好き勝手に犯される"のだろうし、"叩かれる"のだ。


それがこの流星界(りゅうせいかい)という集団の掟。帷さんの独裁主義国家だ。


周りが『早くしろ』と威圧的に訴えかけてくるのが分かる。


冷静な彼は眉間にしわを寄せ嫌そうな顔をしているけれど。帷さんは、相変わらずまばたきをしないけれど。


工場の冷たいコンクリートをハイソックス越しに感じながら、私は制服のリボンをほどいた。


突き刺される視線が、痛い。誰も喋らない。囃し立てる人もいない。


きっと皆この状況に慣れているのだろう。


私のような犠牲者が、今まで何人いたのだろう。


どこから脱げばいいのか、私は意を決してスカートのホックを外した。


あれ?私、今日のパンツ大丈夫なやつだった?


ベージュの下着やカボチャパンツは持っていないはずだから、多分大丈夫。大丈夫じゃなくても、ただ捨てられるだけだし。


スカートを下げかけた、その時だった。


「待って待って待って、ちょっとタンマ。発進命令来たよこれ。」


「……は?」


「トヴァ初号機の発進命令がムサトさんから出された!皆、すぐに発進準備だ!!」


帷さんがスマホをかざしサイレンのような音を口で鳴らす。


『ウゥ"ウ"~~~~ウゥ"ウ"~~~~~』


そしてソファから軽やかに目の前のテーブルを飛び越え、私を見て言った。


「行くよ、零号機の応援もいるんだ!!」


「……え。」


私に言ったはずの帷さんが、急に膝から崩れ落ちる。



「くっそ、なんだよその『……え。』って。なんだその「え」って顔!そして髪!身体!手足!ハイソックス!!」


悶えるようにコンクリートの床でうずくまる帷さん。


「かわいいかよ河合かよ尊ひかよ笑えばいいよ、笑えばいいと思うよ!」


「……」


そして床からそっと私を見上げた。


「はぁーーー生の推しは生麦よりも生米よりも生卵よりもずっとずっと美味しそうだよ、お肌が透き通って今すぐ全身ガラス張りに出来そうなくらい透明感あるし全面ガラス張りの風呂作って好きなだけ監視してたいよ。」


ぎゅうっと力強くゴミ箱を抱きしめて転がる帷さんを、誰一人として止めようとはしない。


さっきまで皆の視線は私に集中していたはずなのに。私の見せ場を帷さんが持って行ってしまった―――。


軽くショック。


負けられない。そりゃあ、この流星界のトップに立つ程の器なのだから目立つのも無理はないと思う。


でも、私だってやる時はやれる子のはずなのだから!


織羽、いきます!脱ぎます!


スカートをバサっと床に落とす。


「ターッックル!!!!」

「きゃあッ」


私が下着を見せたところで、一瞬にして帷さんに足からタックルをされて


そのまま後ろに倒されてしまった。


『ブラジルの人ーーーーー今日は楽しい通話をあんがとーーーー!!9割くらい何言ってるか分かんなかったけどそっちのサンバもサッカーもアミーゴもちょーかんどーしたーーー!!』


「きゃああぁ」


私のお腹に顔をつけて叫ぶ帷さん。


脚からお腹にぎゅっとまとわりついて、まるで私の下着を隠してくれているようで。


帷さんがそのままダボっとしたTシャツを脱いで私の下半身に掛けると、振り返って言った。


「解散。」


「……」


その言葉に全員無反応で。納得できないというよりも、誰も理解が追いつかない様子だった。


でも次の帷さんの一言が、皆を自動的に動かした。


「散れっつてんだよ糞共が。」


今の今まで床で転がっていた人物とは思えないほどの威圧感。


決して大きいとはいえない背中なのに、溢れ出るオーラで周りを制圧している。


声だってさっきとはまるで違う、恐怖を頭に響かせるような重低音で。


これが、流星界のトップの器…。


彼の後ろにいるはずの私ですら、ビクリと身体を強張らせてしまった。


竜彦さん竜馬さん、菊地さん、関西弁の彼に冷静な彼以外のメンバーが全員、いなくなってしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ