第8話 星涙の加護
「め、目が眩む……!この赤い光はなんだ……!?」
傭兵のひとりが目を覆いながら、後ずさる。
熱を帯びながらも、どこか清らかな気配を孕んだ光。
その中心には、ノエルがいた。
「この真紅の光……間違いない……」
――(星涙の加護だ……)
エヴィリオは、光に包まれたノエルを見つめ、心の中で呟いた。
(俺も、書物でしか読んだことしかない。幻の力……。)
書物によると――
大昔、星涙の加護の持ち主が大国を統治していた。
だが、長年一人で国を支えるのは負荷が大きく、星涙の加護の持ち主は、代わりとなる“神脈の加護”を数人に与え、大国の統治を進めたと記されている。
「おい女……お前、何しやがった……!」
傭兵はノエルに対して睨みながら叫んだ後、瞳に狂気が宿り、唇の端を吊り上げて不気味な笑みを浮かべた
「このへっぽこ王子がそんなに大事なのかよ……?!」
「……エヴィリオ様から手を離して」
ノエルが静かに言葉を落とす。
だがその瞬間、彼女の身体から放たれる赤い光が一層強くなる。
「離せと言われて、素直に離す奴が盗賊にいるかよ!」
傭兵がニヤリと笑い、他の仲間たちも下品に笑い声をあげた。
「やめて!!」
ノエルの悲鳴が、空気を震わせる。
直後、*バシュッ!*と空気がはじけたような音が響き――傭兵の周りは突如、水の塊に包まれた。
「な、なんだこれ……!?」
「い、息が……息ができねぇっ!!」
傭兵たちが水に囚われ、もがき苦しみ始める。
「これ……なに……?」
ノエルは驚きに満ちた目で、傭兵が囚われた水の牢屋を見つめていた。
「星涙の加護の……力だ」
隣で息を整えながら、エヴィリオが答える。
「ノエル!力を弱めろ! こいつらが死んでしまうぞ!」
「ど、どうやって!?」
初めての能力使用に、焦りながらもノエルは目を閉じる。
(落ち着いて……気持ちを静めれないと……)
――気持ちを沈めると、水の牢屋がすっと消えた。
空気が流れ、辺りは再び呼吸できる空間に戻る。
「ぶはっ!ぜぇ、ぜぇ……っ。な、何をした……!?」
床に倒れ込む傭兵が、恐怖に震えながらノエルを見上げた。
「お前らに、もう勝ち目はない」
エヴィリオが一歩前に出て、冷たい瞳を傭兵たちに向けた。
「星涙の加護は、望んだ者を守り、悪意ある敵意には容赦なく攻撃する。……死にたくなければ、今すぐ手を挙げて、その場で動くな。お前たちは、重罪人として領地の収容所へ連行する」
未知の力に、恐怖を抱いた傭兵たちは次々に手を挙げ、震えながらその場にひざまずく。
「……オルビア。ロープはあるか?」
「は、はい!すぐお持ちしますっ!」
オルビアがあわててロープを取りに走る。
その姿を見たノエルがぽつりと心の中で呟く。
(ん?娼館にあるロープって……絶対、変なことに使うロープよね……)
「……っ、これでよしと」
エヴィリオがロープを使い、傭兵たちを手際よく拘束していく。
「このまま衛兵に引き渡そう。あとは法に従って裁かれるだろう」
「助けて頂き、ありがとうございました……!」
オルビアが深く頭を下げる。
「…すまない……何も出来なかった……ノエルのおかげだな。本当にありがとう。助かった」
エヴィリオの真っ直ぐな感謝の言葉に、ノエルは少し照れくさそうに頷いた。
「それにしても……あの力は、一体……?」
自分でも不思議なノエルが呟くと、
「私もびっくりしましたわ!」
オルビアも感度した様子で続けた。
「――あれは、星涙の加護。神脈の加護の親とも言える存在だ」
「この世界に“加護”という概念が存在する前……すべての始まりに、星涙の加護があった。まさに、この世界の祖だよ」
そう語るエヴィリオの目には、畏敬の念が宿っていた。
「……まぁ、難しい話は置いといて、今日は屋敷で休もう」
エヴィリオが笑い、ノエルに手を差し出す。
「はい」
ノエルも自然と微笑み返し、その手を取る。
店を後にして、二人は並んで歩く。
赤い光は、もうすっかり消えていた。
道すがら、ノエルはふと心の中で呟く。
(……なんだか私、すごい力を持っていたみたいです)
そう思いながら、彼女は初めて自分の中に宿る“力”の重さを知った。
――だが、その力の本当の意味と使命を知るのは、まだ少し先のことだった。
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次回投稿は月曜日になります。
個人的にはかなり自信作の作品です笑
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