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【第一話】「都心三都決戦」

東京には、かつて「35の旗」があった。

今のように23区などと呼ばれる前、東京市は35の区によって成り立っていた。


だが、それぞれの区はあまりに個性が強すぎた。

商いに長けた者、文化を誇る者、暴を以て支配する者。

隣り合う区同士は互いに睨み合い、争いは日常茶飯事。

そして――「東京大合戦」の幕が上がる。

東京には、かつて「35の旗」があった。

今のように23区などと呼ばれる前、東京市は35の区によって成り立っていた。


だが、それぞれの区はあまりに個性が強すぎた。

商いに長けた者、文化を誇る者、暴を以て支配する者。

隣り合う区同士は互いに睨み合い、争いは日常茶飯事。

そして――「東京大合戦」の幕が上がる。



まず最初に火蓋を切ったのは、本所区と向島区だった。


本所は相撲の都。両国国技館を根城にした力士たちが鎧のごとき肉体を誇り、街を守っていた。

対する向島は荒川と隅田川の守護者。花街の艶やかさと荒川沿いの職人たちの気骨を背負った戦闘集団である。


「このままでは、北から板橋・練馬の軍勢に飲み込まれる……!」

向島の頭領が叫んだ。


「ならば、手を組むしかあるまい」

本所の横綱たちがうなずく。


二つの区は激戦の末、互いの力を合わせることを決意した。

力士の突進と、向島の川を操る戦術。

二つの区は融合し、新たな「墨田」となった。


その戦場に突如として現れたのは、漆黒の影。

錦糸町のヤクザとチンピラ、そして夜を徘徊するヤンキーたち。


「おう、本所も向島もまとめてやるよ。墨田の闇は俺たちが牛耳る!」


墨田区は誕生の瞬間から、光と闇を併せ持つ区となった。

スカイツリーが天に伸びるその姿は未来の象徴。だが足元の錦糸町は夜ごと火薬と血の匂いに包まれる。

戦乱の世にふさわしい、混沌の旗であった。



一方その頃、都心では別の動きが始まっていた。


千代田区――そこは「知識と権力の都」。皇居を中心に、秋葉原の奇人変人、そして霞が関の官僚集団がひしめく異様な区である。

彼らはこう叫んだ。


「東京の統治は我らが握る!」


秋葉原のオタク軍団は、改造ロボや同人兵器を投入。霞が関の官僚たちは法令を武器に周囲の区を縛り上げた。

その圧政に抗うべく、港区が立ち上がる。


「オタクの好きにはさせないわ。私たち港区女子が、この街を支配する!」


煌びやかなビル街から溢れる金。整形で戦闘力を増した美女軍団が前線へ繰り出す。

彼女たちの背後には、赤坂の政治家や六本木の富豪が控え、金と欲望の兵站は尽きることがなかった。


千代田と港区――「知」と「金」が激突する戦いは、後に「大都会戦争」と呼ばれることになる。



さらに西では、新宿が動いていた。


眠らぬ街・新宿。シティーボーイたちが「俺たちが東京の顔だ」と叫び、歌舞伎町の夜の民兵が集う。

ホスト軍団、キャバ嬢部隊、サラリーマン傭兵隊。

昼も夜も絶えぬ喧騒の中で、新宿はひときわ異彩を放っていた。


「俺たちは都会の象徴だ。千代田も港も霞んで見せる!」


こうして新宿は「第三の極」として、己の勢力を拡大していく。



そして、北西の地――板橋と練馬にも火種があった。


もともと一つであったこの二つの区。

しかし「農の練馬」「工の板橋」と呼ばれるほど、性質が異なっていた。


練馬は畑を守る農兵たちが多く、平和を望む者も多かった。

一方、板橋は職人肌で、兵器や武具の生産に長けていた。


「練馬、お前は甘い!」

「板橋、お前は血に飢えている!」


互いを認めながらも、決して交わることのない思想。

その確執はついに爆発し、分裂。

こうして「兄弟区」は袂を分かち、二つの旗を掲げた。


――これが後に語られる、「東京区戦記」の序章である。


35の旗はやがて23の旗に収束する。

だが、その道程には血と欲望、そして奇怪な因縁が渦巻いていた。


東京の空に、23の未来が燃え上がる。


◇ 墨田の夜


墨田の地にて、火花が散っていた。

向島と本所の同盟によって立ち上がった新生・墨田軍。

だが誕生を祝う間もなく、錦糸町の闇の勢力が襲いかかってきた。


「テメェらの正義も伝統も、ここじゃ通じねぇ!」

金色の特攻服を着込んだヤンキーが、バイクの爆音を響かせて突進する。

後ろにはタトゥーだらけのヤクザ組員たち。手にはバット、鉄パイプ、拳銃。


「うぉぉぉぉぉぉ!」

応じたのは両国の力士たちだ。巨体をぶつけ合うように、バイクの群れを素手で押し返す。

一撃の張り手で車ごと吹き飛ばす姿は、まるで戦国の武者。


「ここは……俺たちの土俵だ!」


そこへ川辺から、向島の職人軍団が飛び出した。

木槌を武器に、鉄鋼を叩き上げる力で敵をなぎ倒す。芸者たちは扇を翻し、毒のような艶で敵の視線を奪い、刹那の隙に短刀を突き刺す。


夜の墨田は戦場と化した。

だが、混沌こそがこの区の本質だった。

翌朝には何事もなかったように人々が働き、子どもたちは川辺で遊んだ。

血煙も爆音も、すべて街の鼓動に飲み込まれていく。


こうして墨田は「乱の象徴」として、東京戦記の先陣を切った。


◇ 千代田 vs 港区


その頃、皇居を中心にした千代田城郭では、議論が飛び交っていた。


「港区が財力を盾に我らに刃向かうとは不届き!」

霞が関の官僚戦士が机を叩く。


「だが、オタク軍団だけで港区女子を抑えられるのか?」

秋葉原の技術者たちが怪しげな機械を持ち込み、会議の場に並べる。


「萌え兵器《アキバ式メイドタンク》、すでに三両完成しております!」


その姿は、メイド服を模した塗装を施した小型戦車。

だが実際に稼働すると、砲口からは「萌えビーム」が発射され、敵兵の理性を溶かす。


一方、港区六本木。煌びやかなクラブを拠点とする港区軍は、シャンパンタワーを築きながら兵を鼓舞していた。


「男なんて金で転ぶ。女なんて整形で変われる。

 港区は欲望の極致よ!」


港区女子たちは最新鋭の美容兵器を装備し、光り輝く顔で前進する。

その後ろでは黒塗りの高級車が兵站を担い、投資家たちが無限の資金を注ぎ込む。


こうして千代田の「知」と港区の「金」は真正面から衝突。

都心は日ごとに混乱を極め、周囲の区を巻き込んでいった。


◇ 新宿、第三の旗


混沌を傍観することに飽きた新宿は、独自に動き出す。


「ハハッ、どっちも小せえ小せえ。東京の顔は俺たちだろ?」

歌舞伎町のホスト軍団がワインを片手に嗤う。


「夜の女も、昼のサラリーマンも、全部俺たちが束ねてやる」


新宿は昼と夜、二つの顔を自在に使い分ける都市。

昼は超高層ビル群がシティーボーイの軍団を守り、夜は歓楽街がキャバ嬢部隊やヤクザ系兵力を供給する。

そして、どちらも疲弊した者たちは翌朝、新宿御苑で眠り、また戦場へ戻る。


「俺たちは不滅だ」

その自信こそが、新宿の最大の武器だった。


◇ 板橋と練馬 ― 決裂


北西では、板橋と練馬がついに分裂の決断を下す。


練馬の代表、農兵の頭領は叫ぶ。

「この大地を守り、平和に暮らすことこそ我らの道!」


だが板橋の工匠長は鼻で笑った。

「甘ったれるな。戦を制すのは鉄だ。武具だ。俺たちが東京の軍事を担う!」


両者はかつて兄弟のようであった。

だが思想は交わらず、川を挟んで槍を向け合う。


夜、練馬の畑が燃えた。

翌日、板橋の工房が襲われた。

小競り合いはやがて大戦へと広がり、二つの区はついに完全に別々の旗を掲げた。


こうして「兄弟区分裂」という悲劇は、他の区への前例となっていく。


◇ そして――


火はすでに灯った。


墨田の乱を皮切りに、千代田・港・新宿の三つ巴。

板橋と練馬の兄弟対立。

そして、周囲でその動きをうかがう渋谷、豊島、品川、足立……。


35の旗は、次々と炎に包まれていく。

だが、最後に残るのは「23の旗」だけ。


誰もがそれを予感していた。

だが、その道がどれほど血で染まるかは、まだ誰も知らない。


――これが、東京区戦記の始まりである。



---


◇ 燃え上がる都心


墨田の戦火が沈静化したのも束の間。

東京の都心では、ついに「三つ巴」が本格化しようとしていた。


千代田――「知の王国」。

霞が関の官僚軍団は法律の条文を盾に、相手の兵力を“違法”として拘束する。

秋葉原のオタク軍は自作のロボットを夜な夜な調整し、無人兵器を完成させていた。


港区――「金の帝国」。

シャンパンの雨が降り注ぐ六本木のクラブを根城に、港区女子部隊は華やかな装甲ドレスをまとい、レーザーのように輝くメイクで敵を幻惑する。

背後には麻布の大豪邸を守る富豪騎士団。財力で武器も人材も揃えるその姿は、もはや「傭兵王国」だった。


新宿――「眠らぬ街」。

昼は摩天楼のビジネスマン傭兵隊、夜は歌舞伎町の闇軍団。

そのどちらも新宿駅を中心に集結し、東西南北に伸びる通路を戦略拠点に変えていた。

「この駅を制する者は東京を制す」と言われるほどの巨大ターミナルは、まさに城塞だった。


◇ 周囲の動き


だが、戦うのは三都だけではない。

他の区も次々と旗を掲げ始めていた。


渋谷――「若者の革命軍」。

109を本陣とし、ストリートファッションを纏った若者軍団がSNSで瞬時に兵を集める。

「拡散!炎上!今夜はスクランブルで決戦だ!」

TikTokのリズムで槍を突き、Twitterの呟きで号令を出す、稀代の遊撃軍。


豊島――「池袋魔都」。

乙女ロードからはBL聖女軍団が現れ、サンシャインシティの地下からは闇商人が溢れ出す。

「豊島は闇を喰らう……」

池袋のダンジョンに潜むごとく、地の利を活かした奇襲で他区を苦しめる。


品川――「海の門」。

新幹線と港を握る交通の要。

「物流を制する者は東京を制す!」

港湾労働者と新幹線整備兵団が連動し、戦場に補給物資を送り込む。

その力は時に味方を救い、時に敵を兵糧攻めにする。


足立――「荒ぶる無法地帯」。

暴走族、チンピラ、そして謎の地下組織。

「東京の北を荒らすのは俺たちだ!」

舎人ライナーを旗印に、荒川を越えては他区を襲撃する。

無秩序こそが足立の秩序だった。


そして世田谷――「緑と貴族の国」。

三軒茶屋の芸術家軍団、下北沢の演劇兵。

「世田谷は文化で戦う!」

だが、その背後には豪邸に住む地主貴族たちが控え、豊かな土地を盾に強大な兵糧を蓄えていた。


◇ 火蓋


都心の空に、ついに狼煙が上がる。

千代田のメイドタンク軍団が皇居を出撃。

港区女子の整形装甲部隊がシャンパン砲を撃ちながら前進。

新宿のホスト騎兵隊が赤いネオンの馬にまたがり疾走する。


三つ巴の戦いが、始まった。



---


◇ 三都激突


まず動いたのは千代田だった。


「知識こそ、力だ!」

霞が関官僚軍が一斉に法律文書を掲げ、敵陣に向かって叫ぶ。


「港区女子軍、あなたたちの服装は公序良俗に反する!この場で拘束する!」


すると、メイドタンクが砲声を轟かせた。

ドン、と秋葉原特製の「萌えビーム」が発射され、港区女子の一部が頬を赤らめて倒れていく。


「萌え死んだ……!」


だが港区軍は怯まなかった。

「愛される顔こそ、最強の武器よ!」

整形装甲をまとった港区女子たちが、逆にビームを浴びても“加工アプリ”で耐性をつけていた。

「修正完了!もっと盛れる!」


彼女たちはシャンパン砲を撃ち返す。

泡の弾幕が千代田の兵士を飲み込み、霞が関の官僚たちは足を取られて次々に転倒した。


「うわぁ、予算が、予算が流される!」


◇ 新宿の奇襲


そこに現れたのは、新宿のホスト騎兵隊。

「いらっしゃい、お姫さま……」

キラキラと輝くネオンの剣を振り、港区女子たちに甘い言葉を投げかける。


「えっ……な、何これ……イケメンすぎ……」


港区軍は一瞬で動揺。

整形で完璧な美貌を誇るはずの彼女たちが、ホストの「営業スマイル」に心を奪われてしまう。


その隙に、新宿のサラリーマン傭兵隊が乱入。

「終電を逃しても戦うぞ!」

スーツ姿でビジネスバッグを振り回し、千代田・港区の両軍を蹴散らした。


「ここから先は新宿の天下だ!」


三都の戦場は一気に大混乱へ。


◇ 外部からの参戦


渋谷軍がついに動き出した。


「シティーボーイ?港区女子?古い古い!

 これからは“渋谷系”だろ!」


渋谷109の屋上から、ストリートファッションを纏った若者たちが飛び降りる。

手にはスマホを掲げ、戦場をライブ配信。


「みんな見て!千代田vs港区vs新宿の戦争!

 #渋谷最強で拡散よろしく!」


リアルタイムでフォロワーが集まり、スクランブル交差点に数千の兵士が生まれる。

「渋谷ムーブメント、発動!」

彼らの突撃はSNSの炎上のごとく一瞬で広がり、戦場の隅々まで波及した。


さらに、池袋を拠点とする豊島軍も姿を現す。


「ここは池袋、乙女の聖地……」

BL同人誌を手にした聖女軍団が唱和を始める。


「男同士の友情は尊い……尊い……」


すると敵兵の一部が涙を流し、戦意を失う。

「……俺も、仲間を大事にしようかな」


池袋の闇商人たちはその隙に兵器を売りさばき、戦場にさらなる混乱を招いた。


そして品川軍。

「兵站を制せよ!」

新幹線が轟音とともに突入し、車両のドアから物資を投下する。

港区軍に最新型のシャンパン砲を補給し、千代田軍には条文のコピー用紙を与え、新宿軍には栄養ドリンクを投げ渡す。


「品川は誰にも味方しない。俺たちは物流そのものだ!」


戦場はもはや秩序を失い、都心は火の海と化した。



---


◇ 炎上する東京


戦場はまるでカオスそのものだった。


千代田は法律を振りかざし、港区は金をばらまき、新宿はネオンで魅了する。

そこに渋谷の拡散部隊、池袋の闇軍団、品川の兵站勢力まで入り乱れ――。


「くそっ、誰が敵で誰が味方だ!」

新宿のサラリーマン傭兵が叫ぶ。


そこに突如、北から轟音が響く。

「東京を荒らすのは、俺たち足立だァァ!」

暴走族の群れが荒川を越え、爆音マフラーを響かせながら戦場に乱入する。

火炎瓶を投げつけ、ビルの壁にドクロの落書きを残し、ただ破壊のために暴れ回った。


「無法こそ正義だ!」


混乱の極みに達した戦場。


だが――その喧騒を、静かに眺める勢力もあった。


世田谷。

三軒茶屋の芸術家軍はキャンバスを広げ、戦場を絵画に描きとめる。

下北沢の演劇兵は路上舞台を始め、敵兵の心を奪い去る。


「戦いは一瞬、芸術は永遠……」

地主貴族たちは丘の上から優雅にワインを傾けていた。

彼らは動かず、だがその豊富な兵糧と文化の影響力は、やがて大きな力となることを示していた。


さらに東からは台東の影が差す。

「江戸の魂は、まだ死んじゃいねえ!」

浅草の雷門から現れた下町軍団。

祭りの神輿を担ぎ、太鼓を叩き、戦場へ雪崩れ込む。

彼らはただ「祭り」と称しながらも、その勢いは軍勢そのものだった。


◇ 戦の果て


夜明け。

戦場は廃墟と化していた。


倒れた兵士の間を、かろうじて残った三都の兵たちがにらみ合う。

千代田の官僚軍、港区の金権軍、新宿の闇軍――。

だが、決着はつかなかった。


「この戦、終わらぬぞ……」

霞が関の高官が血に濡れながらつぶやく。


「次こそ、港区が頂点だ……!」

シャンパンの瓶を杖代わりに立ち上がる港区女子。


「夜は……まだ終わらねえ……」

ホスト騎兵のリーダーが赤いネオンを背に笑う。


そして、その混沌をSNSで拡散する渋谷、陰で闇を広げる池袋、補給を握る品川、破壊を撒き散らす足立、文化で睨む世田谷、江戸を叫ぶ台東……。


東京23区は、もはや完全な戦国時代に突入していた。


【第一話・完】

だが、まだ全ての区が動いたわけではない。

北西に控える「練馬」と「板橋」――かつて一つであった二つの区が、因縁を晴らすために剣を研いでいた。

そして江東、葛飾、大田……未だ沈黙を保つ大区の存在もある。


次なる戦は、さらに大規模となるだろう。


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